第57話 イモ。ニャンちゃんハウスの改造を完成させるぞ!

「イモー。戻ったぞー」


「おかえりー。なに買って来たのー?」


「まずはこれだ」


俺はキャンプ用ファミリーテント。それとヘキサタープを広場に置いた。


「おー。これを組み立てるんだー。でもテントは分かるけど、このタープって何なのー?」


タープは日よけや雨よけを目的としたアウトドアグッズで、支柱を立てた上にシートを張ってロープで固定する。


「言ってみれば屋根だけのテントだな」


「おー。運動会とかでよく見るテントだー」


このヘキサタープは2本の支柱を支えにシートを張るタイプ。シートを張ったその下にニャンちゃんハウスを置くなら、立派な日よけ雨よけとなるだろう。


開放感がありハトさんやニャンちゃんの出入りも邪魔しない。もちろんその分、横雨には弱くなるわけだが、そこはダンボールに防水スプレーを吹きかけることでカバーする。


「そして、買ったわけではないがこれだ」


続いて俺が取り出したのは黒い板状の物体。


「なにこれー?」


忘れもしない。ダンジョン地下1階のモンスタードロップ品。


■G鋼板:固い薄い軽いGの甲殻。


本来Gの羽は柔らかいそうだが、そこは腐ってもモンスター。けっこうな固さがある上に薄く軽いため、ニャンちゃんハウス外壁に貼り付けるにピッタリの素材といえるだろう。


「やっぱりおにいちゃん。カブトムシと一緒でこれが好きなんだー」


全くもって好きではない。が……これを好む者もいる上、これなら多少のモンスターの体当たりにも耐えるだろう。


「そして最後にこれだ」


■イモ虫ゴム:弾力、絶縁力に優れたイモ虫獣のゴム。


打撃、電撃に耐性のあるイモ虫ゴム。これをニャンちゃんハウスの内側に貼りつける。外部からの衝撃を緩和する同時、室内が柔らかく過ごしやすくなるというわけで。


「よし! イモ。ニャンちゃんハウスの改造を完成させるぞ!」


「おー」


そうして俺とイモと2人して防水スプレーを吹いた後、強力接着剤を用いて外壁にG鋼板。内面にイモ虫ゴムをペタペタ張り付け改造は終了する。


「やったー。完成だー」


完成と同時。4匹のニャンちゃんは興味津々にニャンちゃんハウス改に近寄って行く。


「おお? なんかみんな凄く気になってるみたいだぞー?」


それも当然。俺が外壁にG鋼板を使った理由。それは住む者を喜ばせる住環境。ご存じゴキはニャンちゃんの大好物。そのドロップ品であるG鋼板を壁一面に貼り付けるのだから───


「にゃん」「にゃー」「なー」「にゃーん」


ニャンちゃん4匹。一斉にニャンちゃんハウス改へ飛び込んでいった。


「うあー。凄い、凄いよーおにいちゃん。みんな大喜びだー!」


例えるなら子供にとってのお菓子の家。喜ばないはずがない。


ついでに2階のハトさんハウス。ハトは3方向を囲まれた空間を好むと聞くため、正面以外の入口を塞いである。


「クルッポー」「クゥックゥッ」


その甲斐あってハトさんたちも大満足の模様であった。


最後にニャンちゃんハウスの隣にキャンプ用テントを張ったなら……


「完成だ! 今度こそ本当の無敵要塞の完成である」


「ばんざーい。これでイモたちも一緒にお泊りできるよー」


イモはお泊り禁止であるが、とにかく完成に間違いはない。


俺は住み心地を確認するべくテントの中へ入ってみる。


ふむふむ。ファミリーテントとはいえ寝泊りするのに大きさは十分。逆にこの微妙な狭さが秘密基地っぽさをかもしだして趣き深いというもの。


試しに寝転がれば床に敷いたイモ虫ゴムがマットレスのように柔らかく寝心地抜群。薄暗いテントの中とあって今すぐにも眠れそうな快適空間である。


「クルッポー」


さらには隣のニャンちゃんハウス2階。白雪様しらゆきさまが羽をバタつかせるたび、薄いテントをとおして治療魔法のおこぼれが入り込む。


癒される……これはマイナスイオンをも上回る癒しの空間。これこそが防衛も休息も可能な完全無欠の要塞。無敵要塞。


「おにいちゃん。どんな感じー?」


「イモか。お兄ちゃん出るからちょっと待ってくれ」


と言ったにも、すでにイモはテントに入り込んで来ていた。テント出入口は正面だけのため、出るに出られないではないか。


「おー。ここで寝るのかー! イモも寝るー」


「いや、イモ。このテント。ファミリーテントとはいうが予算の都合上、小型の物を買ったわけでだな……」


答える間もなく寝転がる俺の身体を目がけてフライングボディアタックを仕掛けるイモ。


ぐえっ。重い。

いや、天使であるイモが重いわけはない。平気である。


そもそもが俺の身体はプリンボディにしてゴムボディ。ポヨンとイモの身体を跳ね飛ばす反動に、俺から転がり落ちたイモは隣に寝転がっていた。


「うわー。おにいちゃんも柔らかいけど床も柔らかいよー。イモ虫すごいぞー」


よほど気に入ったのか、隣でイモ虫ゴムマットの弾力にポンポン跳ねていた。


しかし……狭いテント内を跳ねるもので、お互いの身体がぶつかりあう。薄暗い室内。寝転がる2人。柔らかいイモの身体。あまりお兄ちゃんを刺激しないでほしいものである。



「よし。無敵要塞のお披露目といくか!」


時刻はお昼過ぎ。モンスターに無敵要塞の組み立て作業を邪魔されても面倒なため、これまで俺は暗黒の霧で周辺を覆い隠していた。


今、俺は無敵要塞を覆っていた暗黒の霧を解除する。


霧の晴れた草原広場。ダンジョン内とは思えないほど天井は眩しく輝き、どこからか一陣の風が吹き荒ぶ。


「お? なんかモンスターが集まって来たよー?」


その風に乗って、辺りに獣の匂いが漂い始める。


モンスターの種類によって主食は様々となるが、ここ自宅ダンジョン地下2階に生息するのは、ウシ獣やイノシシ獣にバッタ獣。


彼らの主食といえば草原広場に生い茂る草木や木の実。


これまで暗黒の霧に覆われていた草原の一角。霧が晴れたことから草木を求め集まって来たのだろうが……


可哀そうだが彼らが草木を口にすることは叶わない。


ここにそびえ立つのは黒光りするG鋼板に覆われたニャンちゃんハウス改と俺の寝泊りするキャンプ用テント。あわせて2棟の建物からなる無敵要塞。


「総員、迎撃用意」


そして無敵要塞に詰めるはSSR+にして総合評価9.5点。暗黒の霧を操るデバフマスター。最強天才美少年暗黒魔導士であるこの俺である。


「さらには純真可憐美少女妹のイモ」


「おー」


「そして治療魔法を操る神様仏様白姫様」


「あれ……いないね?」


白姫様は無敵要塞2階の自室でくつろぎ中。ありがたい。


「何がありがたいのか分からないけど、次いこー」


「じゃあ、おまけでニャンちゃん3匹とハト1羽」


「おにいちゃん名前ー。ニャンちゃんたちの名前ー」


そうだった。まあ一応は名前を紹介するなら。


「ニャン太郎、ニャン子、ニャン花、ニャン美、ハト三郎です」


「にゃん」「にゃー」「なー」「にゃーん」「クゥッ」


総勢8名の少数なれど、いずれも一騎当千の豪の者たち。


対するモンスターたちだが、俺たちの姿を見たハイエナ獣ヘビ獣も加わるその総数は約70匹。


草を食べるのに邪魔な建物を排除するべく。または俺たちの血肉を食らおうと、無敵要塞を目がけ押し寄せるわけだが……


やれやれ。たかが70匹のモンスターで無敵要塞を落とそうなど。無敵要塞も舐められたものである。


「発動。暗黒の霧。無礼なる来客に闇の絶望を与えたまえ」


晴れ渡る草原を怒涛のごとく漆黒の闇が這い進む。

迫るモンスター全てを包み浸食する暗黒の霧の波。


「ウモも!?」


五感異常。方角を見失いあらぬ方向へ走り出す者。


「イノしし!?」


恐怖。尻尾を縮こまらせて地面にはいつくばる者。


「ハイエナー!?」


麻痺。身体をこわばらせ固まり1歩も動かない者。


「バッタん!?」


睡眠。突如その場に倒れ後続に踏みつけられる者。


「へびー!?」


放心。焦点の合わぬ目で中空を見つめ立ち止る者。


モンスター軍団。その8割が暗黒の霧の巻き起こすデバフにより、途中で脱落する。


それでも必死に歯を噛みしめ暗黒の霧を突破するモンスターたちだが……


連鎖電撃チェイン・ライトニング


イモの左右両手を発した電撃が先頭を走るウシ獣にぶつかり、複数の電光に弾け変わる。細い筋となって走る電光は後に続くモンスター軍団を鎖のように縛り貫いた。


推定10万ボルトの電撃に撃たれ、無敵要塞に到達することなくモンスターたちは崩れ落ちていく。


「はい。もひとつおまけに」


続けてイモが右手を天に掲げる。ダンジョンの中空、暗黒の霧に呑まれ動きを止めるモンスター軍団の頭上に雲が生まれ集まり。


「ドーン」


その右手を振り下ろすと同時。複数の落雷が続けて地に落ちる。


ゴロゴロ ビシャーン ビシャーン


落雷時の電圧は1億ボルトにも達するというが……

哀れ。押し寄せたモンスター軍団。その全てが煙となり消えていた。


「……にゃ」

「……クゥ」


出番のなかったニャンちゃんハトさんは無敵要塞に戻り寝た。


俺の闇黒の霧とイモの電撃を抜けられたその時。近接戦闘となってからがニャンちゃんハトさんたちの出番なわけだが……まあ、そのようなことはそうそう起こらない。


俺とイモの連携ある限り、無敵要塞は無敵である。

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