第17話 夏至祭2
私たちは、神殿を出て、王都中央の広場へ向かって歩いていた。
からりと晴れたいい天気で、絶好のお祭り日和だ。
どの建物もあちらこちらに花や木の実で作ったリースが飾られ、夏至祭を賑やかに彩っている。
子連れの家族や恋人たちなど、老いも若きも王都中の人々が、年に一度の夏至祭を楽しもうと繰り出していた。
そんなお祭り特有の華やかな雰囲気に包まれながら、人の流れに任せて歩いていくと、あっという間に広場に到着した。
「わあ! すごい人出ね!」
「今日は王都中から人が集まりますので。エル様もレティシア様もはぐれないようお気をつけください」
クロードは事前の打ち合わせ通り、エルネストをエル様と呼んでいる。
今は男の格好だし、こんなに人が多い場所で「聖女様」なんて呼んだら大変だものね。私も様付けなのは、少しこそばゆいが、今だけだから我慢しよう。
「お腹が空いたな。何か食べ物を探そう」
エルネストも、男の格好ではあるけれど、いかにも身なりのよい服装なので、普段よりは丁寧な言葉遣いになっていた。
周りからも「あら、どこの貴公子かしら」「声をかけたいけど無理ね」なんて話す声が聞こえてきて、やはりエルネストの美貌は目立つようだ。身分の高そうな格好をしてきてよかった。
「では、あちらに飲食の出店が多い通りがありますので、行ってみましょう」
クロードは騎士として、夏至祭の巡回の仕事をしたこともあったそうで、夏至祭に詳しいらしい。
クロードの案内で出店の並ぶ通りに来てみると、食欲を誘う美味しそうな匂いが漂ってきた。
「パンに串焼きにフライに果実水に、美味しそうなものがいっぱい!」
「串焼きが美味しそうだな」
「それなら、串焼きを買いましょうか。あ、あのバゲットが焼き立てですって! あと、あそこのベリータルトも美味しそう!」
「はは、そんなに食べ切れるかな」
お祭りの出店とは、どうしてこうもワクワクしてしまうのだろう。せっかく上品な格好をしているのに、つい子供のようにはしゃいでしまう。
エルネストも、お祭りなんて初めてだと言うから、もっと騒がしそうにするかと思っていたのに、私よりずいぶん落ち着いていて、少し悔しい。
「私ばっかり浮かれてるみたいで恥ずかしい……」
「そんなことない。俺だって楽しんでるよ」
「本当に?」
「はしゃいでるレティを見るのが楽しい」
「もう!」
結局、出店でバゲットサンドと串焼きとベリータルトと果実水を買って、広場にあった休憩用のテーブルでいただくことにした。
昼食にしては少し遅めの時間だったので、それほど混雑しておらず、すぐに買えたので助かった。
私は椅子に腰掛け、まずはレモンの果実水で喉を潤す。
「……サッパリしてて美味しい!」
「この串焼きも最高だ」
エルネストはさっそく串焼きにかぶりついている。厚切りベーコンの串焼きは、塩胡椒のみの味付けだが、見るからに肉汁たっぷりで美味しそうだ。
クロードは、ベリーソースに漬けた鶏肉の串焼きを食べていて、どんな味がするのか気になってしまう。
「……そういえば、歌姫大会はいつやるんだ?」
「夕方にやるみたいよ。もう参加受付は済ませていて、私の出番は最後なの。大会が始まる少し前に集合しないとだから、行ってくるわね」
「エル様、あそこにある舞台で歌うんですよ」
クロードが、広場の中央辺りに設置された舞台を指差して言った。
舞台は赤絨毯がひかれ、たくさんの花で飾り付けられていた。
「すごく目立つ場所で歌うんだな。大丈夫か?」
「ちょっと緊張するけど、せっかくだから楽しんでくるわ」
「何を歌われるんですか?」
「ふふ、内緒よ。今日にぴったりの歌を歌うから、楽しみにしてて」
私は唇に人差し指を当てて、にっこりと微笑んで見せた。
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