第52話 帰る所なので道を開けてもらえないだろうか?
公園で白ハト1羽を捕まえた。ではなく保護した俺は、なるべくリュックを揺らさないよう慎重に歩く。公園を出ようとしたところで俺たちに近づく3人の男たち。
「お? 昼間の可愛い子ちゃんやーん」
「マジで? どこどこ?」
「ういーっす。久しぶり」
やっかいな時に出くわしたものだ……
背中のリュックに放り込んだ白ハト。中にはハト用餌を入れているため、しばらくは大人しくしているだろうが、走るなどリュックに大きな刺激を与えては話は別である。
リュックのハトが騒いでは。俺の法令違反が明るみとなっては、お縄を頂戴するのは俺である。
「すみません。帰る所なので道を開けてもらえないだろうか?」
騒動とならないよう、なるべく丁寧に頼んでみるも──
「薄暗くなった公園にいるってことは」
「やってもOKってことやろ?」
「せやな。減るもんじゃねーし」
全く効果はない。
昼間は駅通路という人目の多い場所であったが、今は街灯の明かりがポツポツ薄暗い公園。人目がないとなれば大胆になるのが人の性か?
「ぐへへ。揉むぜえ」
「諦めな。騒いでも無駄やで」
「せやな。誰も目撃者はいやしねえ」
揉みしだいてやるとばかり両手をにぎにぎ、近寄る3人組のその姿。クソな親父を思い出すようで無性に腹立たしい。
だが、人目がない分、大胆に行動できるのは俺も同じ。
「お
俺は3人組の前で、懐から包丁を取り出し身構える。
「んなっ!?」
「なんやその包丁は?!」
「おまえ! 銃刀法違反やぞ!」
しかし、探索者である俺のライセンスは現実にも影響する。
「俺は探索者だ。包丁を持ち歩くことは業務の範囲内。何の問題もない」
銃刀法では刃渡り6センチメートルを超える刃物を持ち歩くことは禁止されている。
だが、料理人が業務で使用するなど正当な理由があれば話は別となる。
ダンジョンでモンスターを切り捌くことを生業とするのが探索者。料理人といってもあながち間違いではなく、俺は今日の昼。ダンジョンに立ち寄ったその帰りなのだから包丁を所持して当然。銃刀法には違反しない。
「つまりは貴様らを切り刻もうと問題ないわけだが、どうする?」
「あほか! 問題あるに決まってるやろ!」
「料理人だろうが人間相手に包丁振り回せば逮捕や」
「おまえ! デタラメこいてんじゃねーぞ」
……おのれ。ヤリチンとはいえ大学生。確かに人間相手に包丁を振るってはただの犯罪者。脅しの小道具として使うことも当然に論外となるが……
「デタラメかどうか試してみるか?」
3人組の言ったとおり付近に誰も目撃者はいないのだから、多少は誇張して言ったところで何の問題もない。
あらためて包丁を片手に構える俺の姿。素人とは思えない堂の入ったその構えに思わず後ずさる3人組。
「なんや? このガキのこの雰囲気……」
「ヤバイって。こいつ目が座ってるやん」
「こいつ、人の2、3人はやってるやろ」
ダンジョンで毎日包丁を振るっているのだから当然。となればあと一押し。やれやれではあるが……
「ゴミカスどもが分かったら道を開けろや! ぶっ殺すぞ! おらー」
台詞と同時、俺は包丁を振り回して見せる。
まるでクソ親父を
「ひええっ!」
「あかんて! こいつキチやん」
「も、もう行こうぜ」
気違いに刃物というとおり、刃物を前にしてはさすがのヤリチン大学生も分が悪い。踵を返し立ち去る3人であったが、年下である高校生に追い返されたのが腹立たしいのか。
「クソがっ! どけっ!」
ドカッ
歩く傍ら。いまだに餌をついばむハトを1羽、力任せに思い切り蹴り飛ばしていた。
「あー! ハトさんが!」
吹き飛ぶハトさんは俺たちの、イモの足元まで転がり動かない。
野郎。抵抗できない弱者を選んで暴力を振るうなど、クズ親父そっくりのその行動。
「……カス野郎が……」
まったくである。ここがダンジョンならSSRにして総合評価9.5点。最強暗黒魔導士であるこの俺がフルデバフを食らわせた上で動けない所をボコボコにしてやるというのに……
……俺はいつの間にか口に出していたか?
「ウンコブリブリのクソバエ野郎が……」
いや。この声、俺ではない……イモ?!
気を失ったのかぐったり動かないハトの身体。
そっと片手で撫でるイモが立ち上がり口にする。
「いつもいつも好き放題……ヤリチンカス野郎が!」
瞬間。イモの姿はかき消え、ヤリチン3人組の背後にあった。
ビリビリビリ
薄暗い公園に光が走る。
それは電撃の光。ダンジョンで幾度も見たイモの力。
URジョブ。
「かはっ……」×3
至近から電気を浴びたヤリチン3人組、そのまま地面に崩れ落ちていた。
「クソでカスムシの貴方がたに聞こえているか分かりませんが」
倒れて動かない3人の身体をイモが蹴りつける。
ドカッ
3人組の行動に俺が親父を思い出すということは、当然、イモも思い出すというわけで……
「蹴られるというのはとても痛いものです。どうですか? チンカスさんたちも痛いですか?」
ドカッ ドカッ
イモはまだまだ蹴り続ける。
だとしても、さすがに過剰防衛。
ヤリチン連中は親父ではない上に、ここで死者が出ようものなら誤魔化しようもない。
「イモ。ストップ。そこまでにして帰ろう」
俺は荒ぶるイモに背後から抱き付き、3人から引きはがそうと力を込めようとするが──
「はーい」
力を込めるまでもなく、俺の呼びかけにイモはあっさり蹴るのを止めると振り返る。
「おにいちゃん……このハトさんどうしよう?」
先ほどまでの様相から一転、うるうる涙目で俺を見上げるイモの姿。可憐である。
「連れて帰ろう。俺のリュックにそっと入れてくれ」
自宅に連れ帰ればE級ポーションで治療できる。
ハトさんに直接危害を加えたのはヤリチン大学生だが、元はと言えば俺の撒いた餌に釣られてハトが集まったのが原因。見捨てるわけにもいかず、今さら1羽が2羽に増えたとて大して変わりはない。
それどころか怪我した野鳥の保護ならば、仮に見とがめられたとしても鳥獣保護法には反しない。俺はハトを誘拐する極悪犯から、傷つくハトを善意で助ける心優しい少年となったのだから堂々と連れ帰れるというもの。
地面に転がるヤリチン3人組もピクピク動いているなら大丈夫。帰るとするか。
しかし……
先程のイモの電撃。ダンジョンの中に比べれば威力は落ちるのだろうが……これもURの力なのだろうか。
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