不思議な異世界料理店
チャららA12・山もり
第1話白魔法使いマルク(1)
「あの……、これは?」
前に出された皿をみて、思わずマルクは店主に聞いていた。
目の前のカウンターテーブルに置かれたものは、見たこともない不気味な料理だった。
おどろおどろしい青いドロリとしたソースの隣には、茶色く焦げたようなご飯。
見習い白魔法使いとして経験の浅いマルクであっても、この見た目から、やすやすと手をつけることはできなかった。
これ……、毒じゃないのかな?
出された料理をじっと見ているマルクに、コック帽をかぶったぽっちゃり顔の店主がカウンターを挟んで話し始めた。
「ハラハラ、ドキドキを回避するためには、まずは慣れることだよね。だから、サスペンスドラマを参考にしたの。ほら、サスペンスで犯人が最後に行く場所と行ったら、青い海のある崖でしょ。名付けて、海の青いソースドリアと崖の上のチャーハン」
「……?」
「お客さん、リアクションうすいね。この料理もお客さんの反応ぐらい、見た目はあっさりしているけど、すごく手間がかかっているんだから」
……うーん、この不気味な料理のどこをどう見れば、見た目があっさりしているだろう。
マルクはそう思ったが、声に出さず、目の前の料理をマジマジと見ているばかりだった。
一向に手を付けないお客に
色白で赤ちゃんのようなぽっちゃり顔の店主と目があった。
「お客さん、料理の説明が欲しいんでしょ。わかる、わかる。そうやって食材や料理人の苦労話を聞きたがる、
通ぶっている……。
なんだかマルクはバカにされているような気分だった。
店主はお構いなく青いソースを指さして、勝手に説明を始めていた。
「この青いドリアはホワイトソースに青い色素を混ぜれば出来上がり。でも、簡単じゃないんだな。なにせ青スライムってさ、弱いわりに少しずつ回復するもんだから、殺さず、逃がさず、抽出するのは苦労したよ」
「スライムから抽出?」
「うん、そうだよ。この青色はスライムの抽出液。でさ、青いスライムをぎゅーっと絞ったら、びゅっと出るんだから」
びゅっと……。
このおどろおどろしい青いソースが、青いスライムから出来ているということを知り、マルクは、完全に食欲を失くしていた。
が、しかし、そんな客の食欲などお構いなしのように、店主の滑らかな口は止まらなかった。
「それよりも、隣のチャーハンでつくった崖を見てよ。チャーハンってさ、家で作るとき、先に卵の中にご飯を入れるか、卵をフライパンに入れてからご飯を入れるか、どっち派?」
「どっち派?」
マルクが聞き返すと、店主が腕を組んで頷いた。
「そうだよね、家でチャーハンを作るときの永遠のテーマだよね。家庭のガスの火力って弱いでしょ。ま、そんなのうちでは関係ないんだけど。ほら、うちのガスの炎はドラゴンだから」
よく見ると、カウンターの向こうにある釜戸の下には赤いドラゴンがひょっこりと顔を出していた。
ド、ドラゴン!!?
マルクと目があうと赤いドラゴンは軽く頭を下げた。
だが、驚いているマルクをよそに、店主は話をつづけていた。
「ドラゴンの炎が強いからって、これは焦がしたチャーハンじゃないからね。うちのチャーハンは、特別な物が隠し味になっているから、この色なのよ」
ドラゴンも気になっているが、マルクは店主の説明を受けながら茶色いご飯を見た。
これが、チャーハンというものなのか……。
「チャーハンの隠し味は、ゴーレムの粉末パウダー」
ゴーレム!? っということは、もしかしてこの店主がゴーレムを倒したってこと?
ドラゴンを手なずけ、ゴーレムまで倒す実力。
この人は、コックでありながら、凄腕の冒険者だ。
そう思ったマルクは一気に店主を見る目がかわっていた。
初心者の冒険者、白魔法使いのマルクは、ダンジョンでトラップを踏み、仲間とはぐれ、見知らぬ森に飛ばされていた。
青い空に、白い煙が上っているのを目印に、この赤い屋根の食堂をみつけた。中を覗くと人の好さそうな、ぽっちゃり店主が手招きして、何かに引き寄せられるように、マルクは、カウンターの席に座っていたのだった。
「でさ、ゴーレムって、殴るとすぐに砂に成っちゃうし、時間がたつと再生するんだから、面倒だよね」
ゴーレムを一撃で倒せるようだとわかると、ますますマルクは店主を見る目が変わっていた。
「どうよ?
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