第85話 オレはダンジョン調査会社ワルシャワ(株)のヴィクトロビチや。
「オレはダンジョン調査会社ワルシャワ(株)のヴィクトロビチや。オレの同意なしに調査は中断できへんで?」
ダンジョン調査と、それに続くダンジョンオークションは、民間の力を借りてダンジョン探索を活性化させようという国の施策。そのため公民双方の意見を取り入れるべく、民間調査会社との共同調査とされていた。
「同行する民間調査会社はダンジョン協会の受付チーフが公平に選定していると聞くが……不思議と毎回、君の会社が選ばれるな……」
「しかもワルシャワ(株)は海外企業。国策であるはずのダンジョン開発で何故に海外企業ばかり……」
「そんなんソーラーパネル事業と同じ。お前ら日本企業が弱いからやん。今だってそうやろ? ダンジョンが怖くて帰りたいでちゅーとか泣き言ばっかり。ほんま日本人は使えねーなあおい」
ヴィクトロビチの返答に騒めく調査チーム隊員だが。
「調査としてはもう十分だろう。猛毒の霧が充満するダンジョン。しかも現れるモンスターはゴキブリ獣に未知の小動物型モンスター。オークションにかける情報としては十分すぎる情報。これ以上無理して隊員の命を危険にさらす必要はない」
イキり立つ隊員を抑えて隊長が答える。
「かーっ。なんも分かっとらんのう。ええか? オークションでの落札額は、そのままダンジョン発見者の取り分につながる。つまりは高値で落札された方が城はんの儲けになるわけや。それで見たやろ? あの貧乏な自宅に貧乏な服装。ホストに騙された馬鹿な嫁はんの末路を。このままやとこのダンジョン、落札額はつかんで? そうなったら城はんの取り分は雀の涙。露頭に迷いソープ落ちするんは確実や。可哀そうやと思わんのか?」
「それはそうだが……これ以上、調査して状況が好転するとは……」
「隊長はん。せめて最初のモンスターゲートまで。それまで何とか調査継続できまへんやろか? いくら何でもこれでは馬鹿で間抜けな城はん一家が可哀そうで可哀そうで……おーんおーん」
自宅にダンジョンが出現した以上、自宅は強制的に立ち退き。土地は相場よりも格安で買い上げられる。さらにはダンジョンまでもがオークションで値段がつかないとなれば……
「隊長。いざとなればMPポーションがあります」
「ああ。俺も今度は油断しねえ」
これ以上、無理するのは得策ではない。だが、日本ダンジョン協会の人間としてこれ以上他国の人間にコケにされては。何より国民のためと言われては簡単には引き下がれない。
「……分かった。ここから先はDジョブ超レンジャー(SSR)である俺が先導する。治療魔法使いと修理工を中心に隊列を組みなおせ。だが、モンスターゲートを確認するまでだぞ?」
隊長の先導の下、ゴキブリ獣を退治しながら慎重に進む調査チーム。
「見えた! あれがモンスターゲートだ!」
通路の中央。漆黒の闇が渦巻くモンスターゲートを発見する。
「ちょうどモンスターが出て来たか! 全員、注意しろ!」
モンスターゲートに光が走り飛び出したのは10匹のゴキブリ獣。
「やはりゴキブリ獣か……普通は地下1階。スライム獣やネズミ獣が出るものだが……」
「敵はゴキブリ獣だけではないぞ! この霧の中。正体は不明だが高速で襲い来るモンスターもいる。各自、足下に注意しろ!」
ゲートを飛び出した10匹のゴキブリ獣と相対する調査チームの面々。そんな彼らとは異なり1人、民間調査会社ワルシャワ(株)のヴィクトロビチはダンジョンゲートへ近づいていく。
ゴキブリ獣と戦う調査チームのメンバーは誰も気づかない。その様子を見て取ったヴィクトロビチは素早くモンスターゲートに手を触れる。
「よっしゃ。ゲートの登録完了や。後はゲートからどんなモンスターを召喚できるのかやが……」
ゲートを詳しく調べようとしたその瞬間。
「くるっぽー」
突然の鳴き声に見上げるヴィクトロビチの頭上。通路天井から高速で飛来する1羽の影。
ズブリ
「あぎゃああっー!」
足下を警戒していたその分、頭上にはまるで無頓着であった調査チームの隙を突いた1撃。飛来する鳥型モンスターのくちばしがヴィクトロビチの気密ヘルメットを貫通。片目に突き刺さっていた。
「ワルシャワ(株)の男がやられたか!?」
「気密ヘルメットのシールドに穴が! 毒霧をモロに吸い込んでいるぞ!」
「修理工はヘルメットの修理を! 治療魔導士は治療を急げ! この場は応急処置だけで良い。即座に撤退する!」
こうなっては調査終了の同意も何もない。魔法で応急処置の後、気絶するヴィクトロビチを背負うと調査チームは大急ぎで自宅ダンジョン出口へ。梯子を駆け上がり脱出していった。
・
・
・
大慌てで自宅ダンジョンを脱出する様子を暗黒の霧の奥。遠目に覗き見る人間が1人。当然、俺。城 弾正である。
「やれやれ。治療魔法使いや盾戦士たちが負傷してなお、調査を継続するとはな……こうなっては手加減は無用。もはやぶっ殺すしかないと思ったが、何とか追い払うことに成功したか」
母に学校へ行くと言ったその後、Cautionテープを剥がした俺は1人自宅ダンジョンへ。剥がしたテープはその後にイモが貼り直しているため、俺が自宅ダンジョンに潜んでいることは誰にもバレていない。
俺は自宅ダンジョンを暗黒の霧で満たした後、止めとばかり地下1階モンスターゲートの自動転送設定を変更する。
─────────
─暗黒門LV20:黄金ダンジョン地下1階その1
・スライム獣:40%
・ネズミー獣:30%
・コウモリ獣:15%
・イモムシ獣:10%
・ゴキブリ獣:4.7%
・黄金スライム獣:0.3%(MAX)
転送率を変更するモンスターを選んでください。
─────────
↓↓↓
─────────
─暗黒門LV20:黄金ダンジョン地下1階その1
・スライム獣:0%
・ネズミー獣:0%
・コウモリ獣:0%
・イモムシ獣:0%
・ゴキブリ獣:100%(MAX)
・黄金スライム獣:0%
─────────
こうして暗黒の霧の中、ゴキブリ獣だけが大量に出現する悪夢のようなダンジョンが出来上がる。
後は視界の効かない霧の中、ゴキブリ獣の相手に手一杯となる調査員の足下を狙ってニャン太郎、ニャン子、ニャン花の古参組猫3匹が襲い掛かる。
この3匹には黄金コウモリ獣の肉を食べさせ、EXスキル超音波を習得させている。元々の夜目とあわせて、暗黒の霧の中、自由自在に行動できるのだから奇襲にはうってつけ。
暗黒の霧で覆われた地下1階。気密スーツを切り裂かれたなら、これ以上の調査継続は不可能。撤退せざるを得なくなる。
計算外だったのは調査チームが生産ジョブの修理工を連れていたこと。そのため破れた気密スーツを修理して調査継続されることとなったが……
「よくやったぞ。ハトサブロー。後でハト用エサを上げるからな」
「くるっぽー」
上空からのハトサブローの一撃。ヘルメットシールドを貫通する一撃は目玉を突き刺し、見事、調査チームを自宅ダンジョンから追い出すことに成功したのであった。
まあ、調査員には少し可哀そうなことをした気がしないでもないが、どうせ治療魔法で治療されるのだから、痛いのは今だけ。我慢していただくしかない。
とにかくこれで自宅ダンジョン。調査チームが途中で撤退せざるをえない程に危険なダンジョンであることが立証された。後はこの調査結果がダンジョンオークションにどのように響くのか? 結果をご覧あれといったところである。
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