魔の対立論争⑧




食堂へ勇者の食べ残した食事を返しに行く。 まだかなり残っていて手を付けていないものもあるが、ああ言われてはアシュリー自身何となく食欲が湧かなかった。

こんな美味そうなものが口に合わないと聞き、人間の食文化に興味を抱く。 魔王城の書庫へ入ったことはあるが、人間の生活について書かれた本は見当たらなかった。

先程まで賑わっていた食堂は昼時が終わり閑散としていた。


「あとはもう残すのかい?」


食堂にいる人に聞かれ持っている食器を見る。 エヴァンは結局一口しか口をつけていない。 魔族でこのメニューを残す者はほとんどいないため身体の不調を心配された。


「すまない。 今日はちょっと調子が悪くて」


そう言ってお盆を返した。


―――街を歩いていて食べられそうなものもあったって言っていたな。

―――エヴァンの話を聞いて何か買っていってやってもいいか。


ただ現在は緊急事態と言われて呼ばれた身。 全く急ぐつもりはないが重い足取りで呼ばれた場所へ向かった。


「アシュリー、ようやく来たか!!」


アシュリーの登場に視線は一気に集まる。


「お前の意見を聞かせてくれ。 さっきから議論が決まらなくてうずうずしてんだ」

「今度は何の議論中?」

「話が早いな」


どうやら今討論しているのは今自分が担当している掃除当番をローテーションで変えるか変えないかを話し合っているようだ。 やはりもう勇者についての議論は行われていない。

新しい議題ができるとなかったかのように上書きされてしまう。


―――またどうでもいいようなことを・・・。

―――というか俺がいなかったらすんなり決まるだろうに。

―――全員集まるまで絶対に決をとらないんだよな。


「丁度今日で掃除当番が変わる日なんだがそこでまた新しい案が出てな」


そう言われ討論している様子を見る。


「掃除当番は一度決めたら変えない方がいい。 ずっと同じ場所を掃除していると段取りが分かって効率よく清掃ができるだろ?」


これが一つ目の意見だ。 もう一つは頻繁に掃除場所を変えることによって負担を平等にすべきという意見らしい。


「じゃあお前が便所掃除やれよ! 毎日便所掃除なんて地獄だからな!? お前が次便所掃除だから変わりたくないだけだろ!!」


確かに毎日の便所掃除は精神的にもキツいだろう。


「さっきからこんな感じなんだ。 アシュリーはどっちがいいと思う?」


アシュリーだけ意見を言わないというのは下っ端のためできない。 現状は想像のつく49対50だと思うもアシュリーは自分の意見を言った。


「そうだな・・・。 俺はローテーションで清掃場所を変えたいかな」

「よッ、アシュリー! よく言った!!」

「はぁ!? アシュリー、考え直せ! 効率のよさを考えろ!!」


ギャーギャーとアシュリーに物を言ってくる。 アシュリーが最終判断をしたような感じになり気分が悪かった。


―――正直どっちでもいい。

―――ただ同じ場所の清掃なんて飽きがくると思ったからローテーションを選んだだけだ。

―――いちいち意見を求めるために俺を呼ばないでほしい。

―――どちらの結果になってもいいから俺抜きで決めてくれ!


多数決する時は50人全員が揃った時だ。 確かに平等だがこのままでは何も進展しない。


「何だよ、これじゃあまた半々じゃねぇか」

「また決まんねぇのかよ」


そこで一人の兵士が言った。


「そうだ。 おい、誰か勇者を連れてこい! 勇者の意見も聞こうぜ」

「おぉ、そうだな。 さっき俺たちをまとめ上げてくれたんだし」


いつも議論で意見が割れるのに、エヴァンを呼びに行くことはすぐさま決まったようだ。


「アシュリーはさっきまで勇者のいる牢屋にいたんだろ? 連れてきてくれよ」


そう言われ何も反論することなくエヴァンのもとへ向かった。 エヴァンは退屈からか寝転がっていたが、アシュリーが来たことによって笑顔を見せた。


「アシュリー! 丁度暇していたんだー。 ちょこちょこ顔を出してくれるの嬉しいぜ」

「牢屋から出てくれ」


そう言って鍵を開ける。


「え、どうして? もう話し合いが終わったのか? もしかして俺を魔族に入れてくれんの!?」

「・・・残念ながらそういうわけじゃない。 たださっき言ったように多数決で意見が割れていてな。 みんながエヴァンの意見を求めているんだ」

「・・・俺の?」



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