第66話 どうせ品川ダンジョンへ行くなら1つ。やっておきたいことがある。

5/4(土)祝日


今日は品川ダンジョンの日。

いつものごとく品川ダンジョン狩場でモンスターを相手に適当に時間を潰したその後、自宅ダンジョンから持ち出した魔石を売却するわけだが……


どうせ品川ダンジョンへ行くなら1つ。やっておきたいことがある。


それは品川ダンジョンのモンスターゲートの登録。


暗黒魔導士(SSR)はモンスターゲートを操作できることが判明。そして登録したモンスターゲート間をワープ移動できることが分かったわけだが……


となると、気になるのが異なるダンジョン間でもワープ移動出来るかどうかにある。


それを知るためには品川ダンジョンのモンスターゲートを登録。つまりはモンスターゲートに手を触れ、転送ポイントとして登録する必要があるわけだが……


現在の俺のLVで制御できるのは地下1階のモンスターゲートだけ。そして品川ダンジョン地下1階における監視カメラのカバー率は100パーセント。特にモンスターゲート周辺、モンスターの湧き出る場所とあって念入りに監視カメラが設置されている。


さらには周辺狩場には他の探索者も多くいるだろうから、もしも怪しげな人間がモンスターゲートに近づき手を触れようものなら、何やってんだおめーと即座に呼び止められ注目の的となるだろう。


暗黒魔導士がモンスターゲートを制御できることは、100パーセント攻略読本にもインターネットにもない俺だけが知る情報。情報化社会である21世紀。情報を制する者が世界を制するのだから、なるべく明かしたくはないとなれば……


誰か協力者が必要。


一瞬で良い。誰か協力者が監視カメラの、他の探索者の視線から盾となってくれるそのうちに、ゲートに触れて登録を完了させる。


問題は協力してくれる人間だが、年齢制限に引っかかるためイモは使えない。


となると……先日にダンジョン探索の約束をした加志摩かしまさんか……


──どうも。城です。今日あたりダンジョン行きませんか?

──加志摩です。昼からなら行けます。


そんなわけで加志摩さんにメッセージを送った俺は品川ダンジョンに来ていた。


GW当初は人も多く混雑していたが、大部分の者がダンジョンジョブを取得し終えたのだろう。人の賑わいは普段の日曜程度にまで戻っていた。


「お待たせですわ」


俺はロビーで加志摩さんと合流したわけだが……


「んもー。城っち。いつの間に加志摩っちと仲良くなったわけー?」


その場にはクラスメイトにして剣士(R)の佐迫させこさんも一緒であった。


「何故なのか?」


「んー。何か今あーしの中でダンジョンブームが来てるって感じでー?」


「はあ」


「それが助田はアンジェラさんアンジェラさんで、ダンジョンに付き合ってくれない感じだしー?」


アンジェラさん。確かエ連から移住したという美人さんだったか。相手が美人なら仕方ないとはいえ、助田のやつ。ダンジョンにはもう飽きたのだろうか?


「それで加志摩っちに連絡したら城っちとダンジョンへ行くって言うからー? あーしも着いて来たって感じでー?」


剣士(R)を取得したばかりで、ジョブの力を試したいのだろう。


「まあ、それなら3人で地下1階の狩場へ行ってみるか?」


振り返る俺は加志摩さんに確認する。


「ええ。すみません」


当初は2人で行くはずだった予定が3人となったことを謝るのだろうが、俺の方はあくまで時間潰し。2人が3人になろうとも何の問題もない。それどころか監視カメラの盾となってくれる人間が増えるわけだから歓迎するべきこと。


「あ! あーしは装備を取って来るから、ちょっと待ってて!」


そう言って佐迫さんは有料のレンタルロッカーへ走って行った。


事前に装備を準備していたのだろう。銃刀法の都合上、探索者といえどダンジョン外への武器の持ち出しは禁止されており、刀剣類を扱う探索者はレンタルロッカーへ預ける決まりとなっている。


しばらく後、ロッカーから装備を身に着けた佐迫さんが戻るが……


いったい何処の戦国時代から来たのか? 由緒正しい和装の鎧兜に太刀をはいた鎧武者となり戻って来ていた。


「だってパパがさー? あーしのジョブが剣士だって言ったら、これを準備したらしくてー?」


前にクラスの6人とパーティを組んだ時も佐迫さんは太刀を手にしていたが、あれも父が準備したのだろう。なかなか良い趣味をしているようで。


「もしかして佐迫さんの家はお金持ちなのだろうか?」


俺は隣に並ぶ加志摩さんに聞いてみる。

どう考えても高価に思える佐迫さんの太刀と鎧。いくら娘のためとはいえポンと買い与えられる金額ではない。


「佐迫さんのご両親はアパレルショップを束ねる社長さんですわ」


どうりでお金があるわけだ。


俺は加志摩さん佐迫さんとはこの春から同じクラスとなったばかり。どういった人物なのかまだよく分からないが、この2人。いや、今はいないが只野ただのさんを加えた3人。昔からの友人同士に思えるが……


片や鎧兜に太刀を手にした戦国時代の佐迫さん。片や学校指定ジャージに包丁1本というチャレンジャースタイルの加志摩さん。友人同士にも悲しいかな圧倒的格差が生まれるのが現代の資本主義社会。


だが、資本主義だからこそ成り上がりも可能というわけで。


かくいう俺もゴブリン獣キングの盾を手に入れるまでは。昨日までは私服に包丁だけのチャレンジャー装備だったのだから、加志摩さんの惨状。他人事とは思えず肩入れしたくもなるというもの。


地下1階。探索者でにぎわう狩場へ移動すると、俺は背中に背負うリュックからゴブ王の盾を取り出し装備する。


「それじゃ俺がモンスターを釣って来るので待っていてくれ」


「おっけー。城っち。頼んだって感じー」


太刀を両手に。狩場でどっしり身動きするつもりのない佐迫さん。鎧武者姿でモンスターを釣る役割は無理とあって俺の指示にも素直なものである。


視界にはちょうどモンスターゲートを飛び出たスライム獣の姿。


「魔弾。発射」


手早く暗黒の霧を凝縮。暗黒水球として投げつける。


バシャーン


命中。怒り心頭。俺を狙ってポヨンと飛びつき体当たりするスライム獣をゴブ王の盾で受け止めながらも、佐迫さん加志摩さん2人の前までスライム獣を誘導する。


助田のいない今日、俺がタンク役となりモンスターの攻撃を引き付けるなら、チャレンジャー装備の加志摩さんも安心して戦える。モンスターを倒してLVを上げるなら探索者として成り上がることも十分に可能というわけで。


「よし。ヘイトを取った。2人とも背後から攻撃を頼む」


「城っち。ナイス。それじゃ、あーしが」

「わ、わたくしも」


スライム獣の背後に回る佐迫さんは太刀を左右に振り回す滅多斬り。スライム獣はメタメタに斬り裂かれ絶命した。


「楽勝って感じー?」

「え? あ、はいですわ」


太刀を掲げ勝ちどきを上げる佐迫さんの隣で所在なさげに頷く加志摩さん。左右に太刀を振り回す狂人の近く。包丁を手にする佐迫さんが近づけるはずもなく、一太刀も浴びせる暇はなかったのだから無理もない。


「あー。その、佐迫さん。パーティプレイなのだから太刀を振り回すにも左右を確認してからでなければ仲間を斬りつける危険性が……」


「えー? だって太刀は振り回してなんぼって感じだしー?」


「まあ、うむ……はい」


確かに太刀を振り回す滅多斬りは格好良く気分爽快。太刀なら仕方がないと気を取り直したところで、モンスターゲートを飛び出したイモムシ獣。


「魔弾。発射」


バシャーンと命中。怒り心頭。俺を狙ってズリズリ這い寄るイモムシ獣を2人の元まで誘導する。


「よし。ヘイトを取った。背後から攻撃を頼む」


肉厚ボディは打撃斬撃に耐性があり、口から吐き出す強酸液は人体をも溶かすという、地下1階では強敵に位置するモンスターがイモムシ獣だが……


ズバズバズバーン


佐迫さんは太刀を左右に振り回す滅多斬り。イモムシ獣はメタメタに斬り裂かれ絶命した。


「うぇーい。楽勝って感じー?」

「……」


太刀を掲げ勝ちどきを上げる佐迫さんの隣で所在なさげに頷く加志摩さん。


「あの、佐迫さん。せめて加志摩さんが一太刀入れるまでは、地道に縦斬りあたりでチクチクと……」


「は。何それ? 萎えるわー。テンションだだ落ちって感じなんですけどー?」


「いや。そのようなことを言われましても、一太刀も入れないまま倒したのでは経験値が等分割されないからして……」


そもそもが俺と異なり2人は以前からの友人同士。俺が言うまでもなく気を使うところであるはずが……


「はー。それじゃ次の獲物は加志摩っちに譲る感じでー? あーしは休憩するじゃん?」


兜を脱ぐと地面に座り込みペットボトルのコーラをグビグビ飲み始める佐迫さん。ダンジョンに。狩りに慣れて来たからだろうか? 前にパーティを組んだ時は他のメンバーにも配慮した動きをしていたように思うのだが……


「……じゃあ加志摩さん良いだろうか?」


「よ、良いですわよ」


「魔弾。発射」


再び暗黒の霧を凝縮。ゲートを飛び出したイモムシ獣に暗黒水球を投げつけた俺は、ズリズリ這い寄るイモムシ獣を引き連れ加志摩さんに声をかける。


「加志摩さん。頼む」


「分かりましたわ。ってイモムシ獣? ちょ、ちょっとわたくし1人では危なくありませんこと?」


加志摩さんが懸念するのも無理はなく、本来なら1人では厳しい相手かもしれないが……


「大丈夫。俺が引き付けるから背後から包丁を突き刺してくれ」


「か、簡単に言いますわね」


おっかなびっくり。イモムシ獣の背後に回るとへっぴり腰で突き刺す加志摩さん。


いつイモムシ獣が振り返り自分に強酸液を吐きかけるか分からないのだから、へっぴり腰となるのも無理はないが……


実のところ強酸液を警戒、へっぴり腰となる必要はまるでない。


スキル暗黒熟練の習得により、俺は暗黒の霧に込めるデバフの種類をコントロール可能となっていた。


先程ぶつけた暗黒水球でイモムシ獣に与えたデバフは五感阻害、全能力弱体。MP減少蒸発。全耐性減少。


そして封印。


封印は相手のスキルを使用不能とする凶悪なデバフ。スキルを封じられたイモムシ獣は強酸液を吐き出すことも出来ず、ただの肉達磨でしかないというわけで。


ズブリ ズブリ


10分におよぶ死闘の結果。


ズブリ ズブリ


加志摩さんの突き刺す包丁により、イモムシ獣は煙となり消え去った。


「やりましたわ! イモムシ獣を相手に無傷ですわよ? わたくし強くなったんじゃありませんこと?!」


イモムシ獣を相手に10分か……


肉厚ボディで打撃斬撃に耐性のあるイモムシ獣だが、俺のデバフによりその防御力は豆腐のように脆く落ちている。


先ほど佐迫さんがあっさり滅多斬りできたのもそれが原因となるわけで、いくら加志摩さんの武器が包丁とはいえ、もう少し早く倒せても良いと思うのだが……


「はー。加志摩っち、やっと倒したって感じー?」


コーラを片手に佐迫さんが溜息をつくのも無理はなく、加志摩さん。はっきり言って弱いと言わざるを得ない。


すでに幾度かクラスメイトとダンジョンに入っているのだから、最低でもLV2はあると思うのだが……失礼ながらレアリティNのジョブとはこんなに弱いものだろうか?


確か加志摩さんのジョブは学徒(N)と言っていたが……


パラリ。俺は100パーセント攻略読本から学徒を探し見る。


─────────

■学徒(N)

個人評価: 5/10点

集団評価: 4/10点

総合評価: 5/10点


■スキル

LV1:経験値上昇 :獲得する経験値が上昇する

LV5:全能力小上昇:全能力が少し上昇する

─────────


うーむ。総合評価5点か……

弱いのも無理はなく、はっきりいって雑魚である。


それでもLVの上昇に伴い身体能力は向上するわけで、幸いにもスキル経験値上昇によりLVは上がりやすい模様。そのままLV5スキルの全能力小上昇を習得すれば大分マシになるだろう。


もっともそれ以降。地下奥深くまで潜るのは無理だろうが……


それは取得したダンジョンジョブがNであった時点で諦めるしかない運命。ある程度の稼ぎまでは行けるだろうからそれで十分とするしかない。


「あのさー? 疑問なんだけど、加志摩っちのジョブって本当に学徒(N)なわけー?」


だが、そんな折。コーラを飲み干し立ち上がる佐迫さん。先ほどの戦いを見て加志摩さんに疑問を投げかけていた。

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