第7話 リベルタの告白と好き
私が11歳になると、私の父母は亡くなった。
これが、本当の不幸の始まりだった。
当主は父から叔父一家に変わり、私は叔父アルロットの養子となった。
アルロット叔父には、私と同い年のミアという女の子がいて、私は養子になった手前、数か月年上だったこともあり、私はミアの義姉ということになった。私から見れば、ミアは義妹ということになる。
案の定というかなんというか、叔父にしてアドルナート家の当主となったアルロットは、娘のミアを可愛がり、養子の私をいじめるようになった。
ミアももちろん私に嫌がらせをしてくる。
父母という後ろ盾がなくなり、家の中で冷遇され泣いている私を、慰めてくれたのもリベルタだった。
私にとって幸いなことに、言うのもはばかられる嫌がらせをしてもなお、叔父たちは、私がマラジージ先生のところに魔法を習いに行くことは禁じなかった。
「家のみんな、私にいなくなってほしいって思っているに違いないの。私が聖なる力も使えない、出来損ないだっていうのよ」
「イリスは出来損ないなんかじゃないよ。むしろ、どんな魔法も使いこなせる、偉大な魔法使いだよ」
マラジージ先生のところに行き、リベルタに会うたび、彼は何かしら私に同情するようなことを言ってくれた。
あるとき、私は、家に帰りたくない、と彼にいった。
「あの家に帰っても、誰も私のことを好きじゃないの。それが、すごく寂しい……世界中の人みんなに嫌われてる気持ちになるから」
リベルタはそれを聞いて、少し沈黙して、それから小さく息を吐いた。
「僕はイリスが好きだ。世界で一番好き。イリスが僕のお嫁さんになったらいいのに」
思わぬ言葉に私は驚いた。
しかし、言ったリベルタが一番驚いた顔をしていた。思わず目をまんまるにしてリベルタを見ている私に、リベルタはみるみる顔を赤くして、しーっと唇に指をあてた。
秘密ね、と彼は言う。
私は頷いた。
私は、その時にはもうラウロ殿下と婚約していたから、なんだかとてもいけないことをしている気がした。
でも、心があたたかくて、胸がどきどきする。
──9つのときから、私が好きだったとリベルタは言った。
なんで、と思ったけど、こうして思い返してみれば、そういえばもしかして私のこと、好きだったのかもしれない。
……実感はないけれど。
◆◆◆
その後は、私が12歳になって、でマラジージ先生に魔法習うのは終わり、リベルタも私も、二人とも魔物討伐に従軍することになった。
リベルタは王位継承権を持たないものの、国を護るための執政官になるらしい。この国は常に魔物の脅威に晒されている。だから、執政官として魔物討伐を行い、国を護るのだそうだ。
貴族議員になるにも、王位継承を勝ち取るにも、この国ではある程度軍隊で成果を出さなければ選ばれないが、議員にも王位にも関係ないリベルタが執政官になるのは、本当に国を護りたいからなんだろうな、と私は感心した。
私はといえば、執政官の補佐として、魔法騎士団を率いることになっていた。
そのころには、私はマラジージ先生の弟子になれるくらいには魔法を使えるということで、貴族の間ではちょっとだけ有名で、魔物討伐にもちろん行くだろうという話になっていたのだ。それに、家族は邪魔な私に、家にいてほしくなさそうでもあったし。
私としては、嫌ではなかった。人々の役にたてるし、それに、聖女の力が無くても、何かしら功績をあげていれば、自の立場を何とか良くすることができるだろう、という下心もあった。
そこから、私たちはずっと、ほとんど会うことはなくなっていた。
本当に、リベルタと久しぶりに会ったのが、星祭りの儀式、私が偽聖女と断罪された、今日の日のことだったのである。
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