第64話 地下3階へ遠征する精鋭が勢ぞろいしていた。
自宅ダンジョン地下2階。草原広場に建つ無敵要塞。
その前庭とも言うべき草原には、地下3階へ遠征する精鋭が勢ぞろいしていた。
ニャンちゃん部隊のリーダー。ニャン太郎。
その嫁であるニャン子。ニャン香。ニャン美。
治療魔法の使い手。白姫様。巻き込まれ連れて来られた普通のハト三郎。
そして俺を入れて総勢7名……うむ。1人足りないではないか。
要塞を覗けば、イモ虫マットに寝転がるイモの姿。
「イモー。起きろー行くぞー?」
「ん? お、おおー?」
イモはこの弾力あるイモ虫マットがよほど好きなのだろう。
「眠いなら寝ててもいいぞー?」
「むにゃ。行く。モンスター退治に行くー」
どうやらそれ以上にモンスター退治が好きなようで。
とにかくイモを加えた8人パーティ。地下3階へ降りる階段前に集合する。
「おそらくだが地下3階にはゴブリン獣が出るだろう」
ダンジョンによって出現するモンスターは異なるが、今のところ品川ダンジョンと自宅ダンジョンに大きな差はない。
「うわー。楽しみだね。ゴブリン」
普通は人型モンスターを相手どるのは嫌がるものだが……まるで恐れるどころか戦うことを待ちわびるかのようなイモのその様子。頼もしいと喜ぶべきなのかどうか微妙なところではあるが……
地下3階へ突入するその前に、俺は地下1階と地下2階に展開していた暗黒の霧を全て解除。MPを確保すると。
「つどいし闇の魔力よ。漆黒の霧となり我らの道を指し示せ。発動。暗黒の霧」
俺は地下3階へ向けて暗黒の霧を全力展開する。
超音波によるソナー機能を得た暗黒の霧は、触れた敵を感知するだけではない。超音波を発して周囲の地形をも探知する。
つまりは地下3階。暗黒の霧が満たされた空間において、俺にはその通路の作りも。行きかうモンスターの数と種類も。その全てが手に取るように分かるのだ。
ゴブリン獣が1000。ゴブリン獣チーフが100。ゴブリン獣メイジが50。ゴブリン獣ヒーラーが20。それに一際大柄なこれは……
「ゴブリン獣キングがいるな……しかもこの地下3階。要塞化されている」
地下3階。これまでの鍾乳洞とは異なる人工的な石造りの通路は複雑に交差し迷路のように入り組んでいる。
加えてこれまで天敵となる者が誰も存在しなかったことから、増えに増え続けたゴブリン獣たち。地下3階各処に建造物を作るにまで繁栄していたというわけだ。
普通に攻略するならやっかいなのだろうが……
流し込む暗黒の霧によってゴブリン獣1000匹の全てが前後不覚の行動不能状態。チーフ、メイジ、ヒーラーは魔法防御が高く行動不能は半数程度に留まるが、先制攻撃としては十分な戦果といえるだろう。
「それじゃニャン太郎、みんな。行くぞー」
「にゃん」「にゃー」「なー」「にゃーん」
地下3階、暗黒の霧の只中へイモたちは飛び込んでいった。
……いや。2匹がまだ残っている。
「クルッポー」「クゥクゥ」
首をふりふり。何やらハト三郎が訴えているようだが……ふむふむ。これはアレか? 自分ら鳥目だから暗闇は無理だと。そう言いたいように思える。
なるほど……暗黒の霧を全力展開する地下3階は一寸先も見えない暗闇に包まれている。
EXスキル熱赤外線感知により暗闇での行動が可能となった俺とイモ。そして元々が夜行性で夜目を持つニャンちゃんたちと異なり、鳥目のハトさんが行動することは難しい。
かといって多数のゴブリンが蠢く地下3階。暗黒の霧を手加減したのでは危険がある。今後を考えるとハトさん達にもEXスキルを習得させる必要はあるが……それは次回の話。
「白姫様とハト三郎は無敵要塞に戻っていてくれ。ハト三郎。白姫様の護衛を頼むぞ」
もしも怪我人が出たなら戻り治療を受ければ良い。
「クルッポー」「クゥクゥ」
無敵要塞へと引き返すハトさん2羽を後に、俺も地下3階へ突入する。
すでに各処で戦闘が始まっており、ゴブリン獣の数は800にまで減少していた。
ひとまず俺は電撃をぶっ放しているイモと合流する。
イモと一緒に行動するのはニャンちゃん2匹。
「ニャン香とニャン美だよ」
広い地下3階。手分けしての探索というわけで、別行動する2匹がニャン太郎とニャン子。あの2匹はニャンちゃんの中でも古参。相応にLVも高いだろうから心配はない。
「イモ。この先の広間。ゴブリンが大量だぞ」
「どんと来いだー」
通路を抜けた先。広大な広間の各処には侵入者を防ぐべく複数のバリケードが設置され、その中央には天井まで達する大きな塔が建てられていた。
塔の上階。バルコニーに居並ぶゴブリン獣は全員が弓矢を装備するゴブリン獣アーチャー。
通路を抜けた所でバリケードに足止めされる俺たちへ向け、高所から一方的に矢を射かけるつもりだったのだろうが……
「……ゴブ?」「Zzz……」「ゴブーゴブー?」
バルコニーに位置取るゴブリン獣アーチャーは弓矢を手に呆然と佇む者。居眠りする者。混乱する者などなど。
暗黒の霧が地下3階全域を覆い尽す今、誰1匹としてまともに動けるゴブリン獣は存在しない。
そんな混乱するゴブリン軍団に向けて、天に掲げた指先をイモが振り下ろすと同時。
「落雷直撃。サンダーストライク」
上空に光が走り、巨大な雷が塔へと落ちた。
ゴロゴロ ビシャーン
その衝撃にバルコニーのゴブリン獣アーチャーが階下へ落下する。
ゴロゴロ ビシャーン
続けて落ちる落雷がバリケード後方で身を潜めるゴブリン獣ガードの集団に。後方で杖を掲げるゴブリン獣メイジの集団に。
ゴロゴロ ビシャーン
いくら陣地を築こうが上空からの攻撃は防ぐことが出来ず、すでに広間のゴブリン軍団は壊滅寸前。
「ホブゴブー!」
これ以上に雷を落とされてはたまらないとばかり、バリケードを飛び出すゴブリン獣チーフがイモを狙うべく駆け寄るが。
「なー」「にゃーん」
ズンバラリン
イモの前に立ちはだかるニャンちゃん2匹に頸動脈を噛み裂かれ
ゴロゴロ ビシャーン ドカーン
最後に広場中央。特大の落雷が塔に落ちる。
ゴブリンの塔は瓦礫の山と崩れ落ち、広場の制圧は完了した。
「しかしイモ。暗黒の霧をばら撒く俺が言うのも何だが、この暗闇でよく正確に雷を落とせるな」
充満する暗黒の霧により、辺り一面が暗闇と化した地下3階。黄金ヘビ肉から得たEXスキル熱赤外線感知があるとはいえ、イモは米粒のように遠くの敵にまで正確に落雷を落としていた。
「ふふーん。イモ。見なくても敵の場所が分かるもんねー」
「ほう? かくいう俺も暗黒の霧にEXスキル超音波を併せたソナー探知でもって、見ずして敵の居場所を知ることができるが……」
そういえばイモも超音波を持っているか。
「イモはねー。なにか電気ビリビリと合わせた感じ?」
電気と超音波を合わせる……もしかして電波探知機、いわゆるレーダーか?
照射した電波の反射を測定することで対象までの距離や方向を測るという、いわば近代戦争における基本の基がレーダー探知。軍事はもちろん民間にまで幅広く活用されている、あのレーダーか?
「マジかよ……もしかして俺のソナーより性能が上なのではないか?」
「ふんす。まいったか」
そうして地下3階。俺たちはゴブリン獣の築き上げる建造物を破壊しながら、広間を1つ1つ制圧しながら奥地へ。ゴブリン獣キングのいる大広間を目指して進んで行った。
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