第83話 俺は久しぶりに学校へ登校する。

5月13日(月)


自宅ダンジョンの内部調査を明日に控えた俺は久しぶりに学校へ登校する。


ガラリ。教室のドアを開ける俺に対してクラスメイトの視線が突き刺さる。


ゴールデンウイーク。さらにはその後も黄金バッタ獣の肉を求めて自宅ダンジョンに籠っていた俺にとっては2週間ぶりの学校。長らくお休みしていたクラスメイトが登校してきたのだから物珍しいのは分かるが、俺を見つめる視線は妙にとげとげしい。


「城。ひさしぶりに登校したんすか?」

「お前、ゴールデンウイークの後半は加志摩たちとダンジョンに行ってたって聞いたっすけど?」


そんな空気の中、俺に話しかける男子生徒が2人だが……誰だ?


「ゴールデンウイーク初日。俺たちと助田さん含めた7人でダンジョンに潜ったっすやん!」

「まさか忘れてないっすよね?」


もちろん覚えている。聖騎士(SSR)助田の取り巻き2人。


「それで肝心の助田は? 姿が見えないが?」


「それがっすね……助田さんもゴールデンウイークからずっと学校来てないんすよ……」

「城もゴールデンウイークから休んでたっすから、何か知ってるかと思ったんすけど……」


助田の奴。五月病にでもなったのだろうか? 確か聖騎士ジョブを取得したことを随分と喜んでいた記憶がある。


「俺は知らないが、ダンジョンにでも行っているんじゃないか?」


「やっぱそうなんすかねえ?」

「助田さん。アンジェラさんと仲良くなったっすから、2人でダンジョンデートすかねえ……」


アンジェラさん。確かエ連から移住したという品川ダンジョンで出会った美人さん。あんな美人さんと仲良くなったなら学校どころでない気持ちもよく分かるが……


「おいおいおい。お前ら。なーに城と仲良くしてんのよ?」


そんな話し込む俺たちに割り込むクラスメイトの男子たち。


「い、いや。俺ら別にそんなつもりじゃなくって……」

「助田さんのことを知らないかと思って聞いただけっすから……」


クラスメイトを相手に何をビビるのか? 助田の取り巻き2人は俺の元を足早に離れ、自分の座席へ戻って行った。


「おい。城。お前よく学校へ来れたなあ? クラスのグループメッセージは見てるやろ?」

「佐迫さんからよお? お前と加志摩と只野の3人は、はみごにしろって言われてるんや」


そういえば俺たち3人、いじめ対象に指定されていると加志摩さんが言っていた。そのため加志摩さん只野さんは学校を休み、自宅ダンジョンに来ていたわけだが……


あれはクラスの陽キャを代表する佐迫さん主導によるもの。肝心の佐迫さんが失墜したのだから、てっきりいじめの話はなくなったと思っていたのだが……


加志摩さんのジョブが奴隷でないと証明、暴れる佐迫さんが独房へ連れて行かれたのは土曜日の話。今日が月曜日なのだからクラスメイトが知らないのも無理はないというわけで。


「その件ならすでに終わっている。俺たちに対するいじめ指令は直ぐにも撤回されるだろう。佐迫さんが登校したなら確認してみてくれ」


俺はクラスメイト男子を相手に懇切丁寧に説明する。


「はあ? いじめられたくないからって何を言っとんねん?」

「ええか? 佐迫さんは不良の先輩たちと仲が良いんや」

「せやから俺らはお前を殴る。そうせな俺らが殴られるからな」

「城。俺らのために犠牲になってくれ」


だが、俺の説明にもポキポキと拳を鳴らして近づくクラスメイト男子たち。


むぐぐ……このままではいじめ継続。俺はボコられ病院へ直行する羽目となり、そうなっては明日のダンジョン内部調査にも立ち会えない。ダンジョン落札計画は水の泡へと消えるわけだが……


「ちょっと貴方たち。何をやっているのですわ?」

「いじめなんて最低。絶対に駄目なんだから!」


今にも俺を殴らんと迫るクラスメイト男子を一喝するその声色。


「あん? お前らは加志摩と只野か?!」

「なんや? お前らもいじめターゲットの1人やぞ」

「それを分かって、よう顔を出せたもんやなあ?」


新たな標的が現れたとばかり振り返るクラスメイトたち。


「何がいじめターゲットですわ? 貴方たち、校則にいじめ禁止とあるのをご存じないのですわ?」

「学生手帳に書いてあるから覚えておかないと駄目だよ?」


「なーにがご存じですわじゃい」

「校則なんざ学生が守るわけねーだろうがよお!」


うーむ。とても学生とは思えない問題発言だが……


「俺ら学生が守るのは校内におけるヒエラルキー。クラスの序列ナンバー1である佐迫さんの言葉だけや」


平穏無事な学生生活を送りたいなら、何より優先されるのがスクールカースト。校則に違反したところで先生からの御小言だけで済むが、スクールカーストに違反してはいじめロックオンからの自殺もありえる危険事態。校則より大事という彼らの言葉にも納得する。


「せやから俺らはお前らをいじめる。そうせな俺らが殴られるからな」

「でも、さすがに女子を相手に殴るのはマズイしな……」

「お前らは写真を撮るだけで勘弁したる。おら。脱げや」


そういってスマホを取り出し構えるクラス男子たち。


何とか制止したいところであるが、残念ながらダンジョンを出た俺は単なるチー牛。ここは自宅ではないのだから近くに魔素もなく、いくらチギューと鳴いた所で俺に奴らを止める力は生まれない。


だが、そんな俺とは逆にダンジョンでは何の力もない奴隷が、ダンジョンを出たなら強い権力を持つということもあるわけで。


ガラリ。教室のドアを開けて入室する複数の人影。


「うっす。加志摩お嬢さん。俺ら究明高校応援団っす」

「お父上である加志摩議員は我が応援団のOB。毎年多額の寄付をいただいてるっす。あざっす」

「今回、加志摩議員からお嬢さんが不自由なく学生生活を送れるよう、支援するよう言われて来たっす」


ズラリ。勢揃いするのはいずれもハチマキを頭にガタイの良い生徒たち。


「……で? そのスマホを構えてお嬢さんに迫る野郎たちは何すか?」


ジロリ。そんな彼らのいかつい視線が一斉にクラス男子に突き刺さる。


「……え? い、いや。俺らはその……」

「ク、クラスメイト。単にクラスメイトとして親交を温めようと……」

「そんな服を脱がせてエロイ写真を撮影しようとか、思ってもいないから……」


慌てふためくクラス男子たち。


「ほーう? ほんなら同じ学校に通う高校生同士」

「俺らとも親交を深めようやないけ? ああん?」

「おら。外で一緒に写真撮影といこうやないけ!」


ガシリ。応援団に肩を掴まれ、教室の外へ連れ出されていった。


「いや、加志摩さん。ありがとう。危うくいじめられる所だったが助かった」


「いえ。わたくしは何も……」

「男子同士の友情って良いよね! 私も一緒に記念撮影したいかも?」


残念ながら只野さんの考えるような楽しい記念撮影ではないと思うが……変に正義感の強い只野さん。真実は黙っておくに限るというもの。


「それより加志摩さん。無事にお父さんと仲直りできたみたいだな?」


「ええ。城さんのおかげでわたくし奴隷でなくなりましたから、ようやく父から跡継ぎとして認めて貰えましたわ」


つまりは今後、加志摩さんは父である加志摩議員の援助が貰えるというわけで、それは加志摩さんの友人である俺にも影響する。


言うまでもないが議員の権力があるなら法律も関係ない。相手が役人だろうが警察だろうが議員バッジの前にはひれ伏すしかないのが公僕の習性。議員特権を盾にやりたい放題となるのが民主主義社会の常識。


そんな議員の中でも加志摩議員は与党の出世頭にして次期大臣が確実視される有望株なのだから、その後ろ盾が得られた今。もはや国内における勝利は約束されたといえるだろう。


「あの。城さんが何を期待しているか知りませんが、ここ最近は与党の不祥事が続いていることもあって、与党議員全員、しばらくは法律を守りおとなしくするよう党本部からお達しが来ているのですわ」


「マジかよ? 議員が議員バッジを振りかざして好き勝手出来ないのでは、一体何のために議員になったのか……?」


「城さんもニュースを見るなら知っているですわ? 最近の選挙は与党の敗北続き。すっかり野党に押されているから仕方ないのですわ」


なるほど。確かにそれは大人しくしろというのも仕方ないか……


「え? 法律を守るって当たり前だよね? 2人とも何を言ってるの?」


結局その後、佐迫さんが登校することはなかった。ついでにいうなら助田もだが、まあこちらはどうでも良いか。

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