第74話 こうして我が自宅ダンジョン。新たな仲間が3匹、加わったのであった。

自宅ダンジョン地下1階。勢揃いするのは先に梯子を降りた加志摩さん。只野さん。ハト2羽と子犬3匹。


ダンジョンに落ちたと思えた子犬3匹だが、ハトサブローと白姫様の2羽が受け止めていたため無傷である。


そんな俺たちの前に新たに現れる4匹の黒影。


「モ、モンスターですの!? 注意するですわよ!」

「分かった。強化魔法をかけるから」


用心し身構える2人であったが。


「にゃん」「わんわん」


現れたのはニャン太郎たち猫4匹。子犬3匹に興味津々。お互いにその匂いを嗅いでいた。


「ちょ、ちょっと?! なんでダンジョンに猫がいるのですわ?」

「我が家の飼い猫だが、どうやらダンジョンに落ちてしまったようだ」

「そうなんだ。可愛い」


疑問に思う加志摩さんと単純に喜ぶ只野さん。


「それより、2人とも靴を履いた方が良い」


俺は玄関から持ってきた2人の靴を足下へと差し出した。


「城くん。ありがとう」

「妙に準備が良いのですわ……怪しいですわよ?」


やれやれ。他人を疑うことも大事だが、クラスメイトの好意は素直に受け取るもの。


「ニャン太郎。すまないがモンスターを瀕死にして連れて来てくれるか?」


「にゃん」


仕方ないにゃあ。とばかり、ダンジョンに散らばる猫4匹。待つことしばし。戻って来るニャン太郎たち。


「ちょ、ちょっと?! この猫たち、口にネズミ獣を咥えていますわよ!?」

「うーむ。驚きである」

「猫ちゃんたち強いんだ。凄いね」


子犬3匹の前に瀕死のネズミ獣をぽい置きしていた。


「わんわん」


敵に対しては勇敢に戦うのが秋田犬。ちゅうちょなくネズミ獣に噛みつくと。


「わおーん!」


喜び吠えるその様子。どうやらDジョブの獲得に成功したようだ。


「もしかして子犬たちがDジョブを獲得したというのですわ?」

「うーむ。驚きである」

「そうなんだ? 凄いね」


こうして我が自宅ダンジョン。新たな仲間が3匹、加わったのであった。


「ちょっと城さん! 貴方、さっきから驚きである。ってまるで驚いていませんわよね? 何か隠しているんじゃありませんわ?」


さすがに加志摩さん。議員の娘だけあって俺の嘘にも気づいたというわけで、これ以上に誤魔化すのは難しい。


「先日、加志摩先生に言ったはずだ。俺は偶然ダンジョンで遭遇した黄金モンスターの肉を食べてスキルを習得したと」


「もしかして……それがこの自宅ダンジョンというわけですわ?」


「そうだ。そして偽装スキルを習得できる黄金バッタ獣の肉を手に入れ、加志摩先生に販売すると。その黄金バッタ獣を見つけるべく、俺は学校を休み戦っている」


「ですが……だとしたらそれこそダンジョン協会に報告しませんとですわよ? 黄金モンスターの出るダンジョンなんて大ニュースですわよ?」


「無論、報告する。だが、今すぐ報告してはダンジョン協会の調査が入り俺はダンジョンを追い出される。そのため俺が報告するのは来週。黄金バッタ獣の肉を手にいれ加志摩さんのジョブが奴隷でなくなってからだ。加志摩さんにとってもその方が都合が良いのではないだろうか?」


「そ、それはそうですわですが……」


俺の説明に納得する一方、自分の都合で。私利私欲のため報告を遅らせて良いものか? 悩む加志摩さんを心配したのか、わんわん足下を走り回るワンちゃんたち。


「ちなみに加志摩さんは知っていると思うが、公共ダンジョンへのペットの持ち込みは禁止されている」


「……何が言いたいのですわ?」


なかなかに頑固な加志摩さんだが、探索者のルール上、加志摩さんの言い分が正しいのは間違いない事実。であれば最後に加志摩さんを説得するにはルールにのっとった理詰めではない。感情を動かすお気持ち表明。


「ダンジョン協会職員が調査に入るならペットは全てダンジョンを追い出される。せっかく譲り受けた秋田犬3匹だが、そのような大型犬を3匹、我が家に飼育する余裕もスペースも存在しないのだから、保健所へ持ち込み。泣く泣く殺処分するしかなくなるだろう」


「くーん……?」


俺の言葉にボク。殺処分されるの? と不安気に加志摩さん只野さんを見上げるワンちゃん3匹。


「そんな!? 駄目だよ! だって、まだこんな子犬なんだよ?!」


クラス八分を許さないと憤るほどに正義感の強い只野さん。動物に対する愛護精神も強いのだろう。殺処分に反対。不安気なワンちゃんを元気づけるべくその頭を撫でていた。


「ですが、わたくしは議員の娘。ルールとしましてわ……」


「当然、殺処分はワンちゃんだけではないぞ? ニャンちゃんもハトさんも。全部、全部殺処分だ!」


「にゃーん……」「くるっぽー……」


俺の言葉を聞いて一様に悲し気な声を上げるペットたち。


「そんな! こんな可愛いペットたちを……それにハトちゃんは加志摩ちゃんを助けてくれたんだよ? それを殺処分するなんて……加志摩ちゃんがそんなことするなら私、絶対に許さないから!」


実のところ誰が悪いといえば飼えもしないワンちゃん3匹を引き取る俺であるが……暴走する正義心。そのように理性的判断のできるはずもなく、環境保護と称して美術館の絵画にスープをぶち撒けるが如く加志摩さんに詰め寄る只野さん。


「わ、分かりましたわ。分かりましたから落ち着いてくださいですわ」


例えルール違反だとしても、お題目に感動ワードを掲げられては強く拒絶できないのが現代の風潮。


「ですが1週間ですわよ? それ以上は議員の娘であるわたくしが目をつぶることは出来ませんですわよ?」


そして1度目をつむったなら1週間だろうが何だろうが同じである。先っちょだけでも突っ込んだなら、そのまま勢いに任せて奥まで突っ込むのが世間の常識。そのままズルズル脅迫をも交え取り込まれるのが闇社会の常であるが……


「ありがとう。加志摩さん。それで十分だ」


まあ、俺は闇社会の人間ではない。ただの高校生なのだから約束は守ることにする。


「でも……それじゃ寿命が1週間延びるだけ。1週間後にはペットちゃんたち全員、殺処分になるだけじゃないの!?」


「大丈夫だ。発見されたダンジョンは調査の後、オークションとなる。俺は黄金バッタ獣の肉を売ったお金で、このダンジョンを落札する予定でいる」


今度は俺に食って掛かろうとする只野さんを落ち着かせるべく説明する。


「公共ダンジョンとは異なり、ダンジョン内のルールを作るのは落札した企業次第。俺はこの自宅ダンジョンをインクルーシブでダイバーシティな21世紀のSDGSダンジョンへと。ペットと共生できるもふもふダンジョンとすることをここに宣言する」


何を言っているかは俺自身もよく分からないが、感動ワードに対抗するには感動ワード。それらしい横文字を並べるなら雰囲気で誤魔化すことも可能というわけで。


「もふもふダンジョン……凄い……凄すぎるよ城くん! 私も協力する

!」


瞳をうるわせ感動する只野さん。


「……もふもふダンジョンって何ですわ? 頭わるわる。人気稼ぎが見え見えのネーミングですわ……」


とりあえず1週間。ダンジョンのことは黙ってくれるという加志摩さん。


ここに新たな仲間が2人、加わったのであった。


「もふもふかあ……いずれは各地の動物保護団体とも協力。ペットの殺処分0を目指して活動するってことだよね? 城くんがそんなことを考えていたなんて……もしも政府やダンジョン協会が何か言って来たら私がゲバ棒とプラカードを準備するよ! 一緒に頑張ろう!」


いや。俺にそのように壮大な目標はなく、政府やダンジョン協会と戦うつもりもないのだが……

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