第58話 完成した無敵要塞。その初お泊りである。
草原広場でモンスターを撃退したその夜。自宅でご飯を食べお風呂を終えた俺は、再び自宅ダンジョン地下2階。草原広場の無敵要塞を訪れていた。
完成した無敵要塞。その初お泊りである。
それは良いのだが……
「イモもー。イモもお泊りするー」
俺にくっつきイモまでもが無敵要塞に来ていた。
「いや、イモは駄目だぞ……?」
ここはダンジョン。一寸先には死の待ち受ける危険地帯。このような場所で可愛い妹を寝泊りさせるわけにはいかない。
「えー? でも無敵要塞だよ?」
むう……確かに無敵要塞は無敵である。しかしだな……
「常識から考えれば、いくらG鋼板を張り付けようがこのような薄汚いダンボールハウスが無敵のはずはなくてだな?」
「おにいちゃんはイモに嘘つかないもん。そうだよね?」
「う、うむ……」
「それとも……もしかしてイモに嘘ついた……?」
見上げるイモの目は純真無垢。俺を信頼しきったその目を裏切るなど、出来ようはずがない。
「いや……無敵要塞は無敵。今晩は一緒に泊まるか?」
「うん!」
無敵要塞は再び暗黒の霧で閉ざしている。
昼間にあれだけ痛い目にあわせたのだから近づくモンスターは居ないだろうし、居たとしても見張りのニャンちゃんが迎撃する。99.9パーセントの確率で危険はない。
「うん。イモは毛布持って来たんだ。寝るぞー」
5月。夜の草原は肌寒く昨晩は寝るのに苦労したが、今晩はイモと2人。毛布にくるまり暖かいまま眠りに着いた。
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5/2(木)祝日
朝。無敵要塞での目覚めの時間。
─────────
■暗黒魔導士改(SSR+)LV26(1↑UP)
・スキル:暗黒の霧+(五感異常、全能力減少、毒、腐食、MP減少、MP蒸発、恐怖、麻痺、睡眠、混乱、放心、封印、暗黒火傷、闇耐性減少、光耐性減少、火耐性減少、水耐性減少、風耐性減少)
風耐性減少(New)風属性の攻撃に弱くなる
・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃:暗黒熟練
・EXスキル:プリンボディ:ゴムボディ:鋭利歯:偽装:牛パワー:超音波
─────────
昨晩は地下2階、無敵要塞の近くに加えて、地下1階の全域に暗黒の霧をバラまいたお陰だろう。
通常、LV20を超えたならそう簡単にLVは上がらないはずが、あっさり上がるのが自宅ダンジョンにおけるモンスター養殖場。そして黄金モンスター。
俺に覆いかぶさるよう眠るイモの身体を何とか動かし、這いずるようテントの外へ出てみれば草原にキラリ輝く黄金肉が1つ。
これはヘビ獣の肉か。見た目はヘビの死骸そのもの。
見張り番をしていたのだろう白猫ニャン子が食べたそうに見ているが駄目である。俺はニャン子が食べるその前に黄金ヘビ肉を拾い上げた。
しかし、ニャン子。よく食べずに我慢したものだ。
いつもは落ちた肉はポイポイ食べるのが、黄金肉だけは食べずに残していたのか?
考えてみれば俺たち探索者はLVアップにより、知能も含めた身体能力の全てが向上する。
もしもそうであるならニャンちゃんとハトさん。特に白姫様が治療魔法を的確に使えるようになるなら、ありがたい話であるが……
「うにゃー。おにいちゃん。おはやー」
無敵要塞からイモが起き出し顔を出した。
「イモ。おはよう。起きたなら自宅へ帰るぞ」
「ふへ?」
GW中とはいえ今の俺とイモは無断外泊。朝ご飯となっても俺とイモが顔を出さないなら、心配した母が部屋を見に来るだろう。
その時、部屋がもぬけの殻であればどうなる?
家出か誘拐を疑う母が110番。警察襲来。ダンジョン見つかるの3連コンボが完成。
探索者でありながらダンジョンの発見を報告しなかった俺はお縄となり高校退学。中卒にして前科1犯の履歴でもって以降の人生を送ることになる。
半分寝ぼけるイモを引っ張り部屋へと連れ帰る。イモがもぞもぞ身支度を始めたところで俺はドアを開け廊下に出るが……
「あら。弾正おはよう」
母とばったり出くわした。
「お、おっす。おら弾正。おはよう」
母は俺の出て来たドアを見ると。
「あらあら。兄妹の仲が良くていいわねぇ。ご飯もう準備できるから、イモを起こしておいてね」
そう歩き去って行った。
……のんきすぎるだろう。仮にも高校生と中学生。兄妹とはいえ同じ部屋で寝るなど普通は心配するだろうに。その鈍感さが原因で父の虐待にも気づかなかったわけだが、今ダンジョンが見つからないのも、そのおかげである。
俺は台所に向かう母を追いかける。
「母さん。イモならもう起きているから俺も朝ごはんを手伝おう」
「まあ。本当?」
いつ前科1犯となるか分からないこの身。愛想をつかされ放り出されないよう、できるだけ親孝行しておくのである。
「ふわー。おはよー」
家族3人が揃ったところで朝ごはん。俺は先ほど料理する母の傍ら準備した今日の朝ごはんをドンと食卓に並べる。
「弾正。これなに? 何か焼いてたみたいだけど?」
「ダンジョン産黄金ヘビ獣の丸焼き。3等分してるから、頭の部分は母さんがどうぞ」
見た目は皮を剥いだヘビの丸焼きそのもの。
「そして、はい。イモには胴体の部分だぞ」
「やったー。でも、おにいちゃんは尻尾で良いのー?」
良いのである。仮にも黄金肉。食べないという選択肢はないにしろ、さすがにヘビの頭を丸かじりは躊躇する。よって、俺は一番食べやすそうな尻尾を選択する。
ではなくて。鯛のかぶと煮などは頭が一番おいしいと聞くのだから、我が家の家長である母にヘビの頭を譲るのは当然の選択。
「まぁ豪華ね。でも母さんが尻尾で良いわ。はい。弾正。若いんだから頭を食べて精気をつけるのよ」
いつの間にか俺の目の前からヘビ獣の尻尾はいなくなり、代わりにヘビ獣の頭が置かれていた。
いや……これは無理ではないだろうか?
……そもそも誰が料理したのだこれは?
皮を剥いだだけの丸焼きはヘビ獣の眼光も鋭く牙も鋭く生えたまま。もう少し何とか料理のしようがなかったのだろうか?
「うーん。おいしーよー」
「ほんと。ヘビもいけるわねー」
しかし今さら交換しようにも、すでに母とイモはヘビにかじりついた後であり無理であり無念である。
パクリ
・EXスキル「熱赤外線感知」を習得した。
「マジかよ……これは凄いスキルが手に入ったぞ……」
「ん? この熱赤外線感知ってやつ? 何が凄いのー?」
ヘビはピット器官と呼ばれる部分で周囲の熱赤外線を感知。ネズミなど獲物となる動物の体温を探知し捕食するという。
「つまりはサーモグラフィーやナイトビジョンのようなもので、暗闇であっても周囲の温度を探知。識別することが可能となったのだ」
「おー! イモ分かったー。赤外線って水着とか盗撮するやつだー」
いや、それは本来の使い道ではなく、本来は暗闇を撮影するためのもの。
俺の主力スキルは、もちろん暗黒の霧。
暗黒の霧の強みはデバフ能力だけではない。単純に黒い霧が辺りを覆い隠すというそれだけで、視界が悪く辺りが見えづらくなる。
それは敵はもちろん、仲間であるパーティメンバーも同様。
暗黒の霧に触れた場合もパーティメンバーはデバフの影響を受けないが、単純に霧で視界が遮られ見えづらくなるのはどうしようもない問題。
そのためパーティで戦う時は暗黒の霧が濃くなりすぎないよう、濃度を調整しながら戦ってきたわけだが……
「例え漆黒の霧の中だろうが、周囲を探知できるのがEXスキル熱赤外線感知。もはやその手加減は必要なくなった。これからは全力である」
「イモの学校はね、水着の下に盗撮防止ショーツを着けるから盗撮は無理だよー」
いや。そのような真似はしないが、貴重な情報ありがとう。
「案外ヘビもいけるものねぇ。ごちそうさま」
一足早く食べ終えた母が席を立ち上がる。
そういえば……黄金肉を食べて俺とイモはEXスキルを習得したが、母はどうなのだろう?
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