第3話 出産後
手術はお陰様で無事に終了した。
心配のあった術前・術中の大量出血は無く、貯血の血が必要ないほどの出血量で済んだ。カテーテル術で挿入していた、血を止めるバルーンが上手く効いてくれたみたい。具体的には術中出血量は1~2L程度とのこと。
本当に大量出血した場合、全身の血が一回全部抜けて、輸血の血と入れ替わるくらいだと言われていたので、少量で済んで本当に良かった。
術後は管理部屋で一晩過ごす。
手術が終わったらすぐ起こされるので、意識があると結構辛い。
麻酔が効いてるから痛みは無いのだけど、喉がカラッカラなのに水が飲めない。
看護師さんに訴えてみたけど、「ダメです。」の一言。
だからずっと我慢したのだけど、でもやっぱり耐え切れなくなって、「うがいもダメですか?」と交渉してみる。
「絶対飲み込んだらダメですよ。」という条件で、うがいをさせてくれた。
うがいをしたら、飲み込まなくても口の中が潤って、随分楽になった。
水って大事。
その後、就寝前に口腔ケアをしてくれて、口の中は少しスッキリした。
よく分からないけど、全身麻酔の時は気管挿管とかするので、喉は乾くらしい。
*
次の日、病室移動となり、さっそく歩かされる。癒着防止の為、動く事が大事とのこと。
この時はもう麻酔も切れているので、相当痛い。ヨタヨタと、時間をかけて歩く。
やっと病室に着いてベッドに腰を下ろし、運んできてくれた荷物を整理する。
しばらくして、夫が病室に来てくれた。少しだけ話して、やっと赤ちゃんとご対面しに行く。
病室からNICUまではかなり遠く、さすがに歩いては行けないので、車椅子で連れて行ってもらう。
この時既に午後になっていた。ちょうど丸一日経ったくらいでやっと会うことができた。
初めて見る、私の赤ちゃん。
呼吸管理やバイタルのための線がいっぱいくっついている。
テレビで見る、産まれたての赤ちゃんは、シワシワで赤黒かったりするけど、丸一日経った赤ちゃんは、とても綺麗だと思った。
でも…実感が無い…。
そう、全身麻酔で意識が無かったので、自分で産んだという感覚が全く無いのだ。
この子は、私の子…だよね?
お腹の中にいる時、エコーで見てた顔。何となく見覚えがある。でも、胸を張って堂々と「この子、私の子!」って言う自信が無い。
この感覚が、しばらく私を不安にさせた。
*
数日は術後の生活を送っていたので、赤ちゃんに会いに行く意外は、ベッドで寝るだけだったけど、ある日助産師さんがやってきて、
「さー、母乳、出していきますよ。」
といきなり言い出す。
本当はいきなりではない。
普通の帝王切開ならもうとっくに始めてる。
でも『産んだ』という感覚が抜けてる私には、OPというものも抜けていた。
「え?えー?もう?」
と戸惑う私を意にも介さず、
「もう出産したからね。それに、産後日にち経ってるから早く始めないと。」
と準備を始める。
「二光さんは陣痛来たらダメだったから、出産前のOPの準備出来てない。頑張らなきゃね。」
助産師さんの話では、普通なら出産する前に、OPマッサージなどして、母乳を出す準備をするそうだ。でもOPを刺激すると陣痛を引き起こす恐れがあるので、触ることができなかったと言う。
ー初耳。
同部屋の子達も誰一人そんなことしてなかったので、へぇーという感じ。
助産師さんは私のCKBを揉んだり伸ばしたりしてマッサージする。
すると、何やら黄色い汁が出てくる。
え?何この黄色!
かなりびっくりして、私の母乳が汚いのかと思った。
「初乳は、実は黄色なの。これが大事なの。ミルクで育てる人でも、ほんの少しだけでも、この最初の初乳だけは飲ませた方が良いんだよ。早産の子は特にね。赤ちゃんにとってすごく大切な免疫とかいっぱい入ってるの。」
そう言って、すごく細いガラス管のような物でほんの僅かな初乳を吸い取ってくれる。
細いガラス管って、イメージでいうと、実験道具の『毛細管』を太くしたくらいのもの。
「こんなちょっこり、どうやって飲ませるんですか?」
たった一雫しかないくらいの量を、飲ませるなんて不可能じゃないかと思った。
「ミルクに混ぜたり、綿に含ませて口に当てたりして舐めさせるの。おやつ代わりにもするよ。」
助産師さんは、初乳を時間をかけて少しずつ丁寧に集めてくれた。
そして私にもやり方を教えてくれる。
「術後でまだお腹痛いと思うけど、2時間から3時間おきに母乳を絞ってね。もちろん、夜中も。
赤ちゃんはしばらくNICUで経過観察するから、まだ直接OPあげられないからね。搾乳、頑張って。」
次からは、自分でOPを絞る。
助産師さんがやっていたのを思い出しながらやってみるけど、全くと言っていいほど出てこない。なのに、OPも手もベタベタになってくる。ちゃんと採取出来てないのだ。
私はすごく焦る。
すごく大事な初乳なのに…。
あれこれと格闘してたら、1時間ほど経っていた。CKB、痛い。
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