第56話 草原広場で一夜を過ごし迎えた朝。
草原広場で一夜を過ごし迎えた朝。
「おにいちゃーん。イモだよー! イモが来たよー!」
暗黒結界の外からイモの声がする。
昨晩、ダンジョンを出て自宅へ帰った都合上、今のイモはパーティメンバーを外れた存在。そのため俺の暗黒の霧でデバフを受けるのだ。
「イモか! 暗黒結界を解除する。ニャンちゃんたちみんな。モンスターに備えてくれ」
俺はニャンちゃんハウスでくつろぐ面々に声をかけると、暗黒の霧を操作し草原広場に渦巻く暗黒結界を解除する。
「おにいちゃん。おはよー」
暗黒の霧の晴れた草原広場に見えるのはイモの姿だけ。辺りに無数の魔石が散らばるその様子に、ニャンちゃんたちは二度寝とばかり無敵要塞へ帰って行った。
……まあ、それはそうなるか。モンスターがいたならイモが始末する。
見張りとして1匹、俺の足下に残る黒猫ニャンちゃん。
「イモ。この黒猫は何という名前なのだ?」
「この子はニャン
そうなのか。
「ニャン花。これからよろしくな」
「なー」
猫とはいえ共に戦う仲間なのだから名前くらいは憶えておかねば失礼というもの。俺はニャン花の頭を撫で挨拶する。
「それでね。白猫が第1夫人のニャン
なかなかに良い名前である。
「うーむ。となるとハトさん2羽にも名前をつけるべきだろうか?」
だがハトさん2羽はあくまで野生のハトが勝手に居ついただけという設定。俺とはまるでノーカンの赤の他人。それが名前を付けてペットとしたのでは俺は鳥獣保護法に違反する。
「もー。おにいちゃん頭かたすぎー。公園でハトさんに餌をばら撒く迷惑おじさんなんて、勝手に名前を付けて呼んでるよー?」
なるほど。野生の動物を勝手に名付けて呼ぶなど、田舎ではよくあることか……それを考えれば確かに問題ない。
「固いのは下半身だけで良いんだよー。ニャン花もそう思うよねー」
「なー」
ニャン花を相手に何か話しかけるイモだが、イモは純真無垢な天使。俺は何も聞いていない。
「じゃあ普通のハトはハト
「えー? 1羽目なのにいきなり三郎なの? 一郎と次郎はー?」
これまでハトさんと呼んでいたのだ。いきなり全く違う名前になっても混乱するだろうから仕方のない話。それに。
「長男が三郎であるなど田舎では稀によくあること。何も問題ない」
「そっかー。言われてみればお土産にある銘菓みたいで良いかも。ハトサブロー」
ハトサブローではない。ハト三郎のため注意が必要である。
「でもさすがに白ハト様はねー。名前じゃないと思うんだよー」
うむむ。言われてみればそうかも知れない。
「じゃあ
白ハト様はメスにして治療魔法の使い手。そして一般的にオンラインゲームにおける女性キャラの治療魔法使いは、白姫と呼ばれることが多い。
「よって白ハト様は
「やっぱり様がつくんだー」
ハトさん2羽。名前で呼び話しかけるなら、今より仲良くなり、俺の話も聞いてくれるようになるかもしれない。
「そんなこんなでハトさんたちの名前も決まったところで、イモ。これを見てくれ! この無敵要塞を!」
「? ニャンちゃんハウスがどーしたの?」
「ニャンちゃんハウスではない。改名したのだ。以降は無敵要塞と呼ぶようにして欲しい。それでちょっとイモの腕だけでも入れてみてくれないか?」
「んー?」
ニャンちゃんハウス1階。ニャンちゃんが寝転がるところへイモが腕を突っ込んだ。
「あれ?! 何これー? 何か腕がほんのり暖かい気がするよー?」
そうだろうそうだろう。
「これも2階に白姫様がいらっしゃるおかげである。ありがたやー」
俺は感謝の気持ちを込めて2階に向け手を合わせる。
「おにいちゃん。怪しい宗教に騙されそうだよー」
白姫様は実際に治療魔法で傷を癒すのだから何も怪しくない。
「それでだな。無敵要塞の隣に俺たちも寝泊りできるテントを建てようと思うのだが、どうだろう?」
「ニャンちゃんたちと一緒に住めるの? おもしろそうー。やろうやろう!」
話は決まった。
イモの持って来た朝ご飯を食べた俺は付近の魔石を拾い集めると、後をイモたちに任せてダンジョンを出て地上へ。テントの購入へ向かう。
品川ダンジョン受付で魔石を換金した後、俺がやって来たのはホームセンターのアウトドアコーナー。
キャンプ用テントを購入するためである。
当初はニャンちゃんハウスと同様、ダンボールを組み立てるダンボールハウスも考えたが、屋外の草原。はたしてダンジョン内に雨が降るかどうかは分からないが、万一を考えるなら防水加工のされたキャンプ用テントの方が良いだろう。
そうして俺の選んだファミリー用テントが3万円。大きさ的にもこれで良いとして後は何を買うべきか?
せっかくキャンプ用テントを買うのだから、他のキャンプ用グッズ……バーベキューセットなども購入したい気持ちはある。
草原広場の河原でバーベキューパーティと洒落込むなら俺も立派に陽キャの仲間入り。晴れて陰キャ卒業となるのだが……
バーベキューパーティをするなら母も含めた家族全員でなければならない。まさか俺とイモだけがキャンプでバーベキュー。自宅に残る母は1人で冷たいご飯というわけにもいかない。
だが、母を自宅ダンジョンに招くのは自宅ダンジョンを公表、競売から落札してからの話。そのためにも今はモンスターを退治。LVアップとお金稼ぎに集中する。
その拠点となるのが無敵要塞だが……
冷静に考えれば、ダンボールを組み立てただけのニャンちゃんハウスが無敵要塞を名乗るには無理があるのではないだろうか?
元が屋内用。外壁がダンボール作りのため雨露に弱く、何よりモンスターに体当たりでもされては吹き飛びかねない。というか吹き飛ぶ。
いったいあれの何処が無敵要塞なのか……
今にして思えば白姫様の治療魔法に浮かれてアホなことを口走ったものだが……
ダンジョン内に無敵要塞を建造する方針に間違いはない。
ニャンちゃんハトさんがダンジョンに住むことで、俺たちが何もせずとも経験値と魔石、お肉を稼ぎ続けてくれるのだから。
となると、改善すべきは無敵要塞の強度と耐水性にある。
いずれはもっと高額で頑丈な木製ニャンちゃんハウスを購入する。いっそ大工に依頼してニャンちゃんハウスを特注してもらうのも良いだろうが、それは今よりお金を稼いでからの話。
今はこのままダンボール製ニャンちゃんハウスを改造する。となると……
俺は買うべき物をまとめてレジへ移動。
「ファミリー用テント。日よけ雨よけ用のタープ。防水スプレー。強力接着剤の購入っすね? まいどありー」
せっかくニャンちゃんハトさん共に気に入ってくれているダンボール製ハウス。下手なことをしてニャンちゃん、ハトさんが住みづらいと感じ、出て行ってしまっては本末転倒となる。ここはなるべく最小限の改造で済ませるとしよう。
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