第12話自警団ジャック(1)

 どこだ、どこだ。


 ここはどこだ――。


 ジャックはケガをした腕を庇いながら森の中で仲間たちを探し歩いていた。


 あのとき、奴に俺の攻撃が当たれば……、こうして皆と逸れることもなかった。


 こんなはずじゃなった。


 俺は、まだやれるのを証明したかっただけだ。


 だからあのとき、俺は一人でヤツに襲い掛かった。


 だが、逆にヤツの爪で、俺は腕を負傷してしまった。


 それほど奴は凶暴な魔物だった。片目をつぶされ、人間に恨みを持つ魔物の大熊。


 元々は普通の熊だったが人間に片目をつぶされ、人間に恨みを持ち、瘴気によって魔物と化した。

 額の真ん中に大きな目を持ち、口は裂け、人間ばかりを襲う魔物。


 その一つ目大熊の情報が森に現れたと自警団に寄せられた。そうして自警団から討伐隊が組まれるようになった。自警団所属の俺と相棒のアントニオ、そして他の仲間と共に森へ向かった。


 俺は先頭を走った。


 奴に致命的な傷を負わせ、俺の力を仲間たちに見せつけるつもりだった。


 俺が討伐隊に選ばれる数日前、自警団のトップである団長に相棒のアントニオだけが呼びだされた。


 団長は言った。

『今回はジャックの手を借りないと魔物退治は難しい。だが、ジャックもそろそろ引退を考えないといけない頃だろう』


 扉の前で待機していた俺はショックを受けた。


 嘘だろ……、俺はまだまだ動けるし、皆の役に立つ。 

 なぁ、アントニオ、言ってくれ。

 俺の相棒、ジャックはまだ自警団に必要だ、そう言ってくれ。


 だが、俺の思いに反して、アントニオはこう言った。

「これをジャックの最後の仕事にします。必ず魔物を仕留めてみます」


 俺はショックで、その場を離れた。


 そうして俺は森で魔物の大熊を誰よりも早く見つけ、仲間を待たずに先制攻撃をした。いつもの俺なら単独で攻撃などしなかった。まずは仲間の元へ行き、皆と一緒に魔物を追い詰めて攻撃をかけていた。

 手柄を立てたかった。


 俺は、まだいけることを証明したかっただけだ。


 だが、魔物熊の爪で反撃をくらい、腕にケガをしてしまった。あとから来たアントニオと仲間たちは馬から降り、剣を構えたが、魔物は森へ逃げ込んだ。


 アントニオはケガをした俺を気遣って言ってくれた。


「ジャック、必ず迎えにくるからな」

「気にするな。先に行け」


 そうしてアントニオは、他の仲間と同じように魔物を追いかけ、森の奥へ向かった。


 俺はケガをした腕を庇いながらも、皆の後を追った。


 だが、すでに仲間とはぐれて随分と時間が経っていた。


「俺のせいで、皆に迷惑をかけてしまった」


 やはり、これまでか、自警団を引退しなければならないのか。


 気づけば、森の空気が違っていた。


 ――ここはどこだ?


 警戒しながら、周りをみて、一歩ずつ慎重に歩みを進める。


「この森は、俺たちがいた森じゃない」


 魔物が出現した森はうっそうとした森だった。これほど太陽の日差しが入るような明るい森ではなかった。


 それに魔物たちの気配も匂いもしない。


「これは食べ物の匂いか……」


 鼻のいい俺は、すぐさま匂いに気づいた。


「こんな森の深くに人間がいるとは信じられん……」


 俺は戸惑いながらも、匂いのする方向に向かった。

 赤い屋根の小屋が見える。煙突からは煙も出ていた。


 小屋の前でコック帽をかぶった男が独り言をいいながら、看板のような物を店の前に出していた。

「今日の料理はワンプレート。オリーブの実フルコース」


 アレは人間か?


 こんなところに人間が住んでいるなど信じがたい。


 それに風上にいる奴から、まったく匂いがしなかった。


 こんなことは初めてだ。匂いがしない人間などいない。


 もしかすると、アレは人間に化けた魔物じゃないのか……。


 そうだ。人間に化けて、腹いっぱい料理を食べさせ、まるまる太った人間を食らう魔物かもしれない。

 これは大変だ。

 だが、どうする?

 あのような高度な知恵を持つ魔物など、俺一人ではどうにもできない。

 熊の魔物一匹に、俺は一撃を与えることさえできなかったのだ。


 仲間を呼びに行かないと……。

 そう思い、俺は引き返そうと後ずさりした。


 パキ――。


 俺が踏んだ木の枝が折れた。


 くそっ、ケガをした腕のせいで注意力散漫だ。


 その音に、コック帽の人影が動く。


「あれ? 誰かいる?」


 うぅうううう。

 見つかってしまった。どうする。逃げるか。


 いや、今はダメだ。

 バレてしまった。


 そうだ、隙をみて逃げればいい。


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