第67話 加志摩さん。同じジョブであるにも、明らかにパワー不足に思える。
「あのさー? 疑問なんだけど、
コーラを飲み干し立ち上がる
「そ、それはどういう意味ですわ?」
「どういう意味も何もさー? 助田の友達にも学徒(N)がいたじゃん? 同じジョブなのにもっと強かったと思うんだけどー?」
言われてみれば確かに。
前回パーティを組んだ際、俺が集団行動に不慣れなのもあったとはいえ、学徒(N)の男は俺よりよほどパーティに貢献、戦えていた。
それと比較するなら加志摩さん。同じジョブであるにも、明らかにパワー不足に思える。
「そ、その、これはあれですわ。テストステロンが男性ホルモンでうんぬんかんぬんで……男女の筋力差ってやつだと思うのですわよ」
確かに男女の筋力差はジョブにも影響を及ぼすだろうが……必死に抗弁する加志摩さんの目は明らかに泳いでみえる。大丈夫だろうか?
「ふーん。あのさあ? それじゃもう1つ疑問なんだけどー? 加志摩っち。なんでダンジョン入るのに装備が包丁と学校指定ジャージなわけ?」
いやいやいや。ここまでは友人同士の話すこと。俺には関係ないと様子を伺う俺であったが、話が加志摩さんの装備に及ぶとなれば別である。
装備を整えるにはお金が必要。つまりはその人の家計事情がダイレクトに影響するのが装備であるからして令和の現在。いくら2人が友人同士だろうとも、おめーんち貧乏じゃね? と言わんばかりにセンシティブな佐迫さんの質問。感受性豊かな俺はまるで俺自身が責められているかのように感じ心苦しくなるわけで……
「あの、佐迫さん。加志摩さんの装備。確かにモンスターを相手するには貧弱であるが、装備を整えるにもお金が必要となるわけで、俺も昨日までは盾もなく私服に包丁という……」
「あのさー?
「……はい」
生来が陰キャで内弁慶の俺が令和ギャルに詰められては黙るしかない。
しかし俺の顔のどこが貧乏なのか? やはり美容院に行っていないのが。イモに散髪してもらうだけで顔を剃っていないのが原因か?
だが、その観点で考えるなら加志摩さん。貧乏くさい俺と異なり、学校で見かける姿はセットの効いた髪型といい服装といいお金持ちのお嬢様っぽい雰囲気を漂わせている。
それがいざダンジョンとなれば包丁に学校指定ジャージだけというのは、言われてみれば確かに違和感はあるが……
「パパに頼めば装備くらいは買ってくれるっしょ? だって加志摩っちのパパって与党なんだしダンジョン推進派しょ?」
……与党でダンジョン推進派? それってもしかしてだが……
「あの……加志摩っちのパパとは、もしかして議員か何かなのだろうか?」
「はあー? 議員か何かも加志摩っちのパパは与党に所属する衆議院議員 の加志摩先生。近いうちに閣僚入りもって言われて近所じゃ有名じゃん……って、あれ? 城っちは中学が違うから知らない感じ?」
「はい。初耳である」
国会議員といえば権力者。それも与党でいずれ閣僚入りもあるとなれば民主主義における天上人といっても良い存在。まさかそのような恐れ多い存在がクラスメイトにようとは……
「だが、おかしいのではないか? 我が校は公立校。国会議員の娘ともあろうお嬢様が、何故に私立ではない公立高校にいるのだ?」
「それがさー? 加志摩っちのパパは議員といっても貧乏からの成り上がり。元はうちの高校のOBらしくてさー?」
「……
つまりは加志摩さん。貧乏そうに見えたのも庶民の気持ちを知るための成りすまし。その実態は国会議員にして次期閣僚の娘。まるで俺とは異なる存在。同じ貧乏人であると肩入れする俺の心情はいったい何だったのか……?
「だとするなら包丁に学校指定ジャージという加志摩さんの装備。常日頃から賄賂に不正とあぶく銭を貯蓄する議員の娘にしては装備がショボすぎるというわけか……」
「だから、あーしがそう言ってるじゃん?」
俺と佐迫さん。2人から疑問の目を受ける加志摩さんだが……
「あの。お2人を信用して、ここだけの話をしてもよろしいですわ?」
「もちって感じでー? あーしと加志摩っちの仲じゃん?」
残念ながら俺と加志摩さんは先月から同じクラスとなり、2回ほどダンジョンへ潜っただけの関係。親しいかと言われると親しくないわけだが、前回、半グレ3人組から助けたことで信頼を得たのだろう。
力強く頷く俺と佐迫さんの顔を見た加志摩さんが口を開く。
「わたくしの
佐迫さんの推測どおり。加志摩さん。俺と同様にDジョブを偽って答えていたというわけだ。
いや。偽るといえば聞こえは悪いが、そもそもが会ったばかりのクラスメイトを相手に個人情報を晒せという方が問題。昭和の時代ならいざ知らず、令和の現代、ボロンと簡単に晒せるはずもなくクラスメイトを相手にDジョブを偽る俺は悪くねー。
と逆ギレしたところで、問題はなぜ加志摩さんが偽って答えたかにある。
俺の場合はSSRという希少レアリティを取得したと目立ち注目されたくないのが原因。自宅ダンジョンという秘密を抱える俺が目立ってはマズイからであるが……
「それで? 加志摩っちの本当のDジョブってどんな感じー?」
「……奴隷(N)ですわ」
パラリ。俺は100パーセント攻略読本から奴隷(N)を探し見る。
─────────
■奴隷(N)
個人評価: 4/10点
集団評価: 4/10点
総合評価: 4/10点
■スキル
なし。
─────────
総合評価は4点で一見すると総合評価5点の学徒(N)と大差ないように思えるが、奴隷(N)ジョブを取得した者が迫害されないよう配慮して4点としているだけ。実際の点数としては1点でもおかしくないという。
とにかくステータスが低いのに加えて、何1つスキルを覚えないというのが致命傷。現在、判明しているDジョブの中で圧倒的最低のジョブとされるのが奴隷(N)である。
それは確かに隠し偽るのも無理はなく、だからこそ、ダンジョン協会も自身のDジョブはみだりに周囲に話さないよう注意喚起しているわけだが……
「……ぷっ」
そんな加志摩さんの告白を聞いた俺たち。
「ぷっ……はははっ。あーはっはっはっはー」
何故か佐迫さんは腹を抱える大笑い。
……今の話、どこか笑うような所があっただろうか? どうにもギャルの笑いのツボが俺には分からないわけだが……
「だってさー? 国会議員の娘に生まれるって親ガチャ大当たりの加志摩っちが、Dジョブガチャに大外れで奴隷(N)って……ぷっはっはっはっ。これを笑わないで何を笑えって感じー?」
現実世界とダンジョンはまるで異なる世界。現実世界でどれだけ凄い人間であっても、ジョブが奴隷では探索者として成功することは無理である。
半面。現実世界でそれだけクズであろうとも、ジョブがSSRであるだけで勝ち組となれるのがダンジョンであり探索者。おそらくは佐迫さん。そのギャップを笑うのだろうが……
「まあ、ダンジョンと現実世界は別。人には向き不向きがあるのだから加志摩さんに探索者としての才能がなかっただけ。無理に探索者をやらなくとも議員の娘であり現実世界では勝ち組であるのだからして……」
とにかく。加志摩さんと佐迫さん。いきなり目の前で友人同士が険悪となる場面を見せられては第三者である俺がいたたまれない。何とか場の雰囲気を丸く収めようと努力する俺の言葉に対して。
「ぷっはっはっはっ。いや現実世界で頑張れって言ってもねー? 城っちも酷なことを言う感じー?」
「いや……何か変なことを言っただろうか?」
「だってさー? 与党はダンジョン推進派じゃん? その議員の娘がダンジョンじゃ役立たずの奴隷ジョブってー? 加志摩っちのパパ、恥ずかしすぎて閣僚入りどころか党内での出世も無理って感じでしょー?」
現在、議席の多数を占める政府与党は国民が探索者となりダンジョンへ入ることを推進しており、その政策の一環として実施されたのが探索者資格の取得年齢引き下げである。
別にジョブが奴隷だからといって探索者になることに問題はないが、ダンジョンを推進する与党閣僚の娘が奴隷であると知られては、世間的に外聞がよろしくないのは確かである。
「それで加志摩っちのパパがキレて奴隷の娘なんかいらねーって感じで? 援助もなしに放り出されたって感じー?」
「わたくしが悪いのですわ。父の期待に応えらず足を引っ張ってしまいまして……閣僚入りどころか次の選挙で党の推薦が貰えるかどうかも怪しいそうなのですわ……」
「それは……思ったよりも一大事ではないか」
議員でなくなっては企業からの性接待もなければ賄賂も貰えなくなる八方塞がり。先生先生と持ち上げられる生活からただの一庶民へと下落する。
父である加志摩議員がキレて放逐する気持ちも分からないではないが……
ダンジョンにおいてどのようなジョブが得られるかは全くの運次第。本人の努力とは無関係なギャンブルであるのだから、それを怒り放逐したところで仕方はない。
「せめてLVを上げれば父も考え直してくれるかと……そのためにも、わたくし頑張らないといけないのですわ」
加志摩さん。前回。みんなが帰った後も1人ダンジョンを探索していた最大の理由が自身のDジョブにあったというわけだ。LVを上げるためにも聖騎士(SSR)助田のパーティを追放されるわけにはいかないと。
「はー。なるほどって感じー」
加志摩さんの告白に笑みを浮かべる佐迫さん。
「加志摩っちには、あーしもよく勉強を教えて貰ったりしたわけだしー? 今度はあーしが探索者として助けてあげるって感じでー?」
「佐迫さん……ありがとうですわ」
おそらくは加志摩さんにとっても勇気のいる告白。それを信頼し明かしてくれたということは、佐迫さんと同様。出会って間もない俺のことも友人と認めてくれたというわけで……
「俺も毎日は無理だが、予定が合えばLVアップに協力する」
「城さんも……ありがとうですわ」
本当に困った時に助けてくれる友人の数で、その人の価値が決まるという。どうやら加志摩さん。日頃の行いが良かったのだろう。俺も含めて良い友人を持ったようである。
そんなめでたしめでたしといった雰囲気の中。飲み終えたコーラのペットボトルを片手に振りかぶる佐迫さん。
「それじゃまずはLVアップのためにもー? ……おい。加志摩。おめーがモンスターを釣って来いや? こんな感じによー!」
ポカーン。そのまま加志摩さんへと投げつけぶち当てた。
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