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 やっぱりこの袴姿の人物は変だ。 この時代においてスマホの事を知らないなんて事は、ほぼあり得ないのだから。


 利之はその人物へと近付くと、スマホを見せながら説明を始める。


「これは、電話でもあるのだから通話する事も出来る物なんだよ。 知ってる?」


 袴姿の男性は利之の説明に頷きながらも、こう未だに首を傾げてしまっていた。


「……電話って?」


 その質問に利之はその袴姿の男性の方へと目を見開いたまま顔を向けるのだ。 例え仕事で役者をやっていても今はプライベートな時間なのだから素直に驚く時には驚く。 笑う時には笑うという所であろう。 逆にプライベートの時間というのは自分に素直な時間なのかもしれない。


 電話の存在さえも知らないというのはおかしくはないだろうか。 スマホは知らなくても流石に今の時代、電話は一家に一台の時代で連絡を取る手段なのだから、電話を知らないというのはよっぽど家庭に電話回線を繋げる事が出来ない所に住んでるのか。 家庭にお金がない事情があって回線を繋ぐ事が出来ないのか。 それとも他に事情があるのかもしれないのだが、それでもやはり電話を知らない人はいないだろう。


 そこで利之は少し考える。


 さっきから利之からしてみたら普通の事しか、この人物とは話してはいない。 だけどこの人物は何もかも知らないように思える。 そう日本語ではあるのに、物に関しては何か通じてない様に思えるのは気のせいであろうか。 そして何よりこの袴姿でいるのが完全に違和感でしかない。


 暫く考えてみた利之。 そうだ、ちょっと前にやったドラマでタイムスリップしてしまい自分が昔の時代に行ってしまった話をやった事を思い出す。 その時代いうのは大正時代だっただろうか? その時代の衣装が袴姿だった。 もしかしたらと思うのだが、その袴姿の人物はそのドラマとは逆で昔の時代から今へとタイムスリップしてしまったのではないだろうか? だがそれはまだあくまで利之が推理した事であって確信ではない。 なら利之からその人物に質問していったら、それが確信になるのかもしれない。


 そう考えると利之は早速その人物に質問を始めるようとしただが、利之のスマホが鳴り出す。


 利之は仕方なくスマホ画面に視線を向けると、どうやら電話を掛けて来たのはマネージャーで、利之は仕方無くその電話に出る。


「はい……」

『利之……何処にいるの?』

「あー、それが……ちょっと僕でも分からない場所っていうのかな?」

『……って、どういう事!? 急に撮影現場からいなくなっちゃって……あー! もう! GPS機能使って、今、利之がいる場所に向かうからそこで待ってて!』


 そう言って利之のマネージャーは電話を切るのだ。


「ま、そういう事だよね」


 利之は今のマネージャーからの電話に溜め息を吐くと、今度はその人物の方に視線を向けて、


「どうやら、マネージャーが迎えに来てしまうようだから、話は僕の家に行ってからにしようか? 僕の予想なんだけど、君はこの時代の人間じゃないみたいだよね。 だからここら辺に家がないじゃないかな? そしたら、君は余計に色々と困ると思うのだけどな」


 利之は立ち上がって腕を組むと、さっき自分の中で整理した事を、簡単にではあるのだが、その袴姿の人物に説明し始める。 そして右手を少し上げて人差し指を立てると何処かの刑事が推理するかのように、言い始めるのだ。


「君とはちょっとしか話してないのだけど、スマホや電話の事を知らなかった事だし、なんて言ってもその君の袴姿だよね。 最初に会った時からその姿だけは違和感があったんだ。 だって、君だって気付いていただろ? 君からしてみたら周りに居る人達の姿を見て袴姿じゃないって事がさ」


 利之がそこまで一方的に自分が思った事を話していると、その袴姿の男性は目を見開きながら利之の事を見上げるのだ。


 そうその反応が、利之が言ってる事、そのものという事なのであろう。 そしてその人物は暫くしてから頷いたのだから。


「……だろ? ならさ、やっぱ、今日泊まる所ないって事になるんじゃないのかな?」


 そう言って利之は再びその場にしゃがみ込み、話を続ける。

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