神社

 村の中へ入ってから数分経つが、人が全然いない。そもそも人口が少ないというのもあるだろうが、誰か一人くらいいないと不安になってくる。

 ナビは村の情報まではのっていたが、宿の住所までは出てこなかったため、ホームページで見た外観を頼りに探す。小さな村だからすぐに見つかるだろう。

魂癒閣たまいかくはどこですかー」ひとり言でも言ってないとやってられない。

 村の中にも街灯はおろか、電光掲示板といった光を放つ類のものは一切無い。見る人もいなさそうだから仕方ない。

 ひたすら戸建ての民家と田畑、あとは牛舎や倉庫が立ち並ぶだけで、ナビが無ければ帰る道も迷ってしまいそうだった。

 ふと、少し小高い丘の上に神社の鳥居らしきものが見えてきた。いわゆる赤い色ではなく、少し鉄錆びた色をしている。手入れされていないのか、お金がないのか。かなり古そう。

「あれ、もしかして鶴音神社つるねじんじゃかな」

 本当なら明日に寄る予定だが、宿の場所をもう一度確認したいので、少しだけ寄っていこう。神社の近くには車を2台ほど止められるスペースがあったので、そこに停車させてもらった。

 車を降りると駐車場は砂利でできており、隣には車が止まっていたのかタイヤのくぼみがある。

 鳥居の近くには大きな岩があり、「魂喰神社」と彫られていた。

「こん……ぐい神社?読めないな。ふりがなは……ないよね」

 どうやら目的の鶴音神社ではないようだ。でも、こんな小さな村に神社って何か所もあるんだろうか。

 と、思いながらも日が暮れてきていることに焦る。まずは今日の宿を探すことに専念しなければ。

 神社は少し高い丘になっているので、村を一望で来た。上から見ると村は田畑で碁盤の目のように分けられている。が、やはりお店らしいものは無く、民家と倉庫がほとんどだ。

 ホームページで見た宿の外観を探すと、くすんだクリーム色の2階建ての建物が見え、周囲の民家よりも大きいのできっとあれだろう。「あれか?時間もやばいし、行かないと」

 再び車に乗ろうとした時、背後から声がした。

「あの、うちに何か御用ですか?」

 急に背後から声をかけられたため、ビクッとなってしまった。

 後ろを振り返ると、白い服に赤い袴を着た巫女みこが立っていた。初詣の時に近くの神社で見たことがある服装だが、平日でも巫女は巫女姿でいるものなのか。

「あ、すいません。今日の宿の場所を探していたら道に迷ってしまったみたいで。あはは」

 一応愛想よく話したつもりだが、巫女は仏頂面だ。巫女なのに。

 顔立ちは自分よりもかなり若く、まだ十代だろう。若いのに偉いな。

 髪は肩で綺麗に切りそろえられており、純度の高い黒い瞳は大きく、目鼻だちもしゅっとしてる。今時の女の子というよりも、少し大人びた印象だ。

 と、勝手に分析しているのが怪しかったのか、巫女は未だ怪訝そうにしている。やばい人だと思われてるかもしれない。

「宿ならあそこに見える建物ですよ。村に宿は一つしかないですから。この道を真っ直ぐ行けば迷いません」

 機械の如く淡々と説明をする巫女は、神秘的なような可愛げのない姪のような。どちらにせよ警戒心が高い様子。

「わっかりましたー。ご丁寧にありがとうございます。ちなみに……この村に鶴音神社つるねじんじゃってあります?明日にでも行こうと思ってて……」

 世間話程度の温度感で聞いたつもりであったが、どうも巫女の様子が変だ。

「そんな神社はありません。日が暮れます、早く宿へ」

 おっと、急に冷たい反応だ。巫女の機嫌を損ねてしまったらしい。巫女はそのまま神社の奥の方へ早足で去って行ってしまった。

「あちゃ、まずかったかな」何がまずかったかはわからない。

 神社の周りの木々が風でざわざわと鳴り、気温が下がってきているのか首筋が寒くなってきたし、夕日も鋭く照らし出してきた。

 「結局手掛かりなしか。まぁ宿教えてもらったからいいか。でも、あんな態度になるなんて、今時の子はよくわからんなあ」

 親父じみた感想をぼそりと口ずさみ、案内してくれた道を通って宿へ行こう。

 心に引っ掛かりを覚えたが、今日は宿についたらさっさと寝てしまおう。疲れた。続きは明日に調査しましょう。

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