第76話 「お、黄金ですわ! あれって黄金モンスターですわよ!?」

自宅ダンジョン地下1階。


「この野郎ですわ」

「わんわん」

「クルゥ!」


ズバーン。俺の貸し出す包丁を手に、現れるモンスターを退治して回る加志摩さんとワンちゃん3匹とハトサブロー。


「うむ。LVが上がったのか動きが良くなってきているな」

「みんな頑張って!」

「クルッポー」


それを遠巻きに腕組みで応援する俺と只野さんと白姫様。


「はあはあ……何だか不公平ですわ……」


ジロリ。ジト目で俺たちを睨む加志摩さんだが、これは役割分担。人それぞれできることが異なるのだから仕方のない現実。


「包丁を返すなら俺が戦っても良いのだが……その場合、加志摩さんは経験値は手に入らない。それでも良いだろうか?」


パーティで退治したモンスターの経験値は等分割。ただし何も貢献しない場合は雀の涙しか得られず、戦うしかできない加志摩さん。戦わないなら当然にまともな経験値は得られない。


それに対してバフやデバフ。回復魔法で支援する俺たちサポート組は、魔法の後は突っ立っているだけで等分割の経験値が得られるVIP待遇。


「こんなの差別ですわ……奴隷差別ですわよ?」


残念ながら能力によって待遇が異なるのが資本主義社会。それが嫌なら社会主義国家に移住するしかない。もっとも社会主義の理想と現実は異なると聞くが……


「努力によって上を目指せるのが資本主義社会の良いところ。黄金肉を食べてスキルを得れば上を目指せるのだから、頑張る理由になるだろう?」


「……本当ですわね? 信じますわよ?」


やけくそで包丁を振るう加志摩さん。そんな必死な思いが通じたのかどうか。


パタパタ。洞窟上空を飛来する1羽のコウモリ獣。


「お、黄金ですわ! あれって黄金モンスターですわよ!?」


その体毛は金色。まごうことなき黄金コウモリ獣。


「でも空を飛んでますわ……ハトサブローさん。倒してくださるかしら?」


「クルゥ……」


残念ながら暗黒の霧の漂うダンジョン内。鳥目のハトサブローが空を飛ぶのは危険とあって項垂れる。


「残念ですわ。そうなると石をぶつけるしかありませんわ?」


だが、石を投げつけるまでもない。超音波で俺たちの存在を感知した黄金コウモリ獣は先頭を歩く加志摩さんの首筋を狙って急降下。


高空からの急襲にまるで反応できない加志摩さんの顔の脇をすり抜け。


ドカーン


地面に激突。気絶する。


「よ、よく分かりませんが助かりましたわ?」


暗黒の霧の漂う洞窟内。デバフ五感異常で視覚聴覚を惑わされた黄金コウモリ獣は、地面との目測を誤り自爆したのであった。


「今のうちに止めですわよ」


ズブリ。包丁を突き刺されて死亡する黄金コウモリ獣。


「凄い経験値……LVが上がりましたわよ!」


これこそが黄金モンスターの魅力その1。大量の経験値。そして。


「お肉ですわ……黄金コウモリ獣のお肉がドロップしたのですわよー!」


黄金モンスターの魅力その2。スキルを習得できる黄金肉。ドロップ率10パーセントを運よく引いたというわけだ。


「よし。そろそろお昼だし一度戻ろう。黄金肉を料理する」


ニャンちゃん4匹は地下3階のままだが、元々がダンジョン内で暮らしているのだ。お腹が空いたなら勝手にネズミ獣でも食べるだろう。



お昼ご飯のため俺、加志摩さん、只野さん、ハト2羽、ワンちゃん3匹そろって自宅ダンジョンからイモの部屋へ。


台所へ移動した俺はハト餌をハトさん2羽へ。そしてイモがニャンちゃん用に買っておいたキャットフードを皿に入れるとワンちゃん3匹へと差し出した。


ドッグフードとキャットフードでは栄養成分が異なる。あまり食べさせない方が良いと聞くが、今だけの例外。ワンちゃんが成長、ネズミ獣を食べられるようになるまでの間だけである。


そしていよいよお楽しみの黄金コウモリ肉。


フライパンで丸焼きにしたお肉を20等分。大皿に盛りつけ食卓へと並べる。


「これが黄金コウモリ肉……いよいよわたくしにもスキルがですわ」


早くもお箸を伸ばそうとする加志摩さんだが。


「加志摩さん。このお肉だが1切れずつゆっくり食べて欲しい。そして、スキルを習得できた時点で教えて貰えるだろうか?」


はたして1個の黄金肉から、何人の人間がスキルを習得できるのか? いずれ黄金肉の販売を考えるなら知っておくべき情報となる。


「分かりましたわ。それでは……いただきますですわよ!」


ぱくぱくですわとばかりお肉を1切れずつ口に運ぶ加志摩さん。


今までは黄金肉1個を俺とイモと母とで3等分していた。となると全体の1/3、お肉を7切れ食べた時点で習得できるのは間違いないが……


「ぱくぱく?! こ、これは……?」


お肉を5切れ食べた時点。身体に電流が流れたかのように動きを止める加志摩さん。


【加志摩さんは、超音波スキルを習得した】


「んほお……お、覚えた……わたくし、スキルを覚えましたわよ!」


椅子を立ち上がると声を上げて喜んでいた。


20等分のうち5切れということは25%。つまり、黄金肉1個から、4人の人間がスキルを習得できるというわけだ。


「やりましたわ! 只野さん! わたくし奴隷ではなくなりましたわよ!」


「加志摩ちゃん。やったね! おめでとう!」


2人、手を取り喜んでいるところ申し訳ないが。


「加志摩さんが食べたのは黄金コウモリ肉だから、習得できるのは偽装スキルではない。奴隷は変わらないぞ?」


「え……? 言われてみましたら……これは超音波スキル? 何ですわこれ?」


「元がコウモリ獣のスキル。超音波を飛ばして周囲をレーダーのように観測できる便利なスキルだ」


「はあ? それで何の役に立つのですわ?」


「暗闇でも道に迷わなくなる」


コウモリが暗闇の洞窟内、自由自在に空を飛べるのも超音波あってのもの。となれば……


「白姫様。ハトサブロー。このお肉を食べるように」


俺は皿に入れたハト餌を取り上げると、代わりに黄金コウモリ肉を放り込む。


ハトは雑食。好んで食べるわけではないが、例えお肉だろうが食べようと思えば食べられる。


「クルッポー?」


何これ? マズそうと不満げなハト2羽であるが、他に食べる物がないなら食べるしかないというわけで。


【ハトサブローと白姫様は、超音波スキルを習得した】


これまでは鳥目で暗闇を苦手としたハト2羽だが、今後はダンジョン内。暗黒の霧の中だろうが、自由に空を飛べるようになったのであった。


そして残る黄金コウモリ肉だが……


「じゃあこれは只野さん。どうぞ」


「え? 良いの? スキルを覚えられるってものすごく貴重なんじゃ……?」


「まあ、その代わり、ダンジョンや黄金肉のことは正式発表するまでは内緒に。その口止め料ということで」


ニャンちゃんたちにも覚えさせたい所だが、元々の夜目がある。後でも大丈夫だろう。


「じゃあ、いただきます」


【只野さんは、超音波スキルを習得した】

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