第2話 入院生活
入院生活は…快適です。
何と言っても、食事が美味しい。
他の病院で何度か入院した経験があるけど、他のどの病院よりも美味しいと思った。
多分、出汁。それと、冷凍ではない新鮮な野菜。美味しいお米。
自分で作って食べるより、よっぽど赤ちゃんにとって栄養たっぷりの食事だと思った。
毎日心音をとってくれて、お腹の赤ちゃんの状態を確認してもらえるし、すぐそこに助産師さんやお医者さんがいるので、どこにいるよりも安心できる。
そして、とってもラッキーだったのは、4人部屋の同室の子達がとっても良い人だったこと。
私がいた部屋は妊婦部屋と呼ばれ、妊婦だけが集まる部屋だ。
皆初めての妊娠で、同じメンバーで1ヶ月程過ごし、毎日お泊まり会のようにいろんな話して盛り上がった。
さすがに1ヶ月経つと、順番にメンバーは入れ替わっていったけど、この初期メンバーは特別。
入院生活が快適だと思った1番の理由は、やっぱりこの部屋で過ごせたから。もし先生と助産師さん以外、お喋りする相手のいない生活だったとしたら、いくら食事が美味しくても、かなり長くてキツく感じていたと思う。
ご飯を食べる時も、ワイワイ言いながら楽しい食事だったから、余計に美味しく感じたのかも。
あの時のメンバーには、今でも感謝です。
なんやかんやと無事に入院生活1ヶ月半が経ち、いよいよ予定帝王切開の日がやってきた。
手術の予定を立てる時、1番大事なのは赤ちゃんの様子。それから陣痛が来る前であること。そして先生の予定を合わせると、予定日の1ヶ月前の早い出産になった。
なので、ギリ“早産”となる。
早いなーと思ってたけど、手術の2週間ほど前から、胃が圧迫されてとても辛くなってきて、美味しい食事があんまり食べられなくなっていた。多分、後期つわりになっていたのだと思うけど、ただベッドの上で寝てるだけなのに辛かった。
なので、早く手術の日が来ないかなぁと待ち侘びるようになった。
いよいよ手術当日。
実は私の場合、全前置胎盤に加えて、胎盤の位置がお腹の前面にあるので、メスを入れる場所がないと言われていた。
ギリギリまで胎盤の位置がズレてくれることを願っていたけど、まあ頑固というか粘り強いというか…。全く動きませんでした。
それで、小◯式という、特殊な手術になると言われた。
まず前処置として、手術中の大量出血を予防するために、大腿の動脈からカテーテルを入れて、子宮に繋がる血管をバルーンで塞いで血流を止める準備をする。その第一段階のカテーテル留置術をした後、しばらく待機してから、本番の帝王切開へと移行するという流れだ。
カテーテルでのバルーン留置はとても緊張して、尋常じゃないくらいの手汗をかいた。
造影剤の投与や、カテーテル挿入時も痛みを感じる。普通の人なら全然大丈夫らしいのだけど、私は痛みに敏感らしかった。
無事終わってから、「動いたらバルーンがズレるから、動かないように。」
との指示があり、待機部屋で大きなお腹で仰向けで微動だにできずにじっと我慢する。
そしていよいよ本番の手術室へ移動する。
普通の帝王切開なら、部分麻酔なのだけど、大変な手術だからと、全身麻酔で挑む。
でも、全身麻酔は赤ちゃんに多大な影響があるから、本当に直前まで麻酔はかけない。
なので、普通は麻酔が効いて眠っているであろう術前準備も、意識がある状態なので、色々な所を刺されたりして、痛い。
胸も苦しくて、酸素マスクすら辛い。
でも、普通分娩の人はもっと痛くて辛いだろうと思って、『これくらい痛くないぞ!』と気合いを入れる。
何となく気分的に助かったのは、先生達がほのぼのした雰囲気だったこと。先生に優しくされて泣きそうにもなった。
「じゃあいきまーす。」
その合図でカウントが始まり、5か6を過ぎたくらいで意識が遠のいたー。
余談ですが、病院は大学病院なので、看護実習生が1人、私に付いていた。
バイタルチェックや話相手をしてくれるうちに『大学生かー、若いなー、いいなー』とか思って、勝手に姉か親のような感覚にもなったりして。
それがいよいよ手術当日になると、急に私が不安で泣きそうになったのだけど、ずっと一緒に付いてきてくれる学生さんに『変な所は見せられない!』と、変な見栄張りの性格が出てきて、また勝手にしんどくなったりして。
本番の手術室に入る時、学生さんは『ここまで』という場所まで付いてきて見送ってくれた。そこは夫も入れない場所で、医療関係者だけのところ。
「頑張ってください!」
と、キラキラした目で応援してくれたので、泣きそうになる所をグッと堪えて手を振ってみた。
そしたら学生さんも手を振り返してくれた。
それがすごく勇気になった。
泣きそうなくらい、怖くて緊張してたのに、『手を振り返してくれた』、それでストンと楽になった。
あの時の看護実習生さん、本当にありがとう。
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