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「もし、本当に君がそういう事情なら、その方がいいんじゃない? だって、この時代の事分からないって事だろ? もし過去から来た人間なら、お金の通貨とかも違うんだろうし……あ! 通貨!」


 そう利之は自分が言った言葉ピンっときたのか、


「君はきっと大人なんだからお金位は持ってるんだろ? ちょっと、そのお金見せてみてよー。 そしたら、いつの時代のお金か分かるんじゃないのかな? そう! それに例え僕がその通貨の時代が分からなくても、今は鑑定して売り買いが出来るお店があるから、そこに持って行けば分かるんじゃないのかな? まぁ、今日はもうマネージャーが僕の所に来てしまうから、無理なんだけど……。 あー、ま、いいや、そういうのは後々……って、事で、とりあえず名前位は教えてくれないかな?」


 とりあえず利之の目の前にいる人物は何となくだが、分かって来たようにも思えるのだから困ってる人間には手を差し伸べる利之。 それに本当に利之の推理通りに昔の時代から来た人間なら本当に泊まる所さえも家さえもない事になるだろう。 その目の前にいる人物は暫く途方に暮れるしかない。 なら手を差し伸べて上げるのは人間として当然だ。


「私の名前は……:福富 司(ふくとみ つかさ)」

「じゃあ、司でいい?」

「ああ、うん、それでいい」


 まだきっと司は不安なんであろう。 流石に声までは震えていないのだけど、笑顔にならない所や未だに視線を合わせてくることがない事からすると、そういう事なのかもしれない。 考えてみればそういうもんだ。 いや寧ろ利之の場合にはついこの間、司と同じ様な事を演じていたのだから何となく分かったという所なのかもしれない。 自分が急に過去の時代に行ってしまったのなら、何が何だか分からない状態になるのだから不安になる。 それはどの時代の人間であっても同じ事なのだから。 例えそれが外国に行った時にも同じような事が起こるのだから。


 しかしドラマや漫画ではないのだから、過去の人間が今の時代に来てしまうって事は現実的にはあり得ない話。 周りに話す必要はないのかもしれない。 まぁ、もしかしたら隠す必要もないのかもしれないけど、利之の場合には有名人であって利之の家に誰かが入るのは週刊誌ネタにされてしまうのは勘弁願いたい所だ。 それで司に火の粉が飛んだら余計に心を開いてくれなくなってしまう上に週刊誌やマスコミが黙っちゃいないだろう。 だって過去の人間が現代へと来てしまっているのだから、それこそスクープとしてはいいネタになる。 視聴率的にも売上的にも上がるに決まっているのだから。 それならこれから先、司の事は世間にはバレないようにしておくのが無難なのかもしれない。 そう利之が決めた直後だっただろうか、


「利之……こんな所に居たのか?」


 そんなホッとしたような利之のマネージャーの声に、利之は背後にいるマネージャーの方へと振り向き、


「あ、ああ、まぁ……」


 と返事するのだ。


「さあ、帰るよっ!」

「分かってるって……」


 利之のマネージャーである:中田 千聖(なかた ちひろ)が利之の手首を取ると歩き始める。


「あー、ちょ、ちょっと待ってくれないかな?」


 利之はその言葉と共に千聖に静止を求めると、千聖は視線を利之の方へと向け、


「友達を家に連れて行きたいんだけど」


 きっと一般人であれば、ここで言葉にどもりとか出てしまうのかもしれないのだが、利之の場合には流石役者をやってるだけあるのであろう。 こう嘘を吐いているという仕草や言葉ではなくすんなりと出て来ている。 気持ち的に今の利之というのは、演技も入っているという事だろう。


 利之の向こう側に見える人物に首を傾げる千聖。


「……へ? 誰? 利之の友達って?」

「中学時代の友達だよ」


 その質問に普通の人なら嘘を吐いている事になるのだから視線を逸らしてしまうのであろうが、利之の場合には視線を逸らさずにしれっと答えるのだ。


「あ、そう……なら、いいか……」

「……って、どういう事!?」

「とりあえず、今の君は売れっ子の俳優な訳……だから、女性なら週刊誌とかにスクープされたら色々とめんどくさいのかもしれないけど、男性なら平気かな? って……」

「あ! そういう事ねぇ」


 そういう事なら良かったと利之は思っているのであろう。


 利之はマネージャーからの許可も貰って安心したのか、とりあえず司の事を自分の家に連れて行けるようになったようだ。


 利之は司の近くまで行くと司の手を取り、引っ張ってマネージャーと一緒に車へと向かう。

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