ー過去の人物とのお風呂ー3ー1

 きっと司からしてみたら、これからどうしたらいいのか? っていうのを利之に聞きたかったのかもしれない。


 そう司に言われ急に慌てたように顔を上げる利之。 その先にあったのは司のドアップで思わず目をパチクリとさせ見上げたままでいる。


 そう利之がそんな表情になってしまったのには、どうやら理由があるようだ。


 さっきまで司は何で固めていたのかっていうのは分からないのだけど、髪はきっちりと固められていた。 だが今は髪を洗った事によって、それが落ちてしまっているのだから髪の毛だってサラサラというのか、もう完全に元の姿になっているとでも言うのであろうか、その姿がなんとも凛々しく見えてしまったからだ。


 髪の毛を固めている事によって短髪に見えていたが、司の場合には髪を洗うと、それが落ちてしまいショートヘアー位までになったようにも思える。


 とりあえず利之はそんな司の姿に心を一旦落ち着かせると、


「僕が洗っている間、ここに浸かってる?」

「え? あ、はい……」


 そう言って司と利之は交代で浴槽へと入り、そして利之の方は浴槽から上がるのだった。


 利之は浴槽から上がると早々に頭からシャワーから出るお湯を浴びる。 いつもは頭から洗うなんて事はしないのに今日は頭からシャワーを浴びる事にしたようだ。


 確かに司の事を連れて来たのは利之自身だ。 でも何で利之は司の事を連れて来てしまったのかが未だに分からない。 最初会った時から何でか無意識に利之は司の事を追い掛けてしまっていた。 司が逃げたから? なんかそういう訳でもないようにも思える。 だけど今は他に司を追い掛ける理由なんて事は見当たらない。 しかも逃げる司を必死になって追い掛けてしまっていた。 それから気付いた時にはマネージャーにまで嘘を吐いて、家まで連れて来てしまっていたのだから。


 とりあえず利之は頭を洗い背中越しにシャワーを浴びてさっぱりし顔を上げると、どうやら視線を感じたらしく、その視線を感じた方へと振り向く。 すると司が利之の事を見上げている姿が目に入って来た。


「ん? ……ん!? ……へ? 何!?」


 と利之は変な声を上げてしまっていた。 だってそうだろう。 ずっと司に利之が洗っている姿を見られていたのだから、人間というのは、そんな訳の分からない反応をしてしまうに決まっている。 今利之は俳優として演技している訳ではない。 完全にプライベートな空間なのだからこれは演技ではなく本気の仕草だという事だ。


「見る所なかったから?」

「あ、うん……」


 でも流石に同性にも裸を見られているっていうのもなかなか恥ずかしいもんだ。 とりあえず今回、司とお風呂に入ったのは仕方がない事。 だって司が今のお風呂に入った事がないのだから使い方を教える為に利之は司と一緒にお風呂に入ったのだから。

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