第2話白魔法使いマルク(2)
店主の言っているサスペンスが何なのかよくわからなかったが、とにかくハラハラ、ドキドキを克服するためにこの料理を食えということなのだろう。
しかし……、この不気味な料理のどこが危機を克服するのかわからない。だが自分よりも、腕も経験もある店主が言うことなのだから……。
「はい、ですよね……」
そう応えるしかなかった。
青いドリア、チャーハンなど、初めて聞く言葉ばかりだったが、店主の口ぶりから誰もが当たり前のように知っているような感じがしたからだ。
マルクは冒険者として、白魔法使いとて、未熟な己を恥じていた。
知識も技術もない自分が、パーティの足手まといになっているのではないかと、いつも不安を抱えていた。
だが、そんなマルクを余計に混乱させるようなことをまた店主は話し出したのだ。
「ちょっと前に流行ったでしょ、ダムカレーってさ。ダム湖を見立てたカレーライス。貯水池をカレー、右側に白ご飯でダムをつくって、ダム湖に見立てたカレーライス。それをパクってさ、いや、今のは言い間違い、オマージュだよ。そういえばさ、知ってた? パクリの語源って大きく口をあけて、ぱっくりと食べるところからきているんだよ。だからさ、早く食べてよ。サスペンスの崖を見立てた海の青いソースドリアと崖の上のチャーハン」
よくわからない言葉や知識をスラスラ話す店主に、いったいどれだけ冒険者として豊富な経験や知識があるのかと、マルクは尊敬の念をいだきながら、
「い、いただきます」とスプーンで口に入れた。
青いドリアの優しい味と、チャーハンの奥深い味に、
「おいしいです!」
とマルクは正直な感想を述べていた。
見た目と違って、とてもおいしく、マルクは残さず、食べ終わった。
「ごちそうさまでした」
すると、店主がにこりと笑う。
「行ってらっしゃい」
「え? あ、あの」
次の瞬間、マルクは元のいたダンジョンにいた。
目の前には、仲間の魔法使いのミリアと剣士のオーウェンがいた。
「マルク! もう心配したんだから」
「大丈夫か、マルク」
二人は幼馴染で、いつも気の弱いマルクをなにかと昔から気遣ってくれていた。
そんな二人に恩を返したいと、マルクも二人の後を追うように冒険者となり、後方支援の白魔法使いを選んだ。だが、ダンジョンではビクビク、おどおどして、トラップに引っかかり、足を引っ張ってばかりだった。
「ごめん、またトラップにかかって」
「しょうがないわね、まあ、誰だってミスはあるわよ」
「ああ、こうしてマルクが無事に戻ってきてくれただけで良かった」
そう言ったオーウェンの腕をみて、マルクは気づいた。
オーウェンの腕から血が流れていた。
「その腕はどうしたの、オーウェン?」
よく見ると、切り傷のあたりに石化も始まっている。
「大丈夫だ、マルク。ちょっとコカトリスの爪にやられただけだ」
「ごめん……。僕がいなかったせいで」
「マルクの白魔法でオーウェンの治療を」
ミリアの言葉にオーウェンが頭を振る。
「いや、いいんだ」
コカトリスの爪には石化の毒がある。
「一度、街へ戻ろう」
オーウェンの言葉にミリアも
「うん、そうだね……」と頷いた。
初心者の白魔法使いのマルクには無理なことなのだとミリアも気づいたようだった。
「ちょっとまって。僕、やってみるよ!」
マルクが言った。
「でも、マルクの魔法じゃ……」
ミリアとオーウェンは不安げな表情を浮かべる。
だが、マルクは決めていた。
この危機を乗り越えるには、うん、あの魔法だ!
「浄化!」
マルクが声を上げると、白や青、茶色い光がスチュアートの腕でくるくる回り始めた。
スチュアートの腕の傷が塞がると、石化も治っていく。
「腕が治っている!」
オーウェンが声を上げると、ミリアも驚いた。
「ほんとだ、治っているよ! すごいよ、マルク、どこでそんな治療魔法を?」
「ダンジョンで二人とはぐれた後、不思議な料理店のおじさんから料理をごちそうになったんだ。その料理に使われている、青いスライムと土のゴーレムには、再生力があることを教えてもらった。だから青魔法と土魔法、それに白魔法と合わせたら、どうにか出来るかもって」
オーウェンとミリアは呆気にとられた表情で、顔を見合わせていた。
いつも気弱で、臆病なマルクにとって、ダンジョンでトラップにひっかかり仲間たちと別れ別れになって、見知らぬ食堂に入るなど、二人には驚きだったからだ。
だが、そのおかげでマルクは冒険者として得たものがあった。
「なんだか変わったみたいだね、マルク」
「そうだな、ちょっと離れていただけなのに急に大人になったみたいだ」
「そうかな……、だったら嬉しいな。これからも僕、頑張るよ!」
そのときだ、三人の前にモンスターが現れた。
オーウェンが剣を構える。
「二人とも、準備はいいか?」
「もちろんだよね、マルク」
自信に満ちた表情でマルクが応える。
「うん、僕はもう大丈夫!」
おわり
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