第5話 ゲーマーの妻、趣味に奔る。


 始まりの街に戻り、生産ギルドに登録してからギルドの生産施設の一室を借りる。

 塵も積もれば何とやら。最初のエリアのモンスターとは言え、三十体以上倒せばそれなりにゴルも貯まる。倒して得たモンスター素材以外にも、ギルド内で買える生産系素材をそれなりに買って、私の子を作り始める。


「とりあえず、夫と合流するまでもう一つ枠を立てて配信を開始……っと」


(「お、きた」) 

(「さっきぶり」)

(「来たね。ヨミの生産配信」)


「こんにちは。ヨミの三分で終わるわけがない無限クッキング、始まるよ~!」


(「待ってました!ツクと合流するまで何時間かかるか分からない生産配信」)

(「合流は一時間後と予想」)

(「始めたてだし、四十分」)

(「じゃあ俺は二時間で」)


 この一室には、料理道具、調合具、鍛冶場と言った感じで一通り生産できる環境が整っている。その分、借りる料金も高いけど。 

 

「さて、先ずは無難に≪料理≫から始めようかな。倒したラビット34体の素材内訳は、<ラビットの肉>が30個。<ラビットの毛皮>が20個。<ラビットの骨>が15個。<ラビットの内臓>が5個。<ラビットの魔石>が34個。」


 う~ん、今の兎の内臓を使った料理って何かあったかな……?最初だし、無理な冒険はやめとこうかな。シンプルに、<ラビットの肉>と買ってきた調理素材で簡単なものにしよっと。


 このゲームの生産は、リアルの技術を使ってスキル無しアーツ無しでもアイテムを作製する事ができる。正し、スキル無しだと品質が一段階落ちる、アーツ無しだとアイテムに効果が乗らない。

 

「―うん。普通においしそうだけど、やっぱり効果は乗らないか。」


(「流石主婦。手際が良いね」)

(「毎回思うが、ヨミに飯作ってもらえるツクがうらやましい」)

(「ヨミは嫁力高いよね」)


 サクッと肉入り野菜炒めを作り、アイテム詳細を開く。<ラビット肉入り野菜炒め>と言う名前だけが書いてあり、効果は無かった。


「【クリエイト(料理)】……―あ、アーツ無しでも作ったやつはレシピに乗るんだ。」


 アーツを使い、先程と同じ様に料理を作る。


「<ラビット肉入り野菜炒め>……効果は、走る時に行動補正ね。少し足が速くなるって感じかな」


 アーツ無しとアーツありの料理を一口ずつ食べ比べてみると、美味しさに違いは感じなかった。単純に、効果が乗るか乗らないかの違いってだけだね。

 

 そこから、熟練度上げに作れるだけ兎肉料理を作り続けた。


「―ふう。肉も尽きたし、≪料理≫の熟練度上げはこれぐらいにして……次は≪鍛冶≫をやろうかな」


(「尚、30個の肉を使いきるのに十五分しかたってない模様」)

(「三つの鍋で並行して料理してたもんな」)

(「同じ主婦として尊敬しますね」)


 鍛冶に使える素材は……<ラビットの骨>と<ラビットの魔石>の二つね。鉄と組み合わせて使えばいいのかな?


 鍛冶場の炉に火を入れて、温度を出来る限り高める。十分に高まった炉に向かい、金槌を持って鍛冶を始める。


「【クリエイト】―先ずは、炉に魔石を入れて溶かす。その次に、熱した鉄に溶かした魔石を練り込む。」


 溶けた魔石が鉄に練り込まれ、魔力が籠った鉄が出来る。


「その鉄を打ち付け、金槌で叩いて育てる。」


 カン、カァンっ!っと鉄を打ち付ける音が徐々に大きく響いていく。


「何度か熱しては育てるを繰り返し、鉄が許容できる限界まで打ち続ける。」


 カァンッ!と響いて音が、キン、キンっ!と鉄が鉄を斬る時の音に変わっていく。


「最後に、鉄が変えれる範囲で打ち手が望む形を願う。」


 求めるのは、平凡平均でありながらも担い手が満足する剣。

 担い手に求める条件は無く、担い手に与える力も無い。

 ただ、担い手を支え続けるのみ。だから、あなたの名は――


 最後に金槌を大きく振りかぶり、力一杯振り下ろす。


「―<魔鉄剣・斬始>」 


(「綺麗だな」)

(「いきなり魔鉄で装備を作るとは、流石ヨミですな」)

(「本当ならⅣぐらいの熟練度で作れるものなんだけどな」)

(「熟練度とプレイヤースキルが見合ってないんだよなぁ」)


――――――――――――――――

<魔鉄剣・斬始> 耐久値:[100%] 

魔石と鉄を練り合わせることで出来る魔鉄を使い、ヨミが打った剣。

一般的な魔鉄剣とは違い、強力な補正が無い代わりに要求条件も無いため、誰でも装備する事が出来る。

[効果]

:[威力強化(小)][魔術強化(小)][剣術強化(小)]

――――――――――――――――


(「マジかよ」)

(「これ、エリアⅢでも使える性能でしょ」)

(「腕が良いヤツは熟練度が低くても良い性能の物を作るな」)


 薄紫色の剣身にシンプルな持ち手。見た目も良く、序盤にしてはかなり上出来なモノが出来た。効果も申し分なく、思った通りの子に成ってくれた。


「同じのを自分用にもう一振り作るとして、これはツクに贈ろうっと。」


 どのゲームでも、何のジャンルでも私が初めて作ったアイテムはツクに使ってもらう。これは、私が初めての子を夫が大事に使ってくれている所を見るのが大好きなので出来た、夫婦のお約束みたいなもの。

 ……私が贈ったアイテムをギリギリまで使いこみ、中盤で役に立たなくなって泣く泣く違うモノに変える時の、あの寂しさと申し訳なさと感謝が入り混じった表情がとても興奮するの。

 序盤にアイテムを贈る事によって、それが一番起きやすくなる。だから、私は必ず初めて作ったアイテムはツクに贈る様にしている。


「送信っと。……あ、自分用を作る前に≪調合≫を試してみようかな」


 それにしても、ツクは無事に従魔を手に入れる事ができたのだろうか。モンスター探しに夢中になって、私との合流を忘れてないといいけど。


「調合に使えるのは……<ラビットの魔石>だけか。やり方は……魔石を砕いて水と調合すればいいのだね。よし―【ミキシング】!」


 魔石を砕いて<魔石粉>にし、<魔石粉>と買った<浄水>で調合をすると、<初級魔力ポーション>が出来た。


「ツクも使うだろうし、<初級魔力ポーション>は出来るだけ多く作っとこうかな」


(「それがいいね」)

(「魔力ポーションは何かと消費が激しいからなぁ」)

(「作っといて損は無いしね」) 


「―じゃ、此処からは熟練度上げタイム!好きなだけ生産して、素材を使い潰すぞぉ~~!」


(「一気にテンション上がったね」)

(「さて、ここからが長いぞ」)

(「買った分だけとか言いながら途中で買い足ししたりするからな」)

(「まあツクの方もモンスター探しで時間忘れるし」)

(「正に似たモノ夫婦だねぇ」)

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