第9話 聖なる雪


「いったぁ……」


「う……イリス……無事か?」


 私の下敷きになっているリベルタの青い瞳が、心配そうにこちらを見る。

 落下した私は、しっかとリベルタに受け止められていた。


「とりあえず無事……ごめんなさい。ありがとう、助けてくれて……リベルタこそ大丈夫?」


 体を起こしながら、下敷きになったリベルタのことを心配する私に、彼は真顔で言った。


「雪が……降ってる……」


 え、リベルタ頭でもぶつけちゃったのかしら、と私は血の気が引いた。しかし、私の表情を見たリベルタは首を振る。


「見て、イリス。本当に雪が降っているんだ」


 リベルタが、私の背、上を見ろと指さす。私は振り返った。

 幻想的な光の雪が、私たちに、まばゆいばかりに降り注いでいる。


「何、これ……」


 そして、私は気が付いた。


 リベルタと私の手。

 呪われたリベルタの手と、私の手が、しっかりと握りあっている。そのつないだ手から、光の雪のかけらが、ふわふわとうまれ出ていることに。


 そして、それにはリベルタも気が付いているようだった。


「手が、あたたかい……」


 彼は、ゆっくりと起き上がり、私とつないだ左手を離す。光の雪のかけらたちは、そのとたんになりをひそめた。


 彼はいぶかしがるように、自分の呪われた左手の手袋を外した。

 驚いたことに、いつか見た、あの黒いツタ模様……手首から先の黒い呪いの文様が、うっすらと消えかけていたのだ。


「呪いが、薄まっている……」


 リベルタは驚愕の表情で私を見ると、私に自分の手を見せる。


「薄くなってる、君が、触れたからなのか…?」


 そう、なのかもしれない。

 リベルタとつないでいた私の手は、キラキラした光がとりまき、私は自分の手から何か不思議な、柔らかな力があふれ出るのを感じていた。

 これは、なんだろう? 疑問が沸き上がると同時に、手の呪いがなくなれば、リベルタは20までなんて言わず、ずっと幸せに生きられるはずで、そう思ったら、考えるよりも先に、私はリベルタの呪われた右手を、両手で包み込んでいた。


「なっ……!」


 鋭い声と共に手を引っ込めようとしたリベルタを無視して、私はぎゅっと手をぎった。


 あたりは一段とまぶしい光が包み込み、そのまま光の雪となって天井までのぼると降り注いだ。

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