彼の見ていた花

古芭白 あきら

彼が見つめるは地に咲く花


「綺麗な花火……」


 彼女の横顔を見て思う。

 綺麗なのは君の方だって。


 夜空を飾る大輪の光に照らされ、闇に浮かぶ彼女はとても幻想的だった。

 長い黒髪を編み込んで、覗くうなじは白く、薄紫色の浴衣姿がとても可愛い。


 浴衣の女の子は多いけど、彼女が一番だって断言できる。実際、彼女を男共がチラチラと盗み見ている。


 俺は花火大会に誘われて隣町へ彼女とやってきた。


 今まで嫌われたらって思うと恐くて彼女に触れられずにいたけど、ちょっぴり大人っぽい彼女の浴衣姿を見て俺は決意した。


 今日こそは……


 ポンッと軽い音がして、パッと周囲が明るくなった。


 どんどぉん!


 花火が次々と打ち上げられ彼女の横顔が多彩に染まる。


 幻想的な姿でとても儚い。


「ホントに綺麗……」

「……」


 その姿に俺は言葉を失った。


 刹那せつな連発花火スターマインで周囲が一気に明かるくなり、その光に照らされた彼女はホントに――


「綺麗だ……」


 思わず零れた呟きが届いてしまったらしい。こちらをチラリと見た彼女の目が俺の目とばっちり合った。


 自分の想いが伝わった喜びとバレた恥ずかしさに顔が熱くなる。



 きっと彼女も俺と同じ想いに違いない――



 そう信じていたのに、花火で照らされた彼女の瞳には悲しみのかげが射した……

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