第79話 かくかくしかじか。俺はこれまでの経緯を説明する。
一足先に自宅ダンジョンを出た加志摩さんたちを追いかけ、イモの部屋に戻る俺であったが……
室内には床に倒れ伏して動かない加志摩さん只野さんワンちゃん3匹。そして部屋の隅でガタガタ震えるハト2羽の姿があった。
「あ! おにいちゃん! 大変だよ! 泥棒だよ! 自宅ダンジョンに侵入者だよ!」
その傍らには、バチバチと身体から青白い電気を迸らせるイモの姿。
「でも、もうイモが捕まえたから安心だよ。で、この後どうしよっか? 燃やす? それともモンスターに食べさせる? わざとゾンビにして経験値にするのも良いかもねー」
「あの。イモさん……まさか殺してないですよね?」
「え? 侵入者だよ? スパイは殺して当然だよね?」
オワタ……妹の不始末は兄の不始末。クラスメイトを手にかけたとなれば残る俺の人生。塀の中で慎ましく暮らすしかなくなったのであった……
「なーんて。イモの電気で気絶させただけだよー。おにいちゃんからメッセージが来てたからねー」
つまり殺していない。スタンガンで気絶させたような感じというわけで、それなら良かった……良かったのか? メッセージを見ていたなら気絶させなくとも良かったような気がしないでもないが……まあ、良いか。
「で? この売女たち何なのかな?」
「いやいや。売女ではなくてクラスメイトだ。心優しくも学校を休んだお兄ちゃんのお見舞いに来てくれたんだが、その際、この自宅ダンジョンを見られてしまってだな……」
かくかくしかじか。俺はこれまでの経緯を説明する。
「ふーん。お金を出してくれるパトロンってわけ? 勝手にイモの部屋に入られたのはプンスカだけど、それなら仕方ないかなー?」
ほっ。貧乏生活の続く我が家の事情。お金に弱いのはイモも俺と同じというわけで、事後報告となったが納得してくれた様子で何よりである。
「じゃあ白姫ちゃん。起こしてあげてくれる?」
「クルッポー」
イモの呼びかけに白姫様の唱える治療魔法。
「はっ! ですわ」
「うーん……何だか身体が痺れる」
「わんわん?」
2人と3匹が気絶から目を覚ましていた。
「みんな無事か?」
「城さん? わたくしたちどうしたのですわ?」
「部屋に戻ったと思ったら目の前に青白い光が走って……どうなったんだろ?」
「くーん?」
頭に疑問符を浮かべる2人と3匹。何が起きたか理解する間もなく一瞬で気絶したのだろう。さすがはイモである。
「おそらくはいきなりダンジョンを出て魔素のない場所に出た影響で気を失ったのだろう……気圧の変化で耳がキーンとなるようなものだ。多分」
「そうなのですわ? そんな症状、初耳ですわ」
「それにこの部屋、魔素あるみたいだけど……」
「わんわん?」
俺も初耳であるが、まさかイモの仕業であるとバレては今後の関係に影響する。ここは誤魔化すしかないというわけで。
「それより俺の妹のイモだ」
俺は話題を変えるべくイモを紹介する。
「
「あ、加志摩ですわ」
「只野だよ。私たち城くんと同じクラスなんだ」
「きゃいんきゃいん……」
軽く頭を下げるイモの姿を見たワンちゃん3匹。尻尾を股に怯えていた。
「それより加志摩さん。この部屋を出て右へ進んだ先がお手洗いです」
「え? ……あああっ!?」
イモの言葉に大慌てで立ち上がる加志摩さん。部屋を飛び出し駆け出して行った。いったい何ごとかと思えば……
「ごめんね。私が掃除するから」
その後に点々と続く水跡。只野さんはポケットからティッシュとハンカチを取り出すと、ゴシゴシ床掃除を始めていた。
まあ、尿意も限界の中、電気ショックを浴びて気絶したのでは膀胱が緩むのも仕方がないというわけで……
その後、イモが持って来た雑巾とバケツで拭き取り。最後に除菌消臭スプレーを吹きかけ掃除を終えた俺たちはリビングに集まっていた。
「申し訳ありませんですわ……」
リビングで手をついて詫びる加志摩さんだが、ダンジョンで探索者が漏らすのは日常茶飯事。それが美少女JKであるならマニアにとってはご褒美のようなもの。
「探索者生活を続けるならよくあること。気にする必要はない。それより、あらためて俺の妹のイモだ」
無難な慰めの言葉をかけたところで、話題を変えるべく途中で終わっていたイモの紹介を再開する。
「妹子です。イモとお呼びください。よろしくお願いします」
「あの部屋、イモさんの部屋だそうで……申し訳ありませんですわ」
「加志摩さん。これ以上は気になさらないでください。さ、どうぞ手を」
そう言って加志摩さんの手を取り立ち上がらせるイモの様子だが……おかしい。普段のイモは、おにいちゃんおにいちゃんと子供っぽさ満点。本当に来年から高校生なのかと心配になる位であったはずが……
「イモちゃん凄いね。中学生とは思えない位に落ち着いてる」
「そうですか? ですが、我が家は母子家庭。母が仕事で家にいないその間、私が兄を支えないといけませんからね。それで大人びて見えるのでしょう」
などと語るが、いや。誰だよお前? そもそも母がいない間、我が家を支えるのは俺であり、イモはといえば母から注意されないのを良いことにコーラにポテチとグータラ三昧。それがいったいどうしたことか?
「そちらのワンちゃんが捨て犬だった3匹ですか?」
「そうなのですわ。その、城さんが里親になってくれるそうなのですが……イモさんも大丈夫でしょうかですわ?」
「もちろんです。もう名前はあるのですか?」
「アイン、ツヴァイ、ドライだよ。仲良くしてあげてね」
「そうですか。アイン」
「わん!」
イモの呼びかけにワンちゃんが1匹。イモの前まで進むとお腹を見せて横たわる。
「可愛いですね」
イモがワンちゃんのお腹をひと撫でする。
「ツヴァイ」
「わん!」
続いて呼ばれたワンちゃんが同じくイモの前、お腹を見せて横たわる。
「え? 何の儀式ですわ……?」
「さあ?」
野生の動物がお腹を見せて横たわる。自分の弱点を相手に晒すのは降伏のサインであると聞いた覚えがあるが……
「ドライ」
「わん!」
最後に残る1匹のお腹をなでる。
「かしこいワンちゃんたちですね。これからよろしくお願いします」
ワンちゃん3匹。イモを主人と認め、忠実なペットになったというわけだ。
「それでは、わたくしたちこれでお暇しますですわ」
「城くん、明日は学校はどうするの?」
「今は黄金バッタ獣の肉を手にいれることが最優先。それまで俺は自宅ダンジョンに引き籠る」
「あのですわ……それなら、わたくしもお邪魔してよいかしらですわ?」
つまりは学校をサボり、俺と共に自宅ダンジョンに籠るというのだろう。
本来、学校はサボらない方が良いわけだが……
クラスのメッセージグループでいじめ対象に指定された今、下手に学校に行くのは危険となる。首謀者である佐迫さんを何とかするまでは、確かに学校に行かない方が良いだろう。
「じゃあ私も。加志摩ちゃんに味方した私も、いじめ対象に入ってるだろうしね」
「分かった。だが、2人とも自宅ダンジョンのことは誰にも話さないように。くれぐれも内密にお願いする」
こうして黄金バッタ獣の肉を手に入れるまで、加志摩さん只野さんが自宅ダンジョン探索に付き合ってくれることが決定する。
「それならお兄様。私も付き合います」
「駄目である」
残念ながらいじめ騒動と関係のないイモが学校を休むことは認められず、学生の本分は勉強。しっかり学んできて欲しいものである。
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