第53話 ハトさんにはモンスターを退治。Dジョブを取得してもらいます。

公園でハトを2羽保護した俺たち。

リュック内のハトが騒ぐトラブルもなく、無事に自宅へ帰り着く。


「ただいまー」


母はまだ帰っておらず、今日の昼、ペット用品売り場で購入。配送を依頼したニャンちゃんグッズ一式が玄関前に置き配されていた。


俺はニャンちゃんグッズ一式を手にイモの部屋へ。


「あれ? イモの部屋、窓が開いてるよ?」


うん? 確かに出る時に戸締りしたはずだが……


「にゃん」


開いたままの窓からニャンちゃんが1匹、顔を出した。


「あー! ニャン太郎が窓を開けたのー?」


ニャンちゃんたち3匹はダンジョンに入って行ったはずが、いつの間にかニャン太郎だけがダンジョンを出て、窓を開け屋外へ行っていたようだ。


「ニャン太郎ー。どこ行っていたんだー?」


イモがニャン太郎を抱き上げ室内に招き入れると、ニャン太郎に続いて1匹のネコが窓から顔を出した。


「あれ? 誰だろう初めて見る子だー」


この猫太郎。またハーレム要員を連れて来たのか? 春は猫の発情期というが……エロすぎるだろう。


だが、今はそのエロさが好都合。今日の俺のテーマは、ニャンちゃんたちが草原広場で暮らせるようにすることである。


モンスターの沸き出す草原広場で寝泊りする方法。

それは、大勢で草原広場を占拠、要塞化すること。


幸いにも草原広場のモンスターゲート。モンスターの湧き出す数も少なければ、湧き出す間隔も長いことが判明している。


それなら夜間は交代で見張りに立ち、ゲートから現れるモンスターを端から始末するなら、見張りメンバー以外は安全に眠ることが可能となる。


「そのための策がこれだ」


自宅ダンジョン地下1階へ降りた俺は、リュックからハトを2羽取り出した。


交代で見張るには、ニャンちゃん3匹では数が不足する。

不足するなら数を増やせば良いというわけで。


「やったー! ダンジョンでハトさんを飼うんだー」


「いや。イモよ。正確には飼うわけではないぞ?」


何故なら鳥獣保護法により野鳥を飼育する行為は禁止されている。


あくまでハトが2羽、勝手にダンジョンに住み着いただけ。俺としてもやれやれ困ったなという状態であるからして、俺に一切の罪はないというわけで……


「クルッポー」「……クゥ」


「どうでもいいけど、おにいちゃん。ハトさん1人死にかけてるよ!」


おっと。そうだった。

ヤリチン大学生に蹴られグッタリ動かないハトさんに対して、俺は慌てず騒がずE級ポーションを振りかけるが。


「……クゥ」


ハトさんは弱々しく鳴くばかり。

E級ポーションの効能は擦り傷・打ち身に効果あり。大学生の脚力で思い切り蹴とばしたのだ。さすがにE級で治療しようというのが間違いか。


「もっと高いポーションが必要なのかなー?」


「D級ポーションはニャンちゃん3匹に使ったからな……」


買い足すにしても10万円。ニャンちゃんたちが退治、ダンジョンに散らばる魔石を回収すれば余裕で足りるだろうが、D級ポーションの効能は、裂傷・捻挫に効果あり。


おそらくはハトさんは骨折。下手をすれば内臓にまでダメージが届いている可能性があり、D級ポーションでも治療できるかどうか……


「だとしても、さすがにC級以上を買うのは無理がある」


骨折を治療するC級ポーションは100万円。内臓損傷にも効果ありというB級ポーションにいたっては驚きの1000万円。


言っては何だが、たかが野鳥1羽に費やせる金額ではない。


「やっぱりあのチンカスども殺しておくべきだったねー。何なら今からでもイモが殺して来よっか? ついでにお財布からお金を巻き上げれば一石二鳥だよー」


いやいや……イモもすっかり冗談がうまくなったものだが……冗談だよね? まあ、そんなイモの冗談は置いておいて。


「大丈夫だ。イモ。まだ方法はある。ダンジョンジョブだ」


ジョブを獲得した者は超常能力を手に入れ、その肉体は強化される。


肉体が強化されるということは、自然治癒力も強化されるということ。ジョブLVが上がればなおさらで、骨折だろうが内臓損傷だろうが徐々に回復していくだろう。


現に以前に俺が怪我した左腕も、LVアップを重ねる事で病院に行くことなく自然治癒している。


「というわけで、ハトさんにはモンスターを退治。ダンジョンジョブを取得してもらいます」


「おー!」


適当なモンスターを見つけて俺が暗黒魔法で弱体。デバフの入って死にかけたところをハトさんに突つかせる。これでダンジョンジョブを取得できるはずである。


「にゃー」「なー」


鳴き声に顔を上げれば、いつの間にかダンジョンに残っていた2匹のニャンちゃん。ニャンとニャンが俺たちの元に戻って来ていた。


2匹の口には死にかけてピクピク痙攣するネズミ獣。うち1匹をニャン太郎が連れて来た新人ニャンちゃんの前に置いていた。


そうか。ニャン太郎が連れて来た新人ニャンちゃんにもジョブが必要。ニャンちゃん2匹で事前に瀕死のモンスターを用意していたというわけだ。


モンスターを探して来る手間がはぶけたというもの。


「ニャンちゃん。1匹をハトさんに分けてくれないか?」


「にゃー?」


「ニャン子。お願いだよー」


「にゃん!」


イモの呼びかけに、ニャンちゃんは死にかけハトさんの前にネズミ獣を1匹差し出した。


何か俺の頼みは無視されたような気がしないでもないが……まあ相手は気まぐれなニャンちゃん。それよりも。


「よし。ハトさん。やれ。遠慮なく突ついてくれ」


「がんばれ。がんばれ」


「……クゥ」


身体を負傷して突つく元気もないのか?

だとしても何としても突ついてもらわねばならない。


俺はリュックからハト用エサを取り出し、瀕死のネズミ獣に振りかける。


目の前のエサを食べようと必死でくちばしを伸ばすハトさん。


コツン


「チュー!」


そのくちばしの一撃により、ネズミ獣は煙となりハトさんに吸い込まれていった。


これでジョブを獲得できれば良いが……


「よし! アクセプト! ハトさん」


ハトさんと繋がる感覚。

どうやらハトさん。1発でジョブを獲得できたようだ。


「ハトさんがんばった……イモは感動だよ!」


イモが感動する間に新人ニャンちゃん。それと白ハトさんも無事にネズミ獣に止めを差していた。


「それじゃ追加でアクセプト」


こうして無事に俺+イモ+ネコ4匹+ハト2羽の8人パーティが完成する。


「とりあえず新人ニャンちゃんとハトさん2羽はここで待機していてくれ」


その間に俺たちで地下1階、地下2階のモンスターを狩りまくる。パーティ効果によるレベリングで1匹と2羽のLVを2まで上げる。


「おー! ニャン太郎、ニャン子、ニャン花、行くよー!」


イモはニャンちゃん3匹を連れて地下2階へ。


「暗黒の霧よ。地下1階を漆黒の闇で満たしたまえ」


俺は地下1階の全てを暗黒の霧で満たした後、新人ニャンちゃん。ハトさん2羽の近くで護衛として待機する。


テレレレッテッテー


む? 早くも俺のLVが上がったな。

おそらくは地下1階に黄金モンスターがいたのだろう。


─────────

■暗黒魔導士改(SSR+)LV24(1↑UP)


・スキル:暗黒の霧+(五感異常、全能力減少、毒、腐食、MP減少、MP蒸発、恐怖、麻痺、睡眠、混乱、放心、封印、暗黒火傷、闇耐性減少、光耐性減少、火耐性減少)


火耐性減少(New)火属性の攻撃に弱くなる


・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃:暗黒熟練

・EXスキル:プリンボディ:ゴムボディ:鋭利歯:偽装:牛パワー:超音波

─────────


倒したモンスターの経験値はパーティメンバーで等分割。ただし新人ニャンちゃんやハトさん2羽のようにモンスター退治に何の貢献もしていない場合、得られる経験値は1パーセント程度と微量となる。


それでも黄金モンスターから得られる経験は桁違いに多いのだから──


「にゃ?!」

「クルッポー?!」

「クゥ?!」


わずか1パーセントのおこぼれだけで、1匹と2羽のLVが上がていた。


「にゃんにゃんにゃん!」


LVアップで元気が有り余っているのか、元気いっぱい辺りを走り回る新人ニャンちゃん。通路の先にモンスターを見つけ走って行ってしまった。


……まあ良いか。暗黒の霧の充満する地下1階。まともに動けるモンスターは存在しないのだから危険はないだろう。弱ったモンスターに止めを差して回る方が本人の経験値となりLVアップも早くなる。


だとしても暗黒の霧が充満。暗闇の濃いダンジョンを苦もなく走り回るのだから、さすがは夜目に強いという猫である。


ニャンちゃんはそれで良いとして問題は……


「……クゥ」


LVアップで自然治癒力が上がったとはいえ、そう簡単に負傷は治らない。今のままではただ死期が伸びただけ。


それでも、LV2では無理だとしても更にLVを上げれば自然治癒力もますます強化されるわけで、いずれは治ると思うのだが……


もしも折れた骨が内臓に刺さるなどしていれば、自然治癒力だけでは無理がある。やはりC級ポーションか。それとも治療魔法が必要となるのだろうか……


「クルッポー!」


苦し気に呻くハトさんの隣で、突然に白ハトさんが大きく羽を広げ羽ばたき始める。


「クルッポー!」


バタバタ羽ばたく羽にあわせて、辺りに舞い散る白い光。


なんだ? 白ハトさんの羽が抜け落ちているのか?


いや……羽ではない。物体ではない。この白い光は魔力の光。


試しに白光に触れてみれば、ほのかに暖かい。何か触れた箇所が癒されるような……これはポーションを塗布したのと同じ感覚!?


「クルッポー!」


舞い散る白光は、怪我で動けないハトさんの身体に降り積もり……


「……クゥ? クゥックー!」


これまで呻くしかなかったハトさんが元気に鳴き声を上げていた。


マジかよ……この白光。まさかこれは治療魔法の光か?!

こいつ……白ハトの野郎……治療魔法を習得しやがったのか?


「凄いぞ……」


治療魔法を使えるジョブはSR以上でなければ生まれないとあって貴重である。


地下3階より下層へ降りるなら、治療魔法の専門家を必ずパーティに加えるよう100パーセント攻略読本にも書かれている程に貴重な役割が治療魔法使い。


「うおー!」


そんな貴重な治療魔法使いが無料で手に入ったのだから、冷静沈着、何事にも動じない俺が叫ぶのもやむをえないといえるだろう。


「うおー! 白ハトさん! 白ハト様! ばんざーい!」


よくよく考えればハトは平和の象徴と呼ばれる存在。治療魔法を習得したとしても不思議はないというわけで、とにかくこれで俺は自宅ダンジョン探索における大きなアドバンテージを手に入れた。


「なになにー? おにいちゃん大声上げて」


あまりに騒ぎすぎたか、いつの間にかイモが俺のもとまで戻っていた。


「イモ。凄いぞ! 見て見ろ。この白ハト様を!」


俺の指さす先で2羽のハトさんはお互いの首筋をつつきあう。


「わー。すっかり仲良しだね。いつ交尾するのかなー?」


いや。それにも興味はあるが、今注目すべきはそこではない。


「白ハト様はなんと治療魔法が使えるのだ!」


「あ、それで怪我したハトさんも元気なんだー」


ようやく白ハト様の偉大さを分かってくれたようだ。


「よし。イモ。草原広場へ行こう!」


治療魔法使いが仲間となった今。モンスターの湧き出る草原広場といえど、恐れる者は何もない。

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