第7話 初めての直母

 搾乳機のおかげで痛みはすっかり消え、量は30mlほど採れるようになる。

 最初のガラス管を思えば、すごい進歩だ。


 でも相変わらず赤ちゃんはNICUで過ごしているので、寂しさを感じてくる。


 お腹の傷も落ち着いてきたので、点滴棒を杖代わりに、ゆっくりだけど歩いて赤ちゃんに会いに行けるようになった。


 なのに、なんか段々と体がおかしいと感じてくるようにもなる。

 体の回復は順調のはずなのに、おかしい。


 産後の食事は流動食から始まり、3分粥、5分粥、全粥、常食と順調に進んだ。常食がまた美味しくて完食するのに、夜中もお腹が空いて仕方がない。食べても食べてもまだ足りないという感じだった。

 でも歩けるようになった頃から、逆にあんまり食べられなくなってきた。

 

 胃痛がする…。


 前回はまだ普通に歩けたのに、歩くのもしんどくなった。


 多分、気のせいか睡眠不足だからだろうと思って、気合いを入れ直す。


 でもやっぱりしんどい。


 産後のホルモンバランスか?


と思っていたら、原因は『術後貧血』だった。


 出産前のヘモグロビン値が10~11くらいで、それでも低い値だったのだけど、この体がおかしいと感じていた時のヘモグロビン値は7を切って6代だった。

 主治医には輸血レベルと言われた。


 でも術後貧血は、一過性の事が多いから、自分の貯血を戻して、経過観察することとなる。


 一生懸命貯めてもらった血が役に立って良かった。


 おかげで次の採血ではヘモグロビン値8を超えたので、大丈夫だと言われた。後は普通に食事を取っていれば回復するだろうとのことだ。


 一安心して赤ちゃんに会いに行くと、いよいよ

「直接赤ちゃんに授乳しますか?」と言われる。


 今までの授乳では哺乳瓶を使って、搾乳して保存してる母乳をあげているのだけど、母乳の分泌量が増えたので丁度いい頃みたいだった。


 おお、とうとうこの日が来たかと、ちょっとワクワクする。


 今だにいろんな線に繋がれているので、抱っこがすごくやりにくいけど、NICUの一画に衝立を立てて目隠しをしてスペースを作ってもらい、椅子に座って授乳枕を膝に乗せ、準備を整える。


 赤ちゃんを乗せてもらい、やり方を教えてもらう。


 赤ちゃんの頭を持ち、口を大きく開けたところでタイミングよくパクッとCKBを咥えさせる、とのこと。


 なるほど…なんとなくイメージはつかめた。


 いよいよ…


言われた通りにやってみる。


 がしかし、何度やっても咥えてくれない。口を閉じて嫌がる。


 頭の角度が悪いのかな?と助産師さんに手伝ってもらうけど、やっぱり咥えてくれない。


 また何度かやってみたら、今度は少しだけ口に入った。お!と思ったけど、全く吸ってくれない。ただ咥えるだけ。


 結局何度やってもダメで、初回のトライは終了した。


 もちろん私はちょっと落ち込むが、助産師さんに「最初はこんなもんです。」と励まされ、明日また頑張ろうと思った。

 そして病室に戻り、また搾乳する。

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