第4話 搾るだけ

 私の仕事は、OPを搾ること。ただそれだけ。


 1ml、2ml、5ml…そんな世界。


 世の中のママ達は、産んですぐから直母で母乳をあげているはず。

 でも、私は数ml。


 情け無い。


 それでも少しずつ、増えてはいる。


 ガラス管から試験管になった。その次は小さな瓶。増えてくると嬉しくなる。


 でも、3時間置きの搾乳って、大変。授乳する普通のママも大変だと思う。


 急に夜中も関係なくOP搾りの仕事なので、気持ちも体も慣れていない。


 眠い…。


 夫が来たら赤ちゃんに会いに行き、繋がれた線を気にしながら、恐る恐る抱っこして、また病室に戻って搾乳する。


 赤ちゃんと過ごすために借りた個室。


 本当は小さい個室を希望したけど、空いてなくて広い部屋になった。

 赤ちゃんと一緒なら何も思わないだろうけど、私1人で過ごすには贅沢すぎる部屋。

 前まで4人部屋でワイワイと楽しく過ごしていたのが余計に今を寂しくさせる。


 本当は1日で赤ちゃんが部屋に来るはずだった。あの最初に面会に行った日、一緒に連れてくるはずだったの。


 でも、「ちょっと気になるところがある」と先生に言われ、待てども待てども部屋には来ない。ずっとNICUにいる。


 理由を聞いたけど、はっきり言ってくれないのも不安を倍増させる。

 せめて分かるように説明してほしい。


 今思い返すと、『呼吸が…』って言ってたような記憶がある。

 赤ちゃんは『Sleeping Baby』という麻酔がかかって産まれた赤ちゃんなので、呼吸の方がなかなか安定しなかったのかな?と思う。


 「心配するようなことではない。」とは言っていたので、それを信じることにした。



 搾乳を始めて数回目くらいから、なんかOPがすごく大きくなってきた。


 そしてどんどん硬くなってきて、物凄く痛くなってきた。

 助産師さんに相談すると

「母乳が作られてるけど、出てこれないから詰まってて痛みが出てるの。腺が開通したら痛みは治ると思うから、とにかく搾乳頑張って。」と言う。


 言われた通り頑張ってみるけど、思ったように出てくれず、痛みがどんどん酷くなる。


 助産師さんに手伝ってもらうけど、痛みはそのまま。

「出ない腺が痛むんだ。」

とまた言われたけど、さっぱり分からない。

 腺て何だ?


 「とりあえず、冷やしてみたら?」と言われて、借りたアイスノンを当ててみるけど、全く効かない。それどころか、極細の針で何ヶ所もチクチクと刺されてるくらいの痛みが出るので、冷やすのはやめた。


 OP痛い。


 OP痛い。


 搾乳痛い。


 訳分からん、痛い。


 何が何でも搾乳はするけど、このままずっとこんなに痛いのか?と不安になる。


 次の日、

「NICUにOPのベテランさんがいるから、見てもらお。たまたま出勤してて時間も取ってもらえたから。」

と言われて、かなりホッとした。これで助かる。


 …と思ったのは、どうやら間違いだった。


 OPには沢山の乳腺と呼ばれる腺があり、その腺が1つでも詰まると炎症を起こしたりして痛みが出るそうだ。


 私は初産婦なので、腺が全部開通してないので、まだ沢山詰まっているとのこと。マッサージで腺を開通させるので、ちょっと痛いの我慢して、と説明を受けた。


 ちなみにこの作業は、普通なら出産前にするものらしい。


 そして開通式が始まる。


 めっちゃ痛い!


 めっっちゃ痛い!!


 めっっっっっちゃくちゃ痛い!!!!!


 詰まってる所の腺を押して、クグッと押し出すように指を強くスライドさせる。それを何度も繰り返す。

 

 すでに硬く腫れてる私のOPは、大きな針で滅多刺しされてるような疝痛が起こる。


 もう1人の人が私の体を押さえ、OPのベテランさんがマッサージする。


 痛い!痛い!!痛い!!!


 こんな痛みは今までに経験したことが無いと言うくらい痛かった。


 正直、トラウマ。


 でもお陰様で、終わった後は半分くらい痛みが減った。


 …なのですが…、


 母乳って、どんどん作られるのです。


 誠に良い事なのですが、少し引いた痛みがまたどんどん増えてくるのです。


 いやー、参った…。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る