第5話 痛い…!

 出産の時に看護実習生が付いていたけど、産後にもまた違う実習生が私に付いている。

 

 赤ちゃんのいない部屋で、ただOPを搾るだけの私に付いている彼女に、大変申し訳ない気持ちになる。

 なんか自分が、母親劣等生って感じ。


 学生さんは「気にしないでください。」と言うけど、本当は赤ちゃんと過ごす様子を観察したかったろうと思う。

「赤ちゃんがすごく好きなんです!」と言っていた。

 …ハズレくじを引かせてしまったと思った。


 でも彼女には、私にとってすごく有難い存在の方が一緒に付いていた。


 それは、実習を監督する先生。


 物凄く痛がる私のOPを見て、

「搾らせて。」

というありがたい申し出があった。


 でもまたあのメチャクチャ痛い思いをするのか…とつい身構えるけど、それよりも今が物凄く痛いので、楽になるなら…とまな板のコイになる。


 前回のNICUの助産師さんのお陰もあるのか、痛いのは痛いけど、あの時程ではなかった。かなりの量も出た。40分くらいかけて丁寧に優しくしてくれて、また少し楽になる。


 ただやっぱり、時間が経つと母乳が生産されるので、痛みもまた復活する。


 授乳期間中ずっとこんなに痛いんだろうか…。それはかなりしんどいと思った。

 世の中の人は皆、こんな思いしてるのだろうか?私だけ?





 実は私には、搾乳の先輩がいた。


 私がまだ出産してない時、4人部屋で同じ時を過ごした内の1人が、緊急で先に出産になった。


 その子の赤ちゃんも、早産で小さいのでNICUに入り、お母さんが退院してもしばらくはNICUに入院したままになるそうだった。


 それだと、ずっと1人で個室にいるのが嫌だと言って、出産何日か後にまた同じ妊婦部屋に戻ってきた。


 彼女が搾乳をしていたので、カーテン越しだけど、その様子は覚えている。


 彼女は部屋に戻った時には随分搾乳をマスターしてた様子だった。最初の頃のことは分からないけど、部屋に戻ってきた時に『搾乳機』というものを使っていた。

 

「助産師さんは、手絞りの方が良いって言うけど、搾乳機の方が断然ラク。」


 彼女は私に何度かそう話してくれた。


「でもね、ここの助産師さんは何故か搾乳機のこと教えてくれないの。私は前もって知識があったから、自分からお願いしたんだ。」とも言っていた。



 私はその事が頭にあり、いつ助産師さんに搾乳機のことを言おうか、タイミングを図っていた。

 看護実習の先生に搾ってもらった後、そのやり方を自分で真似してやってたら、採れる量も増えたので、遂に話を切り出す。


 この病院では、“手絞り1番”という感じがある。先輩ママの話の通り、助産師さんから「搾乳機使う?」とは誰からも言われない。

 私が「搾乳機使ってみたい」と言ったら、「何で知ってるの?」っていうようなリアクションだった。そして「手絞りが1番いいんだけどね」と言いながら、微妙な感じで一式持ってきてくれた。


 搾乳機と、洗浄用ブラシと、消毒液の入った入れ物と水切りカゴ。


 搾乳機は手動のもので、スプレー容器にラッパのような物が付いている。もちろんスプレーするのではなく、搾乳した母乳がそこに溜まるようになっている。


 ラッパの形の方をOPに当て、レバーを引いて吸い取る。最初は全然上手くいかないけど、慣れたらよく採れるようになるという。


 搾乳した後は、保存用の容器に入れ替えて、搾乳機を分解して洗い、消毒液につけておく。

 1時間経ったら消毒液から上げて、水切りカゴに置いて乾かす。


 この作業を昼夜関係なく3時間置きにするので大変にはなるけど、私はこの搾乳機に期待する。

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