第60話 クラスメイトと共に来たのは地下1階の狩場。

クラスメイトと共に来たのは地下1階の狩場。


品川ダンジョンで出現するのはスライム獣とネズミ獣にイモムシ獣。自宅ダンジョンのようにゴキブリ獣やコウモリ獣は現れず、安全に狩れるとあって今日も多くの人でにぎわっていた。


「うし。んじゃお前らモンスター釣って来てや」


助田の号令に従い、男子2名は石ころを手に周囲に散らばっていく。


その間に助田は右手に木刀。左手に木の盾を持っていた。


「助田さん。はぁはぁ。連れてきましたっす」


男子生徒の1人がアメーバ獣に石を投げ当て、俺たちの元まで走り逃げて来る。


「うし。只野さん。お願いやで」


「うん。攻撃防御上昇」


強化魔導士(SR)の只野さんが魔法を唱えると同時、俺の身体に力がみなぎり肌が硬質化するのを感じる。


これが強化魔法か。


強化魔導士(SR)の代名詞たるパーティ全体を対象とする強化魔法。総合評価8.0点にも納得の効果といえるだろう。


ポヨンとスライム獣が助田の顔を目がけて飛びかかる。


「おっしゃ。いくで。聖なる鎧を発動や!」


助田はアメーバ獣の体当たりを受け止めるべく、左手に構える木の盾を突き出した。


いや。無理だろう。仮にも相手はモンスター。


動きも遅く体力も低い。モンスター界最弱とされるスライム獣だが、その全体重を乗せたジャンプ体当たりだけは危険な攻撃。プロレスラーのフライングボディアタックにも相当する破壊力で押しつぶしたその後、動けない相手に覆い被さりスライム粘液で消化する。


弱そうな見た目からスライム獣を舐めた初心者探索者が幾人も犠牲になるという、初心者キラーがスライム獣。


予備動作の大きいことから落ち着いて左右に回避する。もしくは飛び跳ねるその前に叩いて倒すよう、攻略読本に書かれている。


それをたかが木の盾で受け止めようなど……


やれやれ……やはり俺が助けるしかないか。できれば秘密にしておきたかったのだが……などと俺がやれやれムーブを準備するその傍ら。


ガイーン


木の盾にぶつかった瞬間。重い音と共にアメーバ獣の身体が跳ね返される。


ぽよぽよ地面に落ちたところを。


「今ですわよ」

「ちょーチャンスって感じ?」


佐迫さん加志摩さんの2人が攻撃する。


俺と同じく包丁を振るう加志摩さんはともかく、何処から持ち出したのか佐迫さんは日本刀を振るっていた。


「パパに買って貰ったって感じー?」


本物のパパなのかどうか怪しいものであるが……そんな佐迫さんの一撃により、スライム獣は煙へ還っていった。


みんなけっこう強い上に連携が上手い気がする。


ペラリ。攻略読本をあらためて眺め見る。


─────────

■聖騎士(SSR)

個人評価:9.8/10点

集団評価:9.8/10点

総合評価:10/10点


・聖なる鎧:常時発動。自身のみ。

デバフ無効。状態異常無効。

防御力大上昇。魔法防御力大上昇。

HPが徐々に回復する。


・聖なる盾:LV5で習得:パーティ対象

10秒間、受けるダメージを6割カットする。


・聖なる気:LV10で習得:パーティ対象

デバフ無効。状態異常無効。

防御力小上昇、魔法防御力小上昇。

HPを徐々に回復する。

発動中はMPを大きく消費し続ける。


・聖なる反撃:LV15で習得:自身のみ。

10秒間、受けるダメージを反射する。


・聖なる回復:LV20で習得

治療魔法が使えるようになる。


─────────


助田が木の盾でスライム獣の体当たりを弾き返せた理由。それが聖なる鎧の効果。防御力の大上昇か。


「おっしゃ。お前らどんどん連れてこいやー」


その後も、スライム獣、ネズミ獣、イモムシ獣と男子生徒が連れて来るモンスターを、只野さんの魔法で強化された助田が受け止め、佐迫さん加志摩さんが包丁で突き刺す見事なパーティプレイにより、狩りは滞りなく終了した。



「助田くん。怪我は大丈夫?」


「平気や。勝手に治りよるからな」


狩りの途中。モンスターの攻撃で負った助田の怪我は、いつの間にか癒えていた。


スキル聖なる鎧の発動中はHPが徐々に回復する。その効果だろう。


助田はジョブを取得したばかり。おそらく今のLVは2といった所だろうから使えるスキルは聖なる鎧だけ。だとしても、すでにタンク役として必要十分な能力を備えているというわけだ。


「せやけどさあ。城。経験者のわりに大したことねえな」

「せやせや。こいつからっきしっすよ」

「城っちにはガッカリって感じぃ?」


いや……言い訳をさせてもらうなら、俺を代表する最強の必殺技が辺り一面にデバフを撒き散らす暗黒の霧。


だが、品川ダンジョンで暗黒の霧を撒き散らそうものなら、モンスターの前に他の探索者がデバフ塗れとなりお陀仏。俺は毒ガスをばら撒くテロ犯罪者としてお縄となるだろう。


いわば必殺技を封じられた状態で戦うのだから役立たなかったとしても俺は悪くねえ。などと逆ギレするわけにもいかず……


「……あまり役に立たず申し訳ない」


まあ、暗黒の霧を抜きにしても自宅ダンジョンにおける俺の役割はタンク役。だが、このパーティには聖騎士(SSR)助田がいるのだから後衛デバフジョブである俺の出番があるはずもない。


アタッカーとして動くにも、付け焼き刃の俺がいきなり6人パーティに加わり上手く動けるはずもない。


「仕方ないよ。いきなりパーティの動きに合わせるって難しいから」

「そうですわよ。城さんも彼なりに頑張りましたわ」


そんな俺をフォローするのは只野さんと加志摩さん。優しい……惚れそうである。惚れた。


「まあ、言うたら加志摩さんもあんまり役に立ってへんけどな」


「うっ……そ、それはそうですけど……」


「そうっすよ。加志摩さんのジョブは俺と同じ学徒(N)っすのに何か弱くないっすか?」

「それってサボってるってことっすかね?」


「い、いえ。私は決してサボってるわけでは……」


「みんな。加志摩ちゃん頑張ってるのにその言い方はないよ」


うつむく加志摩さんを只野さんが慰める。


「悪い悪い。まあ聖騎士のワイがおるさかい。足手まといの1人や2人。どうってことないで」


確かに聖騎士の助田が盾となるなら余裕で行けるだろう。


夕方近くまで7人で狩りをした結果。モンスターを30匹。1万5000円の7等分で俺は2000円を手に入れている。俺がいなければ1人あたり2500円。つまるところ俺はただ取り分を減らすだけの邪魔者というわけで。


「今日はありがとう。どうも俺は1人でボチボチ稼ぐのが向いているみたいだから1人でやってみるよ」


「そうか? ほなワイはアンジェラさんからメッセージ来てるから行くわ」


1階ロビーで別れた俺たち7人は、それぞれの帰路についた。

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