第55話 少しは俺にもなついて来たのだろうか?

5月。GWの水曜日。祝日。


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■暗黒魔導士改(SSR+)LV25(1↑UP)


・スキル:暗黒の霧+(五感異常、全能力減少、毒、腐食、MP減少、MP蒸発、恐怖、麻痺、睡眠、混乱、放心、封印、暗黒火傷、闇耐性減少、光耐性減少、火耐性減少、水耐性減少)


水耐性減少(New)水属性の攻撃に弱くなる


・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃:暗黒熟練

・EXスキル:プリンボディ:ゴムボディ:鋭利歯:偽装:牛パワー:超音波

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自宅ダンジョン地下2階。草原広場。


「クルッポー」「クゥックゥッ」


どうやら無事に朝を迎えたようで、ハトさん2羽が元気に草原を歩き回る鳴き声に目を覚ます。ハトは草食。草の種子でも探しているのだろうか。


しかしお腹が重い。

見れば黒猫ニャンちゃんが1匹。俺のお腹の上で丸くなっていた。


イモだけではない。少しは俺にもなついて来たのだろうか?


そっとニャンちゃんの背中を撫でてみれば、その毛に少し血が滲んていた。


怪我をしているのだろうかと考えるその時。俺の脳裏は暗黒結界を通り抜けモンスターが近づく気配を感知していた。


この大きさはイノシシ獣。


暗黒の霧の結界。まさか毒を始めとした各種デバフがあると分かって侵入するモンスターがいるとは思わなかったが、イノシシ獣は猪突猛進が売りのモンスター。それなら仕方がない。


だとしても、このままでは付近をうろつくハトさんが襲われる。


枕元の包丁を手に起き上がろうとする俺より早く、お腹のニャンちゃんが飛び出していた。


「なー!」


ズンバラリン


走る2匹の身体がすれ違う。イノシシ獣の身体は煙と消えていた。


デバフを受けていたとはいえイノシシ獣を一瞬で倒すとは、ニャン子かニャン花か誰か分からないが、ずいぶんと強くなったものだが……


イノシシ獣を退治したニャンちゃん。再び俺の元まで戻ると、今度は俺のひざの上へと座り込む。


毛づくろいだろうか自分の身体を舐めるその姿。


……もしかして俺が寝ている間、結界に侵入するモンスターを退治してくれていたのだろうか?


よくよく考えれば、俺は暗黒の霧に触れた存在を感知できるとはいえ、それは俺が起きている間の話。寝ている間は感知できるはずもなく、ニャンちゃんがいなければ俺が襲われていたというわけで……


「えーと。ありがとう」

「なー」


気にするなというのだろう。軽く鳴き声で返事するニャンちゃんだが……


うむむ。気にするなと鳴かれたところで、そうもいかない。


ニャンちゃんが舐めるのは毛づくろいではない。自分の身体の傷。俺が寝ている間、モンスターとの戦いで負ったであろう傷を癒すべく舐めているのだから。


よくよく考えれば俺が寝ている間にLVアップしたのも、結界に侵入するイノシシ獣を退治してくれていたお陰だろう。


だというのに俺には黒猫ニャンちゃん。ニャン子なのかニャン花なのかすら分からないのだから、薄情な話である。


まあ、ニャンちゃんの名前は後でイモに聞くとして、他のニャンちゃんたちは無事だろうか?


「ニャンちゃん。ちょっとごめん」


俺は膝に座る黒猫ニャンちゃんを抱え上げると、ニャンちゃんハウスまで歩き寄る。そのまま中を覗き見れば、残るニャンちゃん3匹が寝転がりくつろぐ姿が見えていた。ニャンちゃんハウス。好評のようで喜ばしい限りである。


どうやらニャンちゃんのうち1匹が外で見張り。残る3匹がハウス内で休息するフォーメーション。5月とはいえまだ朝晩は肌寒く、俺の身体に乗って暖を取りながら見張りをしていたというわけだ。


ツンツン


背中をつつく感触に振り返れば、ハトさんがくちばしで俺をつついていた。


こいつは白ハト様ではない。普通のハトさん。俺がポーションで治療したからだろうか。頭を俺の膝にこすりつけ、まるで甘えるように見える。


「よーしよしよしよし」

「クゥックゥッ」


首の辺りをなでてやると嬉しそうであるが、普通のハトさんであるこいつも治療魔法を使えるのだろうか?


「ハトさん。ニャンちゃんが怪我をしている。治療魔法が使えるなら、治してやってくれないだろうか?」


「クゥックゥッ」


俺の頼みにも、残念ながら嬉しそうに鳴くばかり。

うーむ……分からんが、多分無理なのだろう。まあ、良い。


「白ハト様。ニャンちゃんを治療してやって貰えないだろうか?」


しかし俺の呼びかけもむなしく、白ハト様は草原をフラフラ餌を探してか時おり地面を突つくだけ。俺の声にもまるで反応を示さない。


うむむだが、それも仕方のない反応。しょせんは人と動物。しかも犬猫ならともかく鳥類が相手では、そうそうコミュニケーションがとれるものではない。


それを考えると白ハト様。いくら治療魔法が使えるからといって、望んだ時に使ってくれないのでは困りもの。


そうこうするうち、散歩に飽きたのか白ハト様はバサバサ羽ばたきニャンちゃんハウス2階へ舞い戻って行った。


室内で羽をバタつかせて座る位置を決めているようだが……白ハト様が羽をバタつかせるそのたび、羽毛ならぬ治療魔法の光が周囲にまき散らされる。


マジかよ! ニャンちゃんたちが気持ち良さげに寝てたのは、これが原因か?


言っては何だがペット用品店で購入した組み立てダンボールハウス。ダンボール製とあって本来は室内に置くもの。草原広場に設置したのでは隙間風もあって居住性は決して高くはない。


それにもかかわらず、ニャンちゃんハウス1階でくつろぐニャンちゃん達は、まるでスイートルームで眠るかのようにリラックスしていた。


その理由が、白ハト様の治療魔法。2階で羽をバタバタまき散らされる治療魔法の光が、ニャンちゃんハウス全体に充満しているのだ。


俺は膝に座るニャンちゃん。少し怪我している黒猫ニャンちゃんを抱き上げるとハウスの中へ突っ込んだ。


「にゃん?!」


寝ているニャンちゃんを起こしてしまったようだが気にしない。


治療魔法の光の充満するニャンちゃんハウス室内。不思議な暖かさがあり、怪我を癒すだけでない。何だか疲れまで癒される。そんな不思議空間となっていた。


「凄い……凄いぞ……」


もはやこれはショボイだけのダンボール製ニャンちゃんハウスでない。


怪我を癒し疲れを癒すこのハウスで寝泊りするなら、ニャンちゃんたちは怪我も疲れも知らずに戦い続ける戦士となるだろう。


これはモンスターを迎撃するための拠点にして要塞。ニャンちゃんハウスは、今、無敵要塞へ進化を遂げたのであった。


「凄すぎではないか……ばんざーい!」


ひとしきり万歳三唱したところで……ふう。俺としたことが叫びすぎて少し疲れた。どれ。俺も無敵要塞に入り休むとするか。


「シャー!」


バリバリ


無念にも無敵要塞に入ろうとした俺はニャンちゃんに引っかかれ、追い出された。


そもそもが猫サイズのニャンちゃんハウスに俺が入ろうとすること自体に無理があったわけだが……だとしてもニャンちゃんハトさんだけが休み、俺が休めないのはよろしくない。差別というもの。


無敵要塞。少し増築するか。


具体的には俺が寝泊りできるだけのダンボールハウスを隣に建てる。隣とはいえ白ハト様の羽ばたき、治療魔法のおこぼれ位はもらえるだろう。

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