第4話 ゲーマー夫婦、神ゲーを堪能する。


 草原エリアの散策を再開すると順調にモンスターと出会い、素材集めが捗った。……いや、捗り過ぎた。


「……なあ、リスナー。」


(「……うん」)

(「……何?」)

(「まあ、言いたい事は分かる」)


「―あれ、はたから見たら怖くね?」


 コメントと共に、現在進行形で暴れている存在に目線を向ける。


「―アハハッ!もっと、もっと素材を落としなさい!」


 目線の先には、剣と槌を振り回してモンスターを殲滅しているヨミがいた。

 剣を的確に振って致命傷を負わせては頭部を槌で叩き潰す。ダメージを与える度に鮮血が舞い、ラビットの断末魔が響き渡る。

 

 あ、このゲームは成人設定をしていると表現をリアルよりに出来たりお酒で酔う事が出来る様になるぞ。俺達は勿論、成人フィルターをオンにしている為、ダメージを負うと血が出たり、それなりに痛みを感じる様に成っている。……まあ、その所為で今の惨状が余計に怖いんだが。


「あ、エネミーエンカウント―【アタックソード】、そして【アタックハンマー】!」

「kyueっ―」


(「見つけた途端にこの絵面」)

(「一瞬で、土に沁みいる、モンスター。リスナー心の俳句」)

(「血のエフェクトが直ぐに消えないのが恐怖をひき立ててるな」)

(「忘れてたけど、ヨミってキルスリー出身だったな」)

(「ああ、あの殺戮ゲー」)


 『kill・斬る・キル』

 プレイヤーが剣類一本で世界に挑むゲーム。本来ならPvEのゲームなのだが、エネミーを倒すよりプレイヤーを倒した方が報酬も演出も格段に良いと言った感じで、実際はプレイヤーがプレイヤーを殺しまくるゲームと化した。

 

 そして、このゲーム出身者は必ずある特徴を持っている。


「ん?……あ、スキルを習得してる。―へえ……良いね。丁度欲しかったの」


 斬ると言う行為が異様に上手く、斬傷に美学を持つ。

 つまり、¨斬傷フェチ¨なんだ。


「【スラッシュ】【スラッシュ】【スラッシュ】【スラッシュ】【スラッシュ】!」


(「エグイ」)

(「うわ、等々剣しか使わなくなった」)

(「と言うか、よく首だけ斬れるな」)

(「切れば斬るだけアーツの光る軌道が綺麗になっていく」)


 多分、新しく覚えたスキルは≪剣術≫だろう。習得条件に、剣を使ってモンスターを何匹か倒すってあった筈だし。

 ≪剣術≫スキルの【アーツ】を使って、ヨミは湧いた傍から切り捨てていく。

 ここで出るのがほぼ一撃で死ぬラビットだけなのが、余計に惨状を加速させている。


 こうなっては、俺に出来るのは静かに殺戮が終わるのを待つ事だけ。

 少し離れた場所で体育座りをして、リスナーと雑談する。……けど、興奮している妻も又良いな。





「―ふぅ……スッキリした。素材も、これだけあれば熟練度上げが楽になるなぁ。」


 大体、二十分くらいか?通りすがりのプレイヤーにヤバいヤツを見る目で何回か見られたり、密かに≪召喚術≫の【ソウル】を使って死体から魂を収集して契約獣を強化したりしながら待っていると、落ち着いたヨミが剣を納める。


「あ、ごめんなさい。ちゃちゃっと≪解体術≫で死体を剥ぐから、もうちょっと待っててね。」

「いえいえ私めはお気になさらずゆっくりとどうぞ。」

「…?」


(「やっぱ、何度見てもこの美人からあの狂人に変わるのが怖いわ」)

(「しかもめっちゃ良い笑顔を浮かべながら血に染まるからな」)


 ヨミは、消滅する前に喜々として首無し又は首が半分斬られている兎の死体から素材を剥ぎ取っている。……うん、流石の俺もナイフが無いからって仕留めた剣でやるのはどうかと思う。


「最弱モンスターの素材だから大したものは出来ないと思うけど、生産しに一回街に戻るね。ツクはどうする?」

「俺はちょっと先のエリアに行って従魔候補のモンスターでも探してくるよ。」

「じゃ、一旦ここでお別れね。良さそうな子ができたらメッセージ飛ばすから」

「了解。また後で」


 大量の素材を持ってヨミは街へ戻り、俺はエリアの先に進んで行く。


「……さて。気を取り直して、≪召喚術≫の確認を始めるか」


(「待ってました」)

(「俺達と話しながらちゃっかり強化してたもんな」)

(「しかも地味に≪強化魔術≫をかけて熟練度上げもしてたな」)

(「魔力も上がってるんじゃない?」)


 ようやく、契約獣の力を試せるな。さっきの殺戮でかなり強化出来たから、ラビットの契約獣にしては強くなったと思う。


 できればラビット以外で試したいので、この草原エリアの先にある難易度が一つ上の森林エリアへ進む。

 

 この森林エリア¨ファンフォス¨では、ラビット以外にも十種類以上のモンスターが生息している。生息しているモンスターは増えても、強さはそこまで無いので適性合計スキルレベルは[10~15]と言ったところ。

 だから、今の俺でもこのエリアを散策できるわけだ。

 

「―ki、kiki!」

「お、ちょうど良さそうなのが来たな。」


 エリアを少し進んだところで、猿型のモンスターが木の上から降り立つ。……確か、名前は『リトルモンキー』だったか?

 強化された契約獣を試すのにちょうど良い。


「行くぞ―【サモン】、『ラビット』!」

「kiki!」

「【アタック】!」


 魔本を開き、【サモン】で契約獣を呼び出す。呼び出した『ラビット』は半透明で、魔力を体に纏っている。

 何となく感じる繋がりを通して、『ラビット』のやる気を感じる。


 『ラビット』が使えるアーツの一つを指示して、様子を見る。 

 敵に向かって勢いよく頭突きをするラビットに、リトルモンキーは大きく跳んで避ける。


「今だ、【ラビットキック】!」

「―kiiiっ!?」

「そのまま【ラビットスタンプ】!」

「kiiiiii~~っ!?」


 上に跳んだリトルモンキーに、脚から魔力を放って跳躍力を強化したジャンプで接近し、空中で体制を変えて胴体に強力なキックをお見舞いする。

 その勢いでまた体制を変えて、リトルモンキーを下にしてそのまま地面に叩きつける。


(「諸に食らったな」)

(「強化したらラビットでも戦えるもんだな」)

(「プレイヤーで例えると≪格闘術.Ⅲ≫くらいの強さは有りそうだな」)

 

 空中で攻撃を受けて体制を整えれなかったリトルモンキーは、何も出来ないまま大ダメージを受ける。


「ki、kii……」

「軽いスタンでも入ったか。なら、止めだ。―『ラビット』、【ラビットキック】」

「ki―」


 リトルモンキーの上に乗ったままだったラビットが、その場で顔面を踏み抜き止めを刺す。

 リトルモンキーは悲鳴を上げる前に死体へと変わった。


(「ナイスー」)

(「普通に強いな」)

(「強化されたラビットならこのエリアも楽勝そう」)


「『戻れ』……お疲れさま。確か、≪解体術≫とかが無い場合は死体は戦闘終了後に自動で素材に変換されるんだったか」


 経験値とゴルは倒した瞬間にプレイヤーに入る。素材は戦闘終了後に死体が変換されてから手に入るのが一般的。ここに≪解体術≫が入る場合、死体から直接自分の手で素材を手に入れる事ができる。熟練度や技術が高いと、素材の数と品質が高くなる。因みに、手に入れたモノやゴルはメニューからリザルトで詳しい情報が見れる。


「いや、改めて思ったけど凄いなこのゲーム。」


 従魔ではないけど、契約獣を使ってた正直感想。初めて一日も経ってないけど、本当に凄いと思う。ポケットからのモンスターみたいな戦いも出来たし、マジで楽しい。これからしばらくはこの楽しさを堪能できると思うと、楽しみで仕方ない。


 これは、しばらくこのゲームの配信しかしなくなりそうだ。



 

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