第6話 王子の秘密
「なぜです?」
私は怪訝な顔をした。
同時に、リベルタは、わかっていない、という顔をして、自分の左手の手袋を外し、見て、といった。
「僕と親しくしているのが知れたら、人に怖がられる。ほら」
その手は、黒いつたのような模様が這っている。それは見るからにまがまがしかった。
「手が……これは……?」
「これは呪いだよ」
そういうと、リベルタは手近な雑草にふれた。
リベルタの手が触れるや否や、みるみる草は枯れていく。草むしりをするより、この手で触れて草を片付けた方がはやいんじゃって思うくらいだった。
「僕の左手には、触れたものの命を吸い上げる呪いがかかっているんだ」
「あなた……は大丈夫なのですか?」
私の質問に、リベルタは首を振った。
「もちろん大丈夫じゃないよ。この呪いは僕の命も吸い上げる。僕は20まで生きられないそうだ。だから王子だが王位継承権もない」
私ははっとした。この人、王子なんだ。いやそれ以前に、こんなこと聞くべきじゃなかった。自分の死について話したい人はいない。幼いとはいえ、私は慌てた。彼を傷つけたのではないか、心の中に気まずい気持ちが広がる。
しまったという顔をしていたのか、私を見ると、彼ははぁ、ともう一度ため息をついた。
「だから、僕と仲良くしても意味ないよ。得もない。ただ怖がられるだけだ。君も危ないから、僕の手には触れないように」
そういって彼は手袋をはめなおすと、マラジージ先生のいるお屋敷に向かって私を置いて歩きだした。
その後ろ姿を見ながら、私は思った。
そっか。この人、冷たいんじゃないんだ。優しいから、私を遠ざけていたんだ。
そう思ったら、幼い私は彼の背中に向かって走りだしていた。
その背中に追いつくと、私は彼の左手を取って、つないでいた。彼は明らかにぎょっとした顔をして、私の手を、一瞬振り払おうとした。
「だって、手袋をしていたら危なくないんでしょう?」
私はリベルタの手を離さなかった。
「先生は私たち二人、仲良くしろって言っていたんだから、仲良くしましょう!」
私はにっこり笑って、ぎゅっと彼の手を握った。
「……君は、僕の手が怖くないの?」
「全然怖くありません」
「変わってるね、皆僕を怖がるのに」
そういって彼は肩をすくめ、それから、はじめて私に笑いかけた。
「ああでも、万が一があるかもしれないから、左手をつなぐのはだめだ」
と、呪われている方の左手から、私の手を右手に変えてつないでくれた。
その日から、私たちは親しくなったのだった。
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