第77話 お昼を終えた俺たちは再度、イモの部屋から自宅ダンジョンへと舞い戻る。
お昼を終えた俺たちは再度、イモの部屋から自宅ダンジョンへと舞い戻る。
梯子を降りた地下1階。ダンジョン内に満ちる暗黒の霧の中。
「見える。見えますわよ! いえ、見えないですが超音波スキルで暗闇の中でも敵の位置が分かりますわよ!」
新たにスキル「超音波」を得た加志摩さんは嬉々として包丁を振り回す。
「おほほ。これがスキルの力ですわ。わたくし強くなったんじゃありませんこと?」
暗黒の霧の中。デバフでまともに動けないモンスターに対して超音波でもって周囲を観測。暗闇をものともせず動ける加志摩さん。ステータスの劣る奴隷ジョブであろうとも有利に戦える。
当然、それは加志摩さんだけではない。
「クルッポー!」
これまでは白姫様の護衛としてトコトコ歩くだけ。正直、戦力としては微妙であったハトサブローが今は暗黒の霧の中、その空中を自在に飛び回ると。
「クルゥ!」
地面を這いずるイモ虫獣を見つけると急降下。ズブリ。脳天にくちばしを突き刺し仕留めていた。
戦車がヘリコプターを苦手とするように、地上のモンスターは空中からの攻撃に脆いもの。
ただの野良ハト。白姫様のおまけであったハトサブローだが、スキル「超音波」を得た結果、我がパーティにおける貴重な航空戦力となったのであった。
そして加志摩さんに付いて走り回るワンちゃん3匹。
「わんわん」
ご存じ犬の夜目は人間より上であり、何よりその嗅覚は人間の1000倍を超えるのだから暗闇も関係なく戦える。
当初はどうなることかと思ったものだが、ニャンちゃんなしでも十分な戦力となっていた。
「おほほ。これがスキルの力ですわよー!」
「わんわん」
といっても油断は禁物。加志摩さんを目掛けて、壁から1匹のモンスターが飛び立ち襲い掛かる。
ガサガサ ピョーン
「ひ? ひぎえええ!? ゴ、ゴ、ゴキイイイ!!!???」
羽を広げて飛び掛かるのはご存じゴキブリ獣。デバフによりステータスが下がっているとはいえ、巨大ゴキブリ獣が空を飛び迫り来るという
放心したように立ち尽くす加志摩さんの前。飛び掛かるゴキブリ獣を目掛けて、さらに空中から襲い掛かる1羽の姿。ハトの好物といえば種子に穀類豆類、そして昆虫というわけで。
「クルゥ!」
ハトサブローは空中でゴキブリ獣をくちばしで突き刺し捕食する。
「はあはあ。助かりましたわ……ですが、ここ。ゴキブリ獣が出るのですわ……」
「うん……あれはちょっと生理的に無理だよね……」
ゴキブリ獣は地下1階のモンスターでは一番の難敵。加志摩さん只野さんが嫌がる気持ちも良く分かる。
「よし。じゃあ地下2階へ降りよう」
動きの速く攻撃力も高いゴキブリ獣であるが、そのHPは高くない。暗黒の霧に放置するだけで、いずれ毒で死ぬのだから無理に戦う必要もない。
それよりも戦うべきモンスターがいるというわけで、ダンジョンを降りた地下2階。
「ンモー!」
さっそく俺たちを出迎えるのはウシ獣。
「ウシですわ! ウシですわよこれ?!」
そういえば加志摩さん只野さんは品川ダンジョンでも地下1階で戦うだけ。地下2階へ降りるのは初めてとあって、生のウシ獣を見るのは初めてになるわけだが……
「その。只野さん、大丈夫だろうか?」
「え? 何がかな?」
ペット大好き。ペットの殺処分0を目指したいと言っていた只野さん。
ご存じ牛といえば酪農に畜産と、ペットではないにしても人間と近しい関係にある動物。そんな牛に似た外見を持つモンスターと戦うことに抵抗はないのかと聞いてみたのだが。
「牛はただの肉だから。殺して食べるのが当然だよね?」
「はい」
ま、まあ戦うことに抵抗がないならそれで良いというわけで……
「それに牛に似ていてもモンスターだから。それなら殺すしかないよ」
世の中にはモンスターも生きていると、モンスターの殺害に反対する団体も存在するが、只野さんは違うというわけだ。もっとも探索者になるのだからそれも当然か。
「ウシ獣といっても暗黒の霧の中。まともに動けないのだから今までどおり落ち着いて戦えば大丈夫だ」
触覚や超音波を有するゴキブリ獣やコウモリ獣に比べ、逆に戦いやすいといえるだろう。
「分かりましたわ!」
「わんわん」
「クルゥ!」
そうしてウシ獣へと襲い掛かる加志摩さんとワンちゃん3匹ハトサブロー。グサグサわんわんクルゥと戦った結果、血を流したウシ獣は地面に倒れ魔石を残して消滅するわけだが……
「はあはあ……わたくし。クソ雑魚でしたわ……」
うむ。スキル「超音波」を得た加志摩さんだが、単に暗闇で動けるようになっただけ。クソ雑魚ジョブの奴隷であることに変わりはなく力不足。振るう包丁はウシ獣の表皮に弾かれ通用しない。
それに対して、ウシ獣の足に噛みつき動きを止める大活躍の子犬3匹。つまり奴隷ジョブである加志摩さん。子犬よりも攻撃力は低いというわけで、落ち込むのも無理はないが……
「まあ、敵の攻撃を引き付ける囮にはなっているのだ。徐々に力をつけていけば良いだろう」
それに今の加志摩さんたちの戦うべき相手はウシ獣ではない。
地下2階を進んだ先。洞窟の奥に突如広がるのは一面の草原。俺たちは草原広場へとたどり着いた。
「なんですの?! 草原ですわよ? 凄いですわ!」
「凄いね。ダンジョンにこんな場所があるなんて!」
そんな草原広場の一角に存在するモンスターゲート。ゲートに光が走ると同時、中から飛び出す2匹のモンスターはバッタ獣。
「これがバッタ獣ですわ? これの黄金色をしたバッタ獣を倒せば良いのですわよね?」
「そうだ。確率は低いだろうが、根気よく倒し続ければ、いずれ出ると思う」
「分かりましたわ。それなら行きますわよ!」「わんわん」「クルゥ!」
現れたバッタ獣を相手に加志摩さんたちが戦う最中、俺は1人モンスターゲートに手を触れる。
─────────
─暗黒門LV30 :黄金ダンジョン地下2階その1
─────────
─エラー:暗黒門LV30の操作には暗黒熟練が不足しています
─────────
おそらくは草原広場にあるこのゲートが、黄金バッタ獣を召喚可能となるゲート。その必要LVは30にして、今の俺のLVは28。
はたしてモンスターゲートから運よく黄金バッタ獣が出るのが先か? それとも俺のLVが30となり召喚できるようになるのが先か?
「やりましたわ! 楽勝ですわよ!」
バッタ獣は地下2階の最弱モンスター。加志摩さんたちには、このまま草原広場で戦ってもらうことにする。
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