第51話 当初の目的である駅併設のデパートへ向かった。

クラスメイトと別れた俺は、品川駅通路に残したイモの元へ急ぐ。


ようやく遠目にイモが見えてきたのは良いが、その近くに3人の男性が取り巻いている姿までもが見えていた。


「ういーっす。可愛い子ちゃん」

「俺らと一緒にカラオケ行こうぜー」

「ええやん。減るもんじゃねーし」


しまった。人通りの多い駅通路。イモのような美少女が暇そうに立っていたのではナンパされるのも当然といえるだろう。


「すまんイモ。待たせた」


俺は急いで男たちの脇をすり抜けイモの前へ辿り着く。


「もー。おにいちゃん。おそいー」


「まあまあ。お菓子を買ってやるから。ほら行くぞ」


「おー」


イモの手を取り、足早に歩き去ろうとする俺であったが……


「いやいや。お兄ちゃん。俺らが先に声かけたんよ?」

「抜け駆けはアカンって」


ゴールデンウイークとあって浮かれているのだろうか? 普通はナンパ相手に相方がいたなら諦めて次へ行くものと思うのだが……


「えーと。抜け駆けも何も俺たち兄妹なものでして……」


大学生だろうか? 俺より明らかにガタイの良い青年が3人。


「お兄ちゃんならさあ、いつでも会えるやろ」

「今日は俺らに妹さんを譲ってくれや。な?」

「ええやん。減るもんじゃねーし」


正直、これ以上に絡まれては俺が困ったことになる。


いくら俺がSSRにして総合評価9.5点。探索者ガチャ0.1パーセントの大当たりとなる最強暗黒魔導士とはいえ、それはダンジョンにおける話。


ダンジョンを出た現実にダンジョンジョブは影響せず、もしも今、小突かれては俺はあえなくダウンするだろう。


「もーいいから。おにいちゃん。行こーっ」


言うが早いかイモは俺の手を引っ張り走り出していた。


「はあ。はあ。イモ……足が速いな」


駅通路を走り抜け構外へ。男たちの姿は見えなくなっていた。


「それで、おにいちゃんどこ行くの?」


逃げるためにつないだイモの手。男たちのいなくなった今、つないだままでいる必要はないが、イモの手は柔らかい。


俺は手をつないだまま、当初の目的である駅併設のデパートへ向かった。


「なにここ? アウトドア用品店?」


「ああ。リュックサックを新調しようと思ってな」


従来使っていたリュックは古くなっていたこともあり、この際、一回り大きなサイズに買い替えることにする。


「……これだな。食料配達サービスが背負うようなこのサイズ」


自宅ダンジョンに転がるドロップ品を持ち帰るには、この位のサイズが便利だろう。


「でもこれ動きづらくないー? イモそんな大きいの嫌だよー」


確かにデカイ。普通は俺の体格でこのように巨大なリュックを背負って起伏の激しい洞窟を歩き続けるのは無理だが、ダンジョンにおける俺のLVは23。身体能力は大幅に強化されており問題はない。


「それに嫌だと言っても、お兄ちゃんが背負うだけだしな」


「なんだー。それなら何でも良いやー」


もしモンスターとの戦闘で邪魔となれば、いったん地面に降ろせば良いというわけで、リュックを購入。


続いてやって来たのは同デパートにあるペット用グッズの専門店。


「お! ニャンちゃんグッズがいっぱいだー」


猫は1、2を争う人気ペット。当然グッズを扱う面積は広い。


「どれが喜ぶだろうねー。悩むよー」


いや……ニャンちゃんグッズが目的ではないのだが……嬉々としてグッズを見繕うイモを前には言い難い。まあ、ニャンちゃんには今後も働いてもらうのだ。何か1つ買って帰るか。


「これだー! ニャンちゃんハウス。これが良いと思うぞー」


てっきり何か小物を見つけると思ったイモが指さすのは、屋外用の大型ネコハウス。


なるほど。考えもしなかったが確かに……

ニャンちゃんたちが洞窟で暮らすとなれば自宅が必要。気になるお値段は10万円。高い。大型で頑丈となればその位はするか……


「その、ニャンちゃんハウスはダンボールで自作できるものにしてはどうだろうか? ニャンちゃんも既製品よりイモが手作りで組み立てた物が嬉しいだろう?」


ダンボールの組み立て式となれば値段も安くなる。10万円の高級ハウスはもう少しお金を稼いでからにしたい所である。


「そっかー。うん。それじゃニャンちゃんが寝る用のクッションと……これニャンちゃんブラシ。これで毛づくろいしてあげるんだー」


あれでもないこれでもないとイモがダンボールハウスとクッション。ブラシを見繕う間に、俺はお目当てとなるペット用のえさを探し見つけていた。


イモの選んだニャンちゃんグッズ一式と一緒に購入。荷物が大きなため自宅への配送を手配し、デパートを後にする。



イモと2人。次に訪れたのは駅近くの公園。


出店するキッチンカーからお弁当を購入。行楽日和とあって賑わう中、運良く空いているベンチに座り昼食とする。


「ポカポカで外で食べるの気持ち良いねー」


食べ残しを狙ってか公園には複数のハトがたむろする。

人が近寄ろうとも恐れる様子も逃げる様子も見られず地面に落ちた餌をついばむその姿は、すっかり都会に馴染んで見える。


俺は買ったばかりの新型リュックの大きさとハトを見比べる。


サイズに問題なし。だとしても周囲にこれだけ人がいてはな……先にイモの用事を済ませるか。


「イモは何か観たい映画はあるか?」


「お? 次は映画? それならー」


俺たちは海外産3DCG映画を堪能した。子供向けと侮っていたが、うまく感動させるものである。その後もイモの服を買ったり、クレープを買い食いするうちに時刻は夕方となっていた。


「それじゃイモ。最後にもう1度公園に付き合ってくれないか」


俺たちはすっかり薄暗くなった公園を再度訪れる。行きかう人の姿もまばらなら、餌を求めてうろつくハトの姿もまばらである。


さて……どれにするか。


街灯の明かりの下。公園をちょこまか歩き回るハトを追いやる俺の目に、1羽の真っ白なハトが目に入る。


「うわー。綺麗なハトだよ」


珍しいな……


一般的に公園で見かけるドバトは灰色であるが、稀に白色となる変種が誕生する。いわゆるアルビノ。しかし、目立つ白色は害獣にとって格好の標的となり、自然界では長生きできないという。


そうだな。どうせ早死にするのであればアイツにするか。


「ねえ。ねえ。おにいちゃん。餌をあげてもいい?」


そう言ってお菓子を取り出すイモであるが、駄目である。


ハトは害獣。ではないが、いたずらに数が増えては糞尿被害が拡大する。公園での餌やりは推奨される行為ではない。


が、今回だけは特別である。


「いいぞ。ほら。この餌を使うと良い」


俺はペットショップで購入したハト用の餌を差し出した。


「えー? おにいちゃん何でこんなの買ってるのー?」


イモがニャンちゃん用グッズを見繕う間、俺が探していた餌がこのハト用の餌。


「よーし。ハトさんハトさん。こっちだよー」


イモが餌を手にハトに近寄ると、周囲のハトたちは何の警戒もなく地面に撒かれた餌をせっせとついばみ始めていた。


ハトたちが餌に夢中となる隙に、俺は買ったばかりの大型リュックを取り出しその口を開ける。


「……? おにいちゃん?」


周囲に人目のないことを確認した俺は、背後から手早く白ハトに近づき捕まえリュックに放り込むとチャックを閉めた。


「えー……」


残されたハトたちは地面の餌に夢中。仲間のハトが1匹消えようともまるで気にせずエサをついばみ続けていた。


「イモ。帰ろうか」


そっとリュックを背負い直した俺はイモに声かける。


「ハトさん……勝手に持って帰って良いのかなー?」


駄目である。が、良いのである。


「公園にハトは多い。1羽や2羽いなくなった所で誰も気にはしない。それどころか糞尿被害が減ったと喜んでくれるだろう」


「そっかー。それなら大丈夫だねー」


実のところ全く大丈夫ではない。


許可なく野鳥を捕獲するのは鳥獣保護法に反する行為。よって俺は見つからないよう、リュックに隠して持ち帰るのである。良い子は決して真似しないよう注意してもらいたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る