魔の対立論争⑨




「何だよ、まだ決まらないのかー。 この調子じゃ数日、いや数ヶ月もかかるんだろうなー。 まぁいいか、ここにいられるだけ」

「人間は物を食べなくても生きていけるのか?」

「あ、あぁー!! そうだよな、今はまだいいけど、どうしよう?」


アシュリーの言葉にエヴァンは困ったように笑う。


「俺に聞かれても困るぞ。 食べられそうなものを探してはみるけど、そもそも食文化が違い過ぎるんだろう。 エヴァンは何か食料を持っていないのか? それを試食させてくれれば参考にはできるけど」

「いやー、恥ずかしい話だけど魔界へ行ったら飯なんて普通に食えると思っていたから道中食べ切っちゃったんだよ。 ・・・あ、そう言えば携帯食料が少しだけ残っていたな。

 あまり美味くはないけどこれとかどうよ?」


そう言いながらエヴァンは懐から変な丸い石のようなものを取り出して渡してきた。


「・・・何だこれ。 食べられるのか?」

「まぁ、一応?」

「ふぅん・・・」


恐る恐る口に入れてみるが、柔らかい石を食べているようで美味いのかマズいのかもよく分からなかった。


「・・・食べられないことはなさそうだが毎日これだと思うと嫌になるかもしれない」

「いや、俺だって毎日これだったら嫌だよ!」

「そういうものなのか」


正直アシュリーは人間の食べるものがよく分からなかった。 ただどうやら色の薄いものを好むのではないかと推測した。 そうしているうちに討論を続ける皆のもとへ辿り着く。


「おぉ、連れてきたか!」

「人間の俺に意見を聞いちゃってもいいわけ?」

「いいんだ。 今回の討論は魔族に限った話ではないからな」


兵士たちは今の状況をエヴァンに話した。 それをエヴァンは頷いて聞いていた。


「なるほどな。 分かるよ、その場所の清掃のやり方を熟知していた方が時短にもなるし効率も上がる。 凄くいいことだ」

「だろ!?」

「でもそれだと場所の不平等さも出るからローテーションにして平等にしたい。 それも分かる」

「流石勇者!!」


共感すると楽しそうに笑うため気分がいい。


「賛否両論だな・・・。 どちらの意見にも納得がいくわ。 正直俺にはどちらも選べない」

「じゃあ結局どうやって決めればいいんだ」

「いつもは多数決で決めているんだろ? 多数決で決まったら問答無用で多い方に決定するんだよな?」

「・・・まぁ、そうだな・・・」


そう言う兵士の目は泳いでいる。


―――今まで多数決で決まったことなんてないんだ。

―――だから本当に決まった後のことなんて経験すらない。


だがエヴァンはそれに気付いていないようだ。


「つまり人数が割れる51人で多数決をすればいいっていうことだろ?」

「あぁ。 だから勇者が入ってくれればいい」

「だけど俺は魔族のことはよく分からない。 人間の一票で決まるなんて何か気持ち悪いだろ」

「じゃあ、あとの一票は誰が・・・」

「だから俺の票を誰かに託そうと思う。 君だよ」


そう言ってエヴァンはアシュリーを見た。


「・・・俺?」

「そう。 さっき敵であろう俺に昼食を与えてくれたから」

「アシュリー、そんなことをしていたのか!?」

「突然訪問してきた俺の分なんて当然用意されていないはずだ。 だけど一食分まるまるアシュリーは持ってきた。 つまりアシュリーは自分の分を俺に与えてくれたのさ。

 そんな心温かい人なら評決の決定権を持ってもいいと思う」


エヴァンの言葉に兵士は皆アシュリーに注目する。


「い、いや、ちょっと待ってくれ! そんな責任重大なことはやりたくないぞ!!」

「そうかー・・・。 なら俺の分とアシュリーの分、二人分の票をなくしてしまえばいい。 それなら49票で決が割れることもない」

「票数を減らすためだけにそんなことをするなんて納得ができない。 アシュリーは我々の仲間なんだぞ!」

「そうだな。 でもアシュリーのエピソードならまだある、思い出してみろ。 門でやっていた俺を魔族に入れるか入れないかの討論の時?」

「・・・それがどうした?」

「その時は話し合いだけじゃなくついには手を出していたじゃないか。 その時唯一手を出さずに見ていたのがアシュリー。 そんな彼が多数決から離れたら平等じゃないのか?」

「「「・・・」」」


そう言うと兵士たちは黙り込んで考え始めた。


「アシュリーはローテーション派だったな。 ならアシュリーを抜かした25対24で掃除場所を固定することに決定! 話は以上だ!!」


淡々と進んでいった話に兵士たちは何も返す言葉がなくなった。 お開きをするようにエヴァンがパンッと手を叩いたのを合図にし皆掃除場所へと移動する。


「・・・まぁ、何となく腑に落ちないが決まったことなら仕方がないか・・・」

「最初から固定にしておけばこんな無駄な時間にはならなかったんだよー」


意外にも決定した後は皆素直に従っていた。 だがそこで不安を感じている者が一人。


―――・・・これって俺が選んだのと全て逆に決まるっていうことでもあるんだよな。

―――それで大丈夫なのか・・・?



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