魔の対立論争

ゆーり。

魔の対立論争①




アシュリーは魔族である。 魔界では晴れの日が少なく、空の上には分厚い紫色の雲が浮かんでいた。 これは魔界の至るところから溢れる瘴気のせいで、噴き出した瘴気が空を覆っているのだ。

ただ魔族にとってそれは悪いことではなく、直射日光から肌を守ってくれる役割がある。


「さて、今日も面倒で厄介な城の兵士として出勤するか」


魔族と人間で大きく違うのは見た目だ。 浅黒い肌に猫のように細い目、そして羽は生えていないが角は小さいながら頭の左右に二つ付いている。 しかしそれはあくまで見た目だけの話。

文化的な違いはあるが特別魔法などを使えるわけでもない。 人間の成人男子と相対し力比べをしたなら個人差で勝敗はどちらにも傾くだろう。

ただ人間と魔族は仲がよくはないが戦争しているわけでもない。 城の兵士といっても兵士としての仕事はほとんどなく雑務をこなしたり訓練したりといったことがほとんどである。


「今日も魔界は平和だなぁ」


そのようなことを呟きながら魔王城へと向かう。 通りすがりの人と挨拶を交わし本当にのどかなものだ。 ただそれも魔王城へ着けばガラリと変わる。


「それで稽古についてだがこれからはもっと厳しくしていこうと思う。 最近は怠けている者が多く見られ――――」


出勤したアシュリーは魔族の兵士として集まり会議を行っていた。 だがこの会議だけでは終わらないと見ている。


―――会議が終わったら始まりそうだよな。

―――いつもの“アレ”が。


そしてアシュリーが思った通り今日もいつも通りに魔族の兵士は無為な討論を開始しようとしていた。


「会議は以上だ。 解散!!」


その声に合わせ席を立ち上がろうとしたその時だった。


「おーい。 解散するのは待ってくれー」

「何だよ、まだ何かあるのか?」

「会議に遅刻してきた奴、言わないといけないことがあるよなー?」


そう言うも周りの兵士は首を傾げるばかり。


「遅刻した奴なんていなかったと思うが?」

「違う! 会議開始のギリギリで来た奴のことだよ!!」

「それは遅刻と言わないだろう」

「聞くがどうしてそんなに時間ギリギリで来る!? 10分前行動をしろ!!」


そう怒鳴り声を上げたのを皮切りに他の兵士が言った。


「じゃあ逆に聞くが10分前に来て何のいいことがある? 10分早くここへ来て訓練でもしていたのか? それとも掃除でもしていたか? ただ喋って時間を潰していただけだろう?

 そんなの10分が無駄になっただけだ!!」

「別に喋っていたっていいじゃないか! 会議の時間を余裕を持って迎えることの何が悪い!?」


言い合いが始まると悟ったアシュリーはそれを避けるように壁際に立つ。


―――やっぱり始まったよ。

―――・・・今すぐにでも耳を塞ぎたい。


「俺たちは会議ギリギリまで訓練してんだよ! そっちの方が時間の使い方として効率がいいだろ!!」

「10分前に集まった方が早く会議を始められて終わる時間に余裕を持てるだろ!!」

「なら10時から会議開始じゃなくて9時50分から会議開始にしろよ!!」

「そういう意味で言ってんじゃねぇッ!!」


様々な意見が飛び交う中丁度真ん中にいる兵士が頭を掻きながら言った。


「あー、分かった。 なら多数決で決めようじゃないか」

「まぁ、それが一番だな」


ということで約束の時間ギリギリに到着する派か10分前に到着する派かで分かれた。 アシュリーも渋々と移動する。


「・・・またこうなるのかよ」


魔族の兵士は50人いて丁度25人と25人で分かれてしまった。 この結果を見て兵士も皆溜め息しか出ない。


―――俺たちの討論はいつも綺麗に真っ二つ。

―――だからいつも決着がつかない。


一応アシュリーは10分前に到着する派だ。 多数決を決めるには考えを改めればいいが、ギリギリに到着するという意見に賛同する気にもなれなかった。


―――正直今回の議論もどちらだっていいだろ。

―――遅れてきた者はいないんだし会議ピッタリには始められるんだから。

―――魔族の兵士は気にすることがいちいち細か過ぎるんだよ。


もっともアシュリーが意見を変えようと思ってもそれは難しい。 そうしたいところではあるが派閥のようなものが存在していて、その派閥と違う意見を出すと後でこっぴどく叱られることになるのだ。


―――決まらないなら最初からやらなければいいのに。

―――みんなも分かっているだろう。


アシュリーが飽きれていると緊急サイレンが鳴った。


『勇者が接近中! 勇者が接近中!! 直ちに兵士は持ち場へ着け!!』


見張りからの連絡だ。 ただアシュリーが魔王城の兵士になってから一度たりともこういったことはなかった。 なのに今勇者が魔王城へ近付いているというのだ。


「何だと!? こんな時にか!?」

「ピンチというのは突然来るものだ!! それなりの対策をしておかないから・・・ッ!」


兵士たちはパニック状態でアシュリーも冷や汗をかいていた。


―――緊急事態にこんなバラバラな状態で俺たちは乗り越えられるんだろうか。

―――・・・嫌な予感しかしない。



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