第73話 「それで加志摩さんと只野さん。どうして俺の自宅に?」

俺はイモの部屋。子犬の入ったダンボール箱を抱える加志摩さん只野さんと相対する。


「それで加志摩さんと只野さん。どうして俺の自宅に?」


「城さんがお休みだと聞いて、2人でお見舞いに来たのですわ」


マジかよ? 学校を休んだクラスメイトを女子がお見舞いするなど、まさかそのようなリア充イベントが現実に存在するとは……


「だとしても今は午前中。時間的には授業中のはずでお見舞いに来るには早すぎると思うのだが?」


「そ、それはわたくしクラスからハブられ……ではなくてですわ。えーと」


俺の指摘に何やら口ごもる加志摩さんに対して。


「クラスのグループメッセージに加志摩ちゃんと城くんを無視するようにって書き込みが。それで心配で来たんだ」


加志摩さんに代わって答える只野さん。


マジかよ。ダンジョンに忙しくグループメッセージは読めていなかったが、これでは村八分ならぬクラス八分。いじめ大国日本に相応しい見事な策であるが……


「その書き込み。もしかして佐迫さんの仕業か?」


「うん。そう言ってた」


それで学校に居づらくなった加志摩さん。見舞いと称して俺の自宅を訪れたというわけだ。


「でも、そんないじめみたいな真似は駄目だから。私は絶対に加担しないから」


只野さん。地味な普通のクラス女子だと思っていたが……その実、心に熱いものを隠し持っていたというわけで、そんな彼女だからこそSRの強化魔導士となったのだろうか。


「只野さん。ありがとう。だが、実のところ俺と加志摩さんの擁護は不要である」


「え? どうして?」


「今より1週間後、俺たちと佐迫さんの立場は逆転。クラス八分となるのは佐迫さんの方だからだ」


現在、佐迫さんが加志摩さんにマウントを取れるのは、加志摩さんのジョブが奴隷であるのが原因。もしも世間にバラされては次の選挙で父が敗北するとあっては、加志摩さんも逆らえない。だが……


「本来、我がクラスにおけるパワーバランスは加志摩さんが上。社長令嬢より議員令嬢の方が力は上なのだから、加志摩さんが奴隷でなくなればクラスの問題は全て解決する」


「でも、1週間後でも加志摩ちゃんのジョブが奴隷は変わらないと思うんだけど……?」


「それが変わるのである」


「そうなんだ?」


あまりダンジョンに詳しくない様子の只野さん。自信満々に変わると力説されては信じるしか仕方はない。


「それよりですわ? どうしてこのような場所にダンジョンがあるのですわ?」


クラス八分の話は触れたくないのだろう。話題を変える加志摩さん。


「ダンジョンを発見しましたらですわよ? ダンジョン協会へ報告するのは探索者としての義務ですわ」


「そうなんだ?」


「そうなのですわよ。城さん。貴方、きちんと報告したのですわ?」


疑うような目つきの加志摩さんだが。


「報告するも何も俺も今さっき見つけたばかりだ」


「そうなのですわ? それなら今からダンジョン協会へ報告するですわ」


懐からスマホを取り出す加志摩さん。当然、ここで電話されては全てが台無し。


「まあまあ。慌てない慌てない。仮にも俺たちは探索者。子供の使いではないのだから、例えダンジョン協会へ報告するにも少し調べてから報告する方が良いのではないか?」


「それは……そうかもしれませんが……」


実際のところ勝手な真似をせず、すぐに報告するのが良いわけだが……


ただでさえ奴隷ジョブとして父の足を引っ張る加志摩さん。一人前の探索者になりたいという思いは誰よりも強いのだから、子供の使いと言われて逡巡するのも無理からぬこと。


「そのため俺は風邪を口実に学校を休み、今からダンジョンを調べようというわけだ。加志摩さんも一緒に調べるなら探索者としての株も上がるだろうが……どうする?」


「ですが探索者のルールとしましてわ……」


そんな俺たちの前。


「わんわん」


只野さんの抱えるダンボール箱から子犬が3匹。箱を飛び出すと白姫様にじゃれつくよう跳ね回る。


「……この子犬たちは? 捨て犬だろうか?」


「うん。公園で見つけたんだ。それで加志摩ちゃんと里親を見つけようって連れて来たんだよ」


トコトコ逃げる白姫様を追いかけ駆けまわる子犬たちの姿。


「もしかしてこの3匹。秋田犬あきたいぬではないか?」


「うん。そうだよ」

「そうなのですわ?」


秋田犬といえば忠犬ハチ公のモデルとして知られる日本すげー俺すげー動画の定番犬。主人に忠実な犬として知られる天然記念物。であるなら。


「良ければこの3匹……俺が貰い受けて良いだろうか?」


「え? 本当!? でも3匹も大丈夫? 今は子犬で小さいけど大きくなるよ?」


成長した秋田犬は体重40キロにも迫る大型犬。一般家庭が3匹も飼うのは難しいだろうが。


「俺は愛犬家。何の問題もない」


大型犬ということは当然、番犬としての戦闘力も高く、ダンジョンで飼うには最適の犬といえるだろう。


「くるっぽー」


鳴き声1つ。白姫様とハトサブローの2羽が床に開いた穴へ。ダンジョンへと羽ばたき飛び込むのに釣られて。


「わんわん」

「あっ!」


ハトを追いかけ子犬たち3匹もダンジョンへと続く穴に飛び込んでいった。


「ちょ、ちょっと!? ダンジョンに落ちてしまいましたわよ?」

「子犬だし危ないよ! 追いかけよう!」


言うが早いか梯子に飛びつきダンジョンへ滑り降りる只野さん。


「只野さん? それに子犬たちも……わ、わたくしも行きますわよ!」


ダンジョン協会への連絡も忘れて、加志摩さんも梯子を降りて行った。


その様子に俺は一度自宅の玄関へ。2人の靴を拾い上げるとドアに鍵をかけた後、2人を追いかけ自宅ダンジョン地下1階へ向かうのであった。

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