第75話 「只野さんの強化魔法。俺の暗黒の霧も強化されているのか……」
瞳をうるわせ感動する
「よし! それじゃワンちゃん3匹をパーティに追加する」
わんわん走り回る3匹を捕まえる俺の様子に。
「わ、わたくしも参加しますわよ」
「私もパーティに参加する!」
只野さん加志摩さんも参加すると言う。
「だが今日は平日、月曜日。2人とも学校に戻らなくとも良いのだろうか?」
「戻るも何もクラス八分なのですから戻っても仕方ありませんわ」
「殺処分0のためだよ? 授業なんて受けてる場合じゃないから」
確かに今、学校に戻っても嫌がらせを受けるだけ。クラス八分が解消するまでお休みするのが良いだろう。そんな加志摩さんの言い分はよく分かるが只野さん……まあ、良いか。
「分かった。パーティ加入を承認する。アクセプト」
こうしてここに人間3人+ネコ4匹+ハト2羽+イヌ3匹。合計12人?パーティが完成する。
これまで7人?だった所に新たに5人?が増えたのだから戦力は大増強。さっそく地下3階。ゴブリン獣を倒しまくるぜ! といきたいところだが……
「わんわん」
つぶらな瞳で見上げるワンちゃん3匹。いくら将来は大型犬に成長するといっても今はただの子犬でしかなく。
「困りましたわ。今日は学校の予定でしたので包丁がないのですわ」
「そうなんだ」
Dジョブを取得して間もない加志摩さんと只野さん。
このまま地下3階へ連れて行こうものならワンちゃん3匹はゴブリン獣に殴られ即死。女子2人は組み伏せられた後、薄い本の題材となることは想像に難くない。
となれば無理せず地下1階。ニャンちゃんに介護して貰いながらネズミ獣を相手に戦うしかないわけだが……
うーむ。これでは戦力アップどころかただの足手まとい。LVアップを急ぐべき今。いったいどうしたものかと今後の方針を考えあぐねる俺の前。
「武器がないなら私が魔法で強化するよ。ストロング・パワー」
強化魔法を唱える只野さん。そういえば彼女のDジョブはSRの強化魔導士。バフを受けた俺たちパーティ全員の身体に力がみなぎる。
「アイン、ツヴァイ、ドライ。身体能力を強化したけど、どう? 行ける?」
「わんわん!」
只野さんの強化魔法を受けたワンちゃん3匹、元気いっぱい辺りを駆け回ると。
ガブリ
「チュー!?」
通路に見つけたネズミ獣へと噛みつき退治する。
なるほど只野さん。本体はクソ雑魚なれど強化魔法で周囲を扇動。駒として戦わせる
それは良いのだが……
「只野さん。その、アイン、ツヴァイ、ドライというのは?」
「ワンちゃんたちの名前だよ?」
「……なるほど」
「……そうなのですわ?」
アイン、ツヴァイ、ドライとはドイツ語における1、2、3。日本犬にして国の天然記念物である秋田犬の名前が何故にドイツ語なのかと疑問に思わないでもないが……
「ゲバ棒のゲバはドイツ語の
なるほど……とにかく。子犬とはいえかつては狩猟犬だったという秋田犬。只野さんの強化魔法があるなら子犬たちだけでネズミ獣を相手に戦える。であるなら───
「発動。暗黒の霧」
俺は解除していた暗黒の霧を再度、ダンジョン内へと放出する。
俺の
「ニャン太郎たちは地下3階。ゴブリン獣を狙って好きに行動してくれ」
「にゃん」と一声残したニャン太郎。ニャンちゃん軍団を率いて地下への階段を駆け下りていった。
「白姫様たちはこのまま。もしもワンちゃんたちが怪我した時の治療を頼む」
「クルッポー」
俺はパーティを分割。それぞれのLVに合わせた場所で戦わせることにする。
何せダンジョン内は全て暗黒の霧の領域内。誰がどこでモンスターを倒そうとも、俺にも経験値が入るのだからそれが効率的。
さらには……
「只野さんの強化魔法。俺の暗黒の霧も強化されているのか……」
当然、暗黒の霧が与える毒も強化されているというわけで、これまで以上の速度でモンスターを退治することが可能になっていた。
なるほど。これは足手まといなど、とんでもない誤解。
只野さんの強化魔法。暗黒の霧を強化するという、ただそれ1点だけでお釣りの来る戦力増強となっていた。
そんな行動を開始する俺たちと異なり。
「ちょっと?! この黒い霧。先ほどわたくしたちを毒で殺そうとした邪悪な霧ですわよ!」
「くーん」「きゃいんきゃいん」
イモの部屋でのことを思い出したのだろう。怯える加志摩さんと子犬3匹の姿。一時は毒で死にかけたのだから怯えるのも無理はないが。
「大丈夫だ。パーティを組んだ今、悪影響といっても霧で周囲が見えづらくなる程度。毒を受けることはない」
「え?」
「くーん?」
「もしかしてこの黒い霧。城くんの魔法なの?」
「そうだ。俺のDジョブはSSRの暗黒魔導士。デバフ魔法を得意とするジョブで、この暗黒の霧は俺の魔法だから心配はいらない」
頭に疑問符を浮かべるメンバーに対して、胸を張り宣言する俺であったが。
「……あれ? 城くんのジョブってRの傭兵って話だったよね?」
「……もしかして城さん。わたくしたちに嘘をついていたのですわ?」
えー? こいつクラスメイトに嘘ついてたってクソ野郎じゃん? と言わんばかりの2人のその目つき。
「嘘ではない。加志摩さんには話したと思うが、これが黄金バッタ獣の肉を食べて得られる偽装スキルの力。今の俺を鑑定するなら傭兵と表示されるだろうから、嘘ではない」
「……そうなんだ?」
実際に毒を受けたわけではない只野さん。それなら仕方ないとそれ以上の追及は取り止める。そして実際に毒で死にかけた加志摩さんはといえば。
「……その偽装スキルですが、実際に偽装先のジョブの力を。今ですと傭兵ジョブのスキルを使えたりするのですわ?」
奴隷ジョブである加志摩さん。スキルを覚えたい。使ってみたいという思いの方が強いのだろう。その興味は偽装スキルに移っていた。
「いや。偽装スキルはあくまで鑑定結果を誤魔化すだけ。それ以外に何の効力もなく偽装先のジョブの力は使えない」
「……そうですか」
「だが、食べる黄金モンスターの種類によって、異なるスキルを覚えることができる」
「……それって黄金バッタ獣以外のモンスターを食べれば、偽装スキル以外にも習得できるってことですわ?! 他のスキルも習得できるってことですわ!?」
よほどに興奮するのだろう。詰め寄る加志摩さん。
「運よく黄金モンスターを退治。運よく肉がドロップすればの話だが」
「凄い……それが本当なら凄いですわ! わたくしも戦いますわよ!」
腕まくりをする加志摩さん。ちょうど通路に現れたスライム獣を目指して武器もないまま走り突撃していった。
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