魔の対立論争②
勇者がどういう存在なのか魔族はあまりよく分かっていない。 ただ敵対的な関係であるということは何となく理解している。
普段、戦争をしているわけではないが思想や見た目が違えば簡単なことでも衝突する。 以前は戦争があったこともあり、勇者がやってくるとなると当然いいことにはならないだろう。
―――だからすぐにでも対策を取らないといけないはずなんだけど・・・。
アシュリーのそのような想いとは裏腹に魔族たちはまた終わりのない話し合いを始めようとしていた。
「・・・よし。 じゃあ対策を考えることにしよう」
兵士をまとめるかのように一人がそう言った。 アシュリーからしてみればそれは逆効果としか思えず、一人で立ち向かうのが不可能な現状、逃げ出してしまいたいくらいの気持ちだった。
しかし魔族に所属している以上そうもいかない。
「そうだな。 俺は作戦を少しでも練ってから立ち向かった方がいいと思う」
時間があればそれでもいいと思うが、切羽詰まってる現状少々悠長な気がした。 そしてアシュリー同様そう思った者が反論する。
「いや、今すぐに勇者のもとへ行くべきだ!!」
「いや駄目だ! 何も作戦がないなんて負けるに決まっている!!」
―――・・・ほら、結局こうなるんだよ。
特に期待もせず耳だけを傾ける。 これでは話し合いの最中に勇者がやってくるという最悪の結末が見えていた。
「実際に向かって立ち位置を確認すればそれだけで済む話だろ!! 相手は勇者一人だぞ!? 毎日訓練を励んでいる俺たちが負けるわけがない!!」
「その勇者は初めて見る者! どのくらいの強さか分からない以上作戦をきちんと練るべきだ!!」
「さっさと向かって城へ近付けさせないのが一番だ!! それとも何だ? 自分たちの腕に自信がないからそう言うのか?」
「そういうことを言っているんじゃない!!」
ここからはほぼ全員が喋り出しよりまとまらなくなった。 その中で何も喋らなかったせいかアシュリーが逆に目立ってしまい一人の兵士が問いかけてきた。
「アシュリーはどう思うんだ?」
「え、俺?」
皆静まりアシュリーに注目する。 自分の意見を素直に言った。
「俺は勇者があとどのくらいでやってくるかを調べてから判断した方が・・・」
「何だよ! 今みたいな時に別の意見を出してんじゃねぇ!!」
「やはり、納得がいかん。 多数決だ!!」
アシュリーはきちんと自分の意見を主張するも聞き入れられることはなかった。 多数決の関係上絶対に意見は二つでないといけないらしい。
だからいつも決まらないのだが、アシュリーはそれを分かっていても意見を聞き入れられることがないのだ。
―――正直どっちでもいい。
―――俺だけの意見を聞いても無意味だろ。
―――そもそもこの討論している時間が無駄だ。
―――いやそれ以前に案が二つしかないっていうのが駄目だろ。
―――勇者だからって仲よくできないとは限らないんじゃないのか?
―――まずどんな考えを持っていてどんな人間なのかをしっかり見定める必要があるんじゃないか?
と直接言いたいのだが手を出されそうなため堪えた。 多数決の結果25対25。 いつも通りだった。
「まぁ、想定内だろう」
「こうなったら魔王様に尋ねようか」
「そうだな」
魔王は別室にいてこの場にいないが、魔王だけが持つ魔法の力で会話することができた。 ただアシュリーは魔王に聞いても意味がないと思っていた。
―――魔王様に聞いても今まで上手くまとまった試しがない。
―――悪い人じゃないけど引っ張っていくタイプでもないんだよな・・・。
そして思った通り魔王に尋ねてもおどおどとした態度で返された。
『そ、そうだな。 もう時間もないしすぐに向かった方が・・・』
「何を言っておられるんです、魔王様!! 作戦もなしでどうしろと言うのですか!?」
『お、おう、そうだな・・・。 やはり作戦は練ってからで・・・』
「それだと時間がないんです!! 勇者に侵入を許してしまう!!」
―――やっぱりこうなるんだよな。
―――先代の魔王様ならズバッと決めてくれていたのに。
争っている間に門の方から声がした。 その声に一同緊張が走る。
「ごめんくださーい」
だがそれは勇者の声だと思われるが、どこかやる気のない声だった。
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