第3話 ゲーマー夫婦、合流する。



 転送が終わり目を開けると、広場の様な場所に立っていた。マップを見ると、どうやらここは転送広場と言って、他の街に行くにも来るにもこの広場を経由する必要があるらしい。

 俺以外にも、たくさんのプレイヤーが広場を出入りしている。


「―あっ」

「―おっ」


 邪魔にならない様、端にあるベンチに座って妻を待とうと移動すると、同じ様に移動した妻とベンチで合流できた。


「今回のプレイヤーネームは?」

「何時も通りのヨミよ。そっちは?」

「こっちも何時も通りのツクだ。……よし、フレンド申請とパーティー申請を送信っと」

「……承諾したわ。とりあえず合流も出来たし、もう配信を始めちゃう?」

「う~ん……ま、隠す事も無いし、始めちゃいますか!」


 毛先が白い腰まである長い黒髪にスタイルが良く、和服が似合う知的美人。清楚な雰囲気の中に、少しの狂気が混じっている。

 俺と同じ様に、リアルの容姿に近いがリアバレしない程度にぼかしたアバター。

 うむ、やはり妻が一番美人だな。


 妻改めヨミとフレンドに成ってパーティーを組み、メニューを操作して配信を始める。


―「ツクヨミの屋形・ゲーマー夫婦の配信チャンネル」


 二年前に始め、つい最近登録者数四十七万人を突破した配信チャンネル。

 主に、色々なゲームを妻と楽しみながら偶にリスナーと遊ぶ配信をしている。

 妻が自分が作成したアイテムを色んな人に自慢したいけど、そんなにフレンドを作れないと愚痴をこぼした事がチャンネルを始めるきっかけだった。


 最初はただ生産風景や従魔との触れ合い風景を移していただけだったが、何時の間にか人気がでて、ゲーム実況などもするようになった。

 今では立派な収入源であり、夫婦共通の趣味になった。





「―はーいこんちは~、ツクヨミの屋形のゲーム配信、始まるよ~」

「今回からちょっと前に告知した通り、現在熱狂中の神ゲー『ファンタジー・リアル』を配信していきます!」


(「―おお、きたぁ!」)

(「待ってました!」)

(「ツクヨミの『ファンリア』配信を待ってたんだよ!」)


 広場から移動し、始まりの街のすぐそばにある草原エリア¨ファスト¨で配信を開始する。

 

「多分気になっているだろうから言うけど、俺達が始めた理由は超大型アップデートの内容を見たからだね。」

「作成したアイテムを現実の部屋に飾れる!」

「従魔と現実で一緒に過ごせる!」


「「これを見て、俺達私達がやらない訳がない!」」


(「知ってた」)

(「だろうな」)

(「むしろそれでやらなかったらツクヨミじゃない」)


「と言う訳で、早速従魔を手に入れようと思う。その為にフィールドエリアに来たしね。」

「私は素材集めかな。熟練度上げにもモンスター素材は効率が良いらしいし。」


 配信に来るコメントを返しながら、草原エリアを歩きまわる。大人気ゲームなだけあり、俺達と同じ様な初心者プレイヤーが沢山いる。


「そう言えば、ヨミはステータスどんな感じにした?」

「私はこんな感じにしたかな」


――――――――――――――――

PN「ヨミ」 合計スキルレベル:[10]

生命力[50:100%] 魔力[50:100%]

加護:『旅神の興味』『生産神の理解』『愛神の推し夫婦』

セットスキル

:≪鍛冶.Ⅱ≫≪料理.Ⅱ≫≪調合.Ⅱ≫≪解体術.Ⅱ≫≪基礎武術.Ⅱ≫

使用可能アーツ

・≪鍛冶.Ⅱ≫

【クリエイト(鍛冶)】【品質鑑定:鍛冶素材】【オートクリエイト】

・≪料理.Ⅱ≫

【クリエイト(料理)】【品質鑑定:調理素材】【オートクリエイト】

・≪調合.Ⅱ≫

【クリエイト(調合)】【品質鑑定:調合素材】【オートクリエイト】

・≪解体術.Ⅱ≫

【解体】【剥ぎ取り】【品質向上】

・≪基礎武術.Ⅱ≫

【アタック――(武器種の名前)】【パリィ】【テクニック――(武器種の名前)】

装備

・頭部

<旅人の帽子>

・胴体

<旅人の服><旅人のコート>

・両腕

<旅人の手袋>

・両足

<旅人のズボン><旅人のブーツ>

・武器

<旅人の剣><旅人の槌>

――――――――――――――――


「うん、何時も通りの生産系だ。」

「そう言うツクも何時も通りの従魔系だね。」


(「旦那は従魔、奥さんは生産」)

(「何時も通りだな」)

(「むしろ安心する」)


 互いにステータスを見せて、同じ様な感想を漏らす。コメントも「でしょうね」と言った感じだ。


「しかし、見当たらないな。居たとしても誰かが戦ってるし」

「半年たったとはいえ、常に新規が入る神ゲーだもんね。私達みたいに、アップデート後に始めた人も多そうだし」


(「確かに」)

(「さすが神ゲー」)

(「今日はいつも以上に新規が多いな」)


 草原を歩きだして十分は経つ。これほどの広さなら、一体や二体は野良が居ても不思議じゃないが、湧いたら直ぐに他のプレイヤーが戦い始める。

 まあそこまで急いでほしい訳じゃないし、こうやってヨミとゆっくり散歩するのも悪くない。


「―って思っているとお出ましか。」

「あれは……『ラビット』ね」


「―KYUU」


 悪くないと思った途端に出て来る兎型モンスター。最初の草原エリアに生息しているこのゲームにおいての最弱モンスター、ラビット。

 

 中立モンスターなので、敵意を持たない限り戦闘になる事は無い。その為か、少し近づけばヨミの剣が届く距離にいるにも関わらず、のんきに草を食べ始める。


「とりあえず……【マナボール】!」

「―KYUッ!?」


(「あ、直撃」)

(「まあ最弱モンスターだし」)


 杖を構え、魔術アーツを放つ。

 ラビットはアーツが完成すると同時にこちらに気づき避けようとするが、その前に放ったアーツが直撃する。


「最弱モンスターなだけあるな。たった一撃で八割も削れた。」

「このまま倒す?それとも従魔にする?」

「……ん~」


 従魔はパーティー枠を埋める。このゲームのパーティー上限は八人。

 従魔ギルドのランクを上げるか何処かに土地を購入すれば、パーティー上限を超えても従魔を増やす事ができる。

 しかし、それをするにも直ぐにとは行かない。常にヨミで一枠埋まるので、俺が従魔に出来るのは六体。基本的に俺はモンスター全般が好きなので、できるだけ多くのモンスターを従魔にしたい。―よし、決めた。


「従魔じゃなくて、契約獣の方にしとくよ。」

「了解。私は何をしたら良い?」

「契約が終わるまで時間が掛かるらしいし、周りの見張りをお願い。」


 契約獣は、分類で言えば従魔と同じ様なモノだ。

 強化は出来ても進化は無理で、常時じゃなくて一時的に現れる代わりにパーティー枠を潰さない従魔って感じだな。


「ラビットよ、『契約だ。』」

「KU、KYU……?」


 杖を仕舞い、腰に吊るされた魔本を手に取りページを開く。


「『汝、弱肉強食の理に順ずるモノよ。先の戦は我が勝者で汝が敗者。然らば、汝が順ずる理に従い、我が契約を受け入れよ!』」


 魔本より浮かび上がる、契約詠唱を言葉に乗せて唱える。

 唱えていくと、俺とラビットの間に半透明な鎖が繋がれる。


「『汝の姿、汝の命。汝の思いに汝が力!その全てを――我が心魂を以って貰い受ける!』」


 厨二が喜びそうな少し恥ずかしい詠唱を完了させると、鎖が輝きを増す。


「【コネクト】―『ラビット』」


 ラビットの体が光に包まれ、繋がれた鎖を通じて俺の中へと収まっていく。

 ……これで契約完了。初めての契約は、無事に成功した様だ。


「何か、凄かったね。」

「俺もこんな感じになるとは思わなかった。もっとこう、質素な感じかと」


(「やっぱ、契約はカッコイイな」)

(「このゲーム、結構な数のアーツがこんな感じで凄いんだよな」)

(「一個一個に力を入れてると言うか」)

(「流石神ゲー」)


「そうなんだ。……へぇ、魔本ってこんな感じなんだな。」


 手元の魔本を見てみると一ページ目にラビットの絵が描かれており、ラビットとの繋がり何となくを感じる。 

 ラビットのページに触れると、召喚獣が使う事が出来る【アーツ】が表示される。


「うむ、これで攻撃手段は増えたな。」

「良かったね。―じゃ、次は私の番だね」


 モンスターを契約獣にすると、経験値やゴルは手に入るけどモンスター素材はドロップしないらしい。


 俺は契約獣を手に入れたので、次はヨミの目的であるモンスター素材を集める為、草原エリアの散策を再開した。


「ふふふ……待っててね、素材さん達。私が立派な子にしてあげるからねぇ……っ!」


 ……正直、妻の全てを愛している俺でもこうなるとちょっと怖い。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る