4ー2

 途中司はまたバランスを崩しながらも利之の近くまで来ると、


「もう、その辺で座ってもいいんじゃない?」


 と利之に言われ、司はそこに軽く座るのだ。 そうさっきは思いっきりベッドに乗っかってしまったという事もあってスプリングが沈みバランスを崩してしまったという事があったから今度はそっとベッドのスプリングの上へと降りたという事だろう。


「これも、柔らかくて揺れる?」

「これも柔らかい? もしかして司はベッドも知らない?」

「うん。 だって、私が普段使っているのはこんな柔らかい物ではなくてぺったんこな布団だからな」

「あ……」


 その司の言葉できっと直ぐに利之の頭の中でその布団のイメージが沸いたのであろう。 納得したような声を上げたのだから。 そう昔話や昔のドラマなんかは確かに布団が司が言うようにぺっちゃんこだったのかもしれない。


「まぁ、司が居た世界から、とりあえず、この世界というのは約百五十年後の世界であって、その間に日本の文明というのは変わっていったって事になるんだよね? 家の造りだって変わって来ているのだし、お風呂だってビルだって何もかもこんなにも違うんだから人間って凄いんだなーって改めて思うよ。 テレビだって司の時代にはなかった訳なんだから、今僕がやってる役者なんて仕事もなかった訳だしさ。 テレビが出来たのはきっと第二次世界大戦の後位にあったオリンピック前後の時代だったかな? そこら辺から俳優っていう仕事も出来た訳だしね。 そう考えるとやっぱそれぞれの時代で生きて来た人間って凄いんだよね。 俳優っていう仕事は確かに周りの人達にちやほやとされて有名になれるもんだけど、何かを作って来た人とか……いや、その時代を生きて来た人達っていうのはさ、次の時代へと引き継いでいるのだから誰しも有名人だと僕は思うんだな。 だって、人間は誰もかれも頑張って生きていってるもんじゃない? そして必ず未来の為に役に立ってるんだからさ、だから生きている人間っていうのは誰もが主人公だって思ってるしね」


 そう利之は一人で熱く語っていたのだが、利之の隣りでベッドの上で猫のように丸くなって寝てしまった司に目をパチクリとさせながら、軽く息を吐く利之。 それは決して呆れたようなため息ではなく、仕方ないか……というため息だったようだ。 そう司は今日ここに初めて来て本当に疲れてしまっていたのであろう。


 利之だってもし司と同じ立場になって気付いた時には知らない所で、訳がわからなくなってしまっていたら変に神経とか体とか頭とか使っているのだから完全に体全体的に疲れてしまっているのだから。 それに聞いた事がある。 人間っていうのは頭も体も昼間使ってその両方が疲れている時っていうのは眠れるんだという事だ。 だけど、あまりにも疲れすぎていても逆に寝る事は出来ないらしい。


 利之の方はさっき中途半端だった事を頭に思い浮かべながら瞳を閉じる。 アロマの自然の香りに囲まれて寝るのが利之の日課だからだ。




 次の朝、利之はいつものようにアラームで目を覚ます。 起き上がるとコーヒーメーカーをセットする。


 利之はギリギリでは起きない。 時間に余裕を持って起きる人間だ。 きっとこう朝はゆったりとした時間を過ごしたいと思っている人間だからだろう。


 コーヒーメーカーから作られた珈琲を片手に持ち窓際にあるテーブルへと足を運ぶ。 そしてそこから景色を眺めるのが利之の日課だ。


 窓から見える景色は絶景で、遠くには富士山も見えて更に天気がいいと空には絵に描いたようような青空が広がっているのだから気持ちがいい。 決して同じ空というのは二度と無い。 毎日毎日景色というのか天気というのは、変わるから毎日飽きないからこそ、ここからずっと空を眺めている事が出来るのであろう。


 高層ビルに住んでいるのだから、階下に見える街並みは小さく見える。 地上で建物を見るとあんなに大きく見えるのに高い所へと来ると本当に小さく見えるのだ。


 そんな優雅な時を過ごしていると、急にこの部屋に司の大きな声が響き渡る。 その大きな声に思わず珈琲を吹き出しそうになってしまった利之だったのだが、どうにか持ち堪え司の方へと視線を向けると、

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