第1話 金の成る世界
金の弾丸で狼を殺した。しかし血は出ておらず、貫通した頭部を見れば赤。ではなく、金色に体液が変色していた。
しばらくすれば、遺体はさらに金色へと変化し、霧散すればそこに一枚の金貨が現れた。
「訳がわからない……」
ゲームとは言ったが、ここがゲームの世界ではあるまいし、生物が金になり変わるなど、あり得ない。
まぁ良い。俺が今ここで生きている時点で、理解しがたいことなのだ。
これから自然と理解していくだろう。
「これは頂こう」
地面に落ちた狼だった金貨を拾い上げると、その場で握りつぶす。
俺の力は金で、攻撃も金のようだが、動物から金を得られるのなら、あまり所持金を気にすることは無いだろう。
だが一枚の金貨を握り潰したところで特に文字の変化は無かった。
もっと多くの金貨を潰さなくてはならないのだろうか。
「さて、ならばもうこの森は用済みだろう。外を探さなくては」
森の真ん中で目を覚まし初めに狼を倒したが、これから金を稼がなくてはならないと言うのなら、森の中でサバイバルをする意味は無い。
稼ぐならより効率的に、まずは人を探さなくては始まらない。
それから森をしばらく歩く。ただ外に出たいので、寄り道せずに真っ直ぐ歩く。この先に崖とか無い限り、いずれこの方法で外に出られるだろう。
すると道中でまた狼と出会った。狼は普通群れで行動すると思うが、こんなにもはぐれは多いものなのか。
「グルルル……」
今は撃てる弾丸は無い。ならば素手で対抗すべきか。
そう考えた矢先にまた文字に変化が現れる。
《スキル:ゴールドブロウ》
「精神から金を捻り出し、黄金の力を纏う……。急に理解の難しい文面が出てきたな」
まぁ、習うより慣れろか。俺はゴールドブロウを発動すると、手元に金が無いにも拘らず、拳に金のオーラを纏い、そのまま狼を殴りつけた。
まるで腕は鈍器を振り上げたように重く、拳に伝わる感触は硬い石で殴りつけたようなものがあった。
しかしその直後に酷い脱力感。何か体が金を求めているような感覚で、気持ちが悪い。
殴った狼は無言で死に至ったようで、また金貨へと姿を変えた。
俺はすぐに金貨を拾うと手元から消滅し、体が軽くなった。
「あぁ、なるほど。そういうことか」
ゴールドブロウは、手元に金が無くても攻撃を可能とする救済処置のようなものだ。ただ金があれば威力が増大するらしい。
スキルで金を0から1消費し、所謂借金状態に入ると体調を崩すようだ。
金が無くては生きていられないとは、以前の俺では考えられないな。金が無くなるなどあり得ないことだからだ。
だが今回は違う。金の使い方は少し考えなければならないだろう。
だが今の現状ではゴールドブロウで金を消費しつつ、倒した生き物から金を徴収するばかりで、プラスマイナイス0だ。
あぁ、これはゲームでいうチュートリアルというやつか。
また文字に変化が現れた。
《スキル:ゴールドリサーチ》
「周辺の金になる物を探す……。これまた単純すぎる」
流石に金がそこら中に落ちていることは無いのか。金になる物となると、物を売れということだろうか。
俺はゴールドリサーチを発動すると、突如脳内に大量の情報が流れ込む。
森の中に点在する全ての金になる要素が雪崩れ込む。
だがそれは目を疑うものばかりだった。
木、草、石、土。身の回りにある全ての自然物が金になるのだと言う。
どうやら手に触れた物をその場で即座に換金できるようだが、金貨では無かった。
木は一本銅貨100枚、草は一キロで銅貨10枚、石は百個で銅貨5枚、土は一キロで銅貨1枚。
金は銅貨、銀貨、金貨があるようで、銅貨1000枚で銀貨1枚、銀貨1000枚で金貨1枚のようだ。
なんと、レベルを上げるのにリサーチだけではこんなにも苦労するとは。
だが現状は戦闘より物の売却の方が確実に金を稼げる。仕方がない。
ならばと俺は身の回りにある木という木に触れては金にして、森林伐採の感覚で金を稼いだ。
木は十本で銀貨1枚だ。
しかし一万本でようやく金貨1枚だ。あまりにも非効率的すぎる。まずはレベルアップより、金をある程度集めることから始めよう。
そうして俺は森の外に出るためだけに狼に遭遇しないように、道は出来る限り逸れないように、道歩く途中の木を伐採し続けた。
気付けば二時間ほど経っており、だが森の外には出れず、いつの間にか俺の歩いていた通路は、細く舗装された道が出来上がっていた。
所持金は銀貨250枚。
そこそこだな。
もうそろそろ時間的に森を出られてもいい頃だと思うが、一向に光も風の流れの変化も感じられず、少し疲れ気味でいた。
運動は暇つぶしの趣味にするほどで、ある程度はしていたつもりだが、単純作業は別の意味で疲れるな。
そうすこし息をあげながら歩いていると、狼ではなく、体長三メートルはあると分かる緑色の巨体が現れた。
「オオオォ……フーッ」
大人三人は横に並べるほどに太った体と、豚の造形をした顔、今までやっていたゲームを参照するに、オークという種別だろうか。
「やってみようか」
銀貨250枚で足りるか分からないが、さらなる目の前に現れた文字を見て、勝機を得た。
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