第12話 1ヶ月健診

 私の健診が終わってから、義母は家に泊まることはなくなる。

 仕事もあるので、ここから通うには負担が大きい。なのでこれからは自分と夫で頑張る。


 それでもたまに大量のご飯を作って届けてくれる。

 それは本当に助かる。


 直母の練習は、やっぱり全然上手くいかないので、段々と時間も回数も減ってきた。


 この頃から、私はかなりいっぱいいっぱいになり、余裕が無くなってくる。


 ネット検索も全くできない。着信がある時しか携帯を触らないくらい全く。


 そして添い寝をしている時、ものすごい不安に襲われる。


 誰かが、

「この子、返してください!」

と言って、赤ちゃんを奪いに来るんじゃないかという不安。


 私は出産の時に全身麻酔で意識が無かったので、産んだ実感が無い。

 産まれた瞬間の顔を見てないので、この子が本当に私のお腹にいた子なのか、確信が持てない。


 本来なら誰よりも先に赤ちゃんの顔を見るはずなのに、私は誰よりも遅いご対面だった。


 OPだって、上手くいかなければミルクにしたっていいのだ。

 別に私じゃならないということもない。


 そう、私は“母”じゃない。


 一般的に、父親がなかなか実感が持てないとよく聞くけど、私はその父親側である。そっちの気持ちがよく分かる。


 今思うとこの頃は、産後のホルモンバランスと、寝不足によりかなり追い詰められていた。


 赤ちゃんの顔が、“100%夫の顔”と皆が言うので、それだけが安心材料だった。


 でもやっぱり自信が持てず、赤ちゃんの扱いも“借りてきた赤ちゃん”というくらい、とってもとっても大事に扱って、抱っこするのもかなり緊張していたくらい。



 出産から1ヶ月が経ち、今度は赤ちゃんの一ヶ月健診をする。

 今回は母乳外来は受けなかった。


 赤ちゃんはすごく順調に育ってくれている。

 心配な事も先生に伝えたけど、「大丈夫ですよ。」と全部そう言ってもらえた。


 実は、母乳を搾乳することで、良いと思うこともある。


 直母の場合、どれだけ飲んだかを知るには、飲ませる前と飲ませた後に体重を計り、その差で予測するのだけど、搾乳やミルクの場合は哺乳瓶で飲ませるので、正確な量が分かる。


 赤ちゃんはまだ小さく、哺乳量が安定していないので、飲まないなーと思ったら少し時間を空けてまたあげたりして、足りなくないようにきちんと飲ませていた。


 授乳回数は1日に10回程度で、2~3時間おきにほぼ安定したサイクルで飲ませることもできていた。


 一ヶ月健診で成長曲線に近づいてきていることは、私の自信も少し取り戻させてくれた。


 まあ、相変わらず、

「私の赤ちゃん、返して!」

の妄想には悩まされているけど…。

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