第4話 王子と二人の告白な逃避行

 神殿から人目につかない道を抜け、林の中への道に入り込んで、私たちはどこかへ向かっていた。


「ねえ、リベルタ殿下!どこまでいくの!?」


「イリス、殿下はつけなくていいって言ったじゃないか」


 リベルタは相変わらず私の手を引き、笑っている。


「っ、リベルタ、ちょっとどこまで行くの?こんな林を通っていくなんて大丈夫?」


「大丈夫、僕の屋敷までの近道だから」


「リベルタのお屋敷に行くの? そう、そうよ、だいたい、何でリベルタは神殿にいたのよ、呪いがあるから、神殿の出入りはできなかったんじゃ……」


「君も知っての通り、星祭りの式典は基本的に王族は行かなきゃいけない儀式だしね。僕は王族の義務を優先したまでさ。それに君は魔法は素晴らしいが聖なる力はてんでだめだろ?絶対ピンチになってると思って助けに来たんだよ」


「え、何で?」


「僕は君の幼馴染で兄弟子だ。いつだって助けに来るよ。それに僕らは友達だろ?」


「…………」


 私は胸を打たれて立ち止まってしまっていた。

 リベルタは、まだ私のこと、昔と同じくらいちゃんと気にかけてくれていて、それに友達だと思ってくれていたんだ。

 立ち止まった私を振り返り、怪訝そうなリベルタが私を見る。その目には、少し心配がにじんでいた。


「……ありがとう」


 瞬きすると、涙のしずくがこぼれた。

 自分でも気が付かなかったけれど、私は泣いていたのだ。

 私ははっとして涙をぬぐった。


「どういたしまして」


 リベルタは、私が泣いているのを見られたくないと気が付いたのか、気付かなかったふりをして、言葉をつづけた。


「魔物退治の大家、大魔術師にして騎士姫イリスが、聖魔法だけ使えないせいでとんでもない目にあうところは見てられないしね。この国の損失だ」


「……本当に助かったわ。魔物討伐の前線ですら、死ぬって思ったことはなかったけれど、今日こそ死を覚悟したもの……」


「ま、これからは心配ないさ。僕と婚約したから、弟のラウロも君に手出しはできないだろうさ」


 私は我にかえった。そうだ、私、リベルタと、こ、こ、婚約……なんてことに成り行きで……


「そ、それよ!確かにそうだけど、でも、私と婚約なんていったら、リベルタに迷惑が……!」


「いいや、別に迷惑じゃないよ。どうせ僕は20にもならずに死ぬ。僕は王族から除外された身、王だって別に誰と婚約しようが構わないだろう」


 リベルタは笑った。


「僕のことは、誰もが恐れている。この手があるからね。それはいいことだよ。僕と君の婚約に、文句をつける奴はいない。だからしばらくは僕の屋敷にかくまわれてればいい」


 私は手をひかれつつ、しばらく考え込んだ。


「……ねぇ、どうしてそこまでしてくれるの?」


「どうして、ねぇ…気付かないもんかな」


 リベルタは含み笑いでこちらをみた。


「え、何、どういうこと?」


「弟の婚約者だったから今まで黙っていたが、本当はずっとキミが好きだった」


「ええそうなの…ええ!?そうなの!?」


 私は思わず二度聞きした。

 そうだよ、とリベルタは微笑む。


「いつから!?」


「ずっと。9つの君が、師匠の元にやってきたときから」


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