第11話 じゃんけんできる猫ちゃん(?)精霊


「……リベルタ、この子、何かしら?」


「あ、いや、僕にもわからないが……」


 私の質問に、リベルタは困ったようにわずかに眉根を寄せる。


「猫なのか?」


 リベルタの言葉に、転がりじゃれていた黒い子猫(?)は、ふぎゃ! と声をあげて、しっぽをぴんと張った。

 驚いたのは、そのしっぽの先がくにゃっと変形して『×』の形になっていたことだ。


「えっ?」


 私とリベルタは思わず目を見張った。しっぽで意思を示しているの?? ちょっとびっくりだし可愛いわね!


「と、とりあえず猫じゃないっていってるみたいだけど」


「僕たちの言葉が分かっているのか? 様子からして、動物ではないね。精霊か魔物か……」


 リベルタは興味深そうにかがみこむと「君は精霊かい?」と聞いた。

 耳の丸い猫のような小動物は、私たちの前でしっぽを上げる狩りのポーズをとりながら、嬉しそうにしっぽの先を『〇』にした。


「すごい、この子しっぽがいろんな形に変わるのね! 今度は〇だわ」


「ああ。そして本人の意思表示を信じるなら、精霊ということになる。めったなことでは見られるものでないというが、本当ならすごいことだよ」


「うふふ、本当に可愛い……! でも、精霊なら人間のことを嫌いな種族が多いはずよね? なのに、この子はずいぶんなつっこいわね」


「しかし、どこから現れたんだ?」


 リベルタの疑問に、精霊だという小さな生き物は、またしてもしっぽを変形させ、矢印の形にした。

 私とリベルタは、その方向をみる。

 そこには、黒焦げになった『アデネイラの選定書』があった。そうだ、すっかり忘れていた。この本から黒い手が出て、私ははしごから落っこちて結果的にリベルタの呪いをなんとかしたのだ。


 今やすすけて床に落ちている(?)魔導書は、転がったままだ。あの怪しい黒い腕はもう出ていない。私はほっとした。


「なるほど、選定書に封印されていたってことだろうか」


「ということは、あなた本から出てきたの?」


 と、私は本を拾って煤を払った。


「イリス、不用意に本に触るなんて危険だ。さっき黒い手が」


「うーん、でも大丈夫そうよ? それに、さっきの黒い手、多分この子のしっぽだと思うし」


「まぁ確かに……」


 とすぐにリベルタは納得する。一方、目の前の精霊さんは、しっぽを『〇』にした。ふふっ、かわいいわ! ということは、やっぱり本から出てきたっていうので間違いないってことかしらね。

 それにしても、この子のしっぽって、まるで人間の手みたいよね。じゃんけんもできるんじゃないかしら、なんて考えてしまう。ほかにも何かいろいろできそうだけど。


 私はぱらぱらとすすけた本のページをめくってみたが、その中身も表紙同様黒焦げだった。


「選定書には、封印した精霊の名前や扱い方が書いてあるものだけど……すっかり焦げていて読めないわ。リベルタ、あなたの本でしょう? ここに何が書いてあったかわからないかしら? この子、こんなに懐いているんだから、名前で呼んであげたいの」


「まぁ確かに、呼び名がないのは不便だな。しかし……」


 とリベルタは私の手元の本をのぞき込んだ。


「本が焦げてて読めないなら、僕にもわからないよ。アデネイラは王家に仕えた大聖女にして、精霊や妖精を使役した大魔術師だ。だからこれも名のある精霊なのだとは思う……あとで調べればわかるかもしれないが」


 私はじゃれつく猫ちゃんのような小精霊にかがみこんで


「じゃあ、今仮に名前を付けてあげる」


 と微笑んだ。

 小さな精霊さんは、ぎにゃ! と嬉しそうにしっぽを振る。


「それじゃああなたの名前は──」


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