第6話 ゲーマーの夫、従魔を手に入れる。


「―【マナボール】!」

「kiii~!」

「『ラビット』、【ラビットスタンプ】!」

「kiiiッ!?」


 あのリトルモンキーを倒した後、更にエリアを探索して行くとリトルモンキーの群れと出会ってしまい、やっと最後の二体を倒し終えた。


「さ、流石に疲れた……」


(「最低でも二十体はいたしな」)

(「逆によく生命力半分ですんだよ」)

(「ていうか強化したラビットが強すぎた」)


「マジでちゃっかり強化しといてよかった。じゃなきゃ、今ので死に戻ってたな」


 ヨミがラビットを殺戮していた時と違って、ある程度連携が取れるモンスターが一気に二十体以上。マジでしんどかった。

 あいつら、前に仲間がいるのに平気で石とか枝を投げてくるし、前にいるやつは投げ込まれているのに思いっきり突っ込んでくるし、普通にヤバかった。


「まあ、お陰で熟練度も上がって素材もゴルもたんまりだ。それに―来てくれ、『リトルモンキー』!」

「キイー!」

「新しい契約獣も手に入れたしな。」


 ≪召喚術≫の熟練度が上がった事で【コネクト】以外にも、相手を一定数倒す事で倒したモンスターの契約獣を手に入れる事ができるようになった。残念ながら新しいアーツは覚えなかったが。


「―お、ヨミからメッセージだ。何々……ああ、いつものね。」


(「いつもの?」)

(「ああ、嫁さんが何か作ったのね」)

(「さて今回はどんなモノが出来上がっているのか」)

(「最初だし、流石に普通のものなんじゃない?」)

 

「<魔鉄剣・斬始>……いや、普通に強いな」


(「はいいつもの」)

(「知ってた」)

(「相変わらずヨミさんはいいの作るね」)


「ん~、ちょっと重いけどこれぐらいなら大丈夫だな」


 どんな性能だろうとヨミが作った子は必ず使うので、とりあえず装備する。

 今のスキルだと剣を持ったところであまり意味は無いが、使っていけばすぐに≪剣術≫スキルを覚えるだろう。ヨミほど使える訳では無いが、それなりに剣は扱える。他ゲーで、従魔関係のジョブが無かった時とかよく剣士を選んでたし。


 初期配布の回復アイテム数を確認し、探索を再開する。

 群れと対峙した場所がリトルモンキーの縄張りだったのか、しばし歩いても他のモンスターと接敵しない。出て来るのはリトルモンキーばかりで、流石に飽きてきた。

 

(「今一番欲しい従魔は?」)

(「ラビットもリトルモンキーも強化したら強いもんだな」)

(「果たして合流までに従魔をてにいれる事ができるのか」)


「欲しいのは騎乗できそうなやつかな。思った以上に契約獣が強かったし、今は移動を楽にできる従魔が欲しい。」


(「やっぱり、このゲームで従魔全制覇狙ってる感じ?」)

(「ヨミも作成アイテムコンプリートが目標なのかな」)

(「しばらくは長時間配信が続きそうだな」)


「当然全制覇でしょ。……まあ、それをするにはかなりの時間とゴルを費やす事になりそうだけど。」


(「雑談しながらモンキーを切り殺してるよ、この男」)

(「片手間に殺害現場をつくるな」)

(「後ろの道が猿の血で染まってやがる」)


「―お、スキルゲット。狙い通り≪剣術≫が手に入ったな」


 コメント返しをしながら、剣でリトルモンキーを倒して進む。 

 何体目かは覚えてないが、倒した後にスキルを手に入れる事ができた。と言うか、サルが多すぎない?縄張りだったとは言え、そろそろ他のモンスターも出て来て良いと思うんだが。


―と、なんだかんだ言いながら進んでいたら目の前にサルじゃない見慣れぬモンスターが飛び出してきた。


「やっとサル以外が来たな。気になるお相手は~……え、マジ?」


(「は?」)

(「ええ!」)

(「激レアモンスターの『ホワイトホース』じゃん!」)


「「―hiiinnッ!」」


 一言で言うなら、後ろ脚が煙に包まれた白馬。それも二体。

 全てのエリアに低確率で時たま出現する激レアモンスター、『ホワイトホース』。出現時の能力は高いが従魔にしたら確定で初期能力に下がると言った仕様はあるが、普通に最前線でも活躍できる程の能力を持つ従魔となる。

 

 それ故に、大変人気のあるモンスター。


「『ラビット』、【ラビットキック】。『リトルモンキー』、【投げつけ】からの【モンキークロー】!【アタックアップ】【ガードアップ】【テクニックアップ】!」


 がっしりしたオスっぽい方にラビット、スラリとしたメスっぽい方にリトルモンキーを宛て、急いで自身に出来る限りのバフを駆ける。

 因みに、従魔にバフをかける事は出来るが、契約獣にはバフをかける事が出来ない。その代わり、スタンなどの行動不能になるデバフを除き、毒や麻痺などの状態異常になる事はない。


「【マナボール】、【スラッシュ】!」


 連携されたら勝てるか分からないので、ラビットと対峙しているオスの方に【マナボール】を当てて、メスの方に剣を振るって体で割り込む。少し開いていた隙間に俺が入り、ラビットたちに気を引いてもらう。

 とりあえず、魔法関係のスキルを相手が持って無い限り直ぐに連携を取られる事は無いだろう。


「『ラビット』、【ラビットキック】を繰り返せ。『リトルモンキー』は少し下がってラビットと戦ってる方に【投げつけ】。」


 リトルモンキーと入れ替えで前に出て、メスのホワイトホースと対峙する。流し目で見る限り、ラビットはヒットアンドアウェイで上手くオスの気を引いてくれている。リトルモンキーはそこら辺に落ちてある石や枝を投げつけて、ラビットを援護している。


 つまり、俺はオスが強行突破してくる前に一人でレアモンスターを戦闘不能に追い込まなければいけない。


「なかなかの難易度だな。―ま、やってやるさ!」


 魔本を開いた状態で腰に吊るし、両手で始原を構える。

 時間制限がある為、様子見は悪手。なら、相手の攻撃が来る前にこちらから仕掛け続けるのが有効だろう。


「【スラッシュ】!」

「hii!―hiinnっ!」


 突撃からの斬りつけ。正面からの攻撃はひらりと躱され、前脚で反撃される。

 その反撃を前に転がって避け、そのまま側面に攻撃を繰り出す。


「hiinn!」

「流石はヨミ作の武器!レアモンにこうもダメージを与えれるか!」

「hiiiinnッ!」

「―っと、あぶな!お返しの【スラッシュ】!」

「―hiiiiiiッ!?」


 側面への攻撃は直撃。武器の性能もあり、大きくダメージを与える事ができた。

 傷を付けられ痛みに声を上げるが、直ぐに突進で飛ばそうとしてくる。

 突進をサイドステップで躱し、胸部にアーツを叩き込む。

 

「諸にアーツを受けたし、それなりに生命力を削れたと思うけど……流石にまだテイムはできないか。」  


 テイムの成功条件は主に、相手が従魔に成る事を納得しているか、行動不能まで追い込んで屈服させるかの二つ。

 そして、俺ができる行動不能に追い込む方法は二つ。

 ギリギリまで生命力を削り、【マナハンド】で押さえつけて縛るか。脚を斬り飛ばして部位欠損で動けなくさせるか。

 

「けど、後者はちょっと不安なんだよな。煙で後ろ脚見えないし。」


 とりあえず生命力を削るのは変わらないし、どっちにしろ脚は斬り飛ばせば良いか。


「てことで、【マナボール】」

「hin!?」


 傷を付けられて慎重になったのか、様子を窺っていたので顔面に【マナボール】を当てて目くらましをする。


「ふぅ……―この一太刀を以って、汝の生を斬り捨てる。」


 深く息を吐き、昔から好きだったあるキャラクターの決め台詞を言葉にする。

 昔、少しだけ……マジで少しだけだぞ?所謂、厨二病に成っていた時期があってな。その時から、絶対に失敗したくない事や必ず成功させたい事をする時はこのセリフを言う様にしていたんだ。

 まあ、そしたらそれがスイッチみたいになってな。今ではこれを言わなければ全力を出せない感じになってしまった。

 

 けど逆に言えば、俺がこのセリフを出した時は全力以上の力を発揮する事ができるって訳だ。


 両手に限界まで力を入れ、しかし余計な力は抜く。左横に剣を構え、切っ先を対象に向ける。

 

―目くらましが終わると同時に、渾身の一閃を放つ。


「――【スラッシュ】」


 横一線。放たれたアーツが、ホワイトホースの脚を斬り飛ばす。


「―――ッッ!!!」


 脚を斬り飛ばされたホワイトホースは、苦痛の叫びを上げながら横に崩れ落ちる。

 頭上に表示された生命力は、一割をまで削れている。


「―【マナハンド】っと。これで流石に行動不能だろ。」


 横に倒れたホワイトホースに【マナハンド】を使い、更に押さえつける。少しだけ藻掻いているが主力となる脚が無くなった為、拘束を解く事は出来ないだろう。

 

 これで、こちらのテイム条件はクリアだ。後は、ラビットたちに足止めを任せたオスの方を同じ様に拘束すれば完璧なんだが……。


「―hiinnッ!!!」

「これ、確実にキレてるよな……」


(「そりゃ、目の前で番をやられたらねぇ……?」)

(「切れない方がおかしい」)

(「と言うか、相変わらず全力が凄いな。……セリフは、あれだけど」)


 油断している訳では無いが、とりあえずこちらは終わったのでチラリとコメントを覗く。

 確かに、コメント通り相手からしたらキレるのは当たり前か。いや、その前にきれたホワイトホースがマジで怖いんだが。怒りで充血した瞳で俺だけを睨んでいる。


 それでも、やる事は変わらない。


「怖いけど、俺はお前たちが欲しいんだ。ごめんけど倒させてもらうぞ」

「hiiinnッ!!」



―先ほどの繰り返しなので特に言う事は無い。が、あえて一言で言うなら……マジ疲れた。





〘「ツク:苦節……時間は忘れました。無事、従魔を二体手に入れる事が出来ました。ので、できれば合流したいのですがそちらの都合は宜しいでしょうか?〙

〘「ヨミ:……いや、その口調どうしたの?メッセージだから口調と言って良いか分からないけど。合流は大丈夫。こっちも丁度いい子が作れたところ。あなたに必要なものができたよ」〙

〘「ヨミ:<兎皮製の馬鞍(画像)×2>」〙

〘「ツク:………エスパーか何かですか?」〙

〘「ヨミ:あ、当たってた?貴方の事だから、最初の従魔は移動性能が高くて多分馬型のなにかだと予想したの。……貴方の事だもの。何を考えているかなんて、簡単に分かるわ」〙

〘「ツク:……(/ω\)」〙 

〘「ヨミ:それはキモイ」〙

〘「ツク:ひどい」〙


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