第50話 今日はダンジョンの前に買い物につきあってくれないだろうか?

GWの火曜日。祝日。


翌朝。イモの部屋で目覚めた俺だが……妙にお腹が重い。何故かと見ればお腹の上にニャンちゃんが1匹乗っかり眠っていた。


まあ、それは良いのだが……なぜに床で寝ていたはずの俺が、毎回イモのベッドに入り込んでいるのか? 俺の寝相にも困ったものである。


─────────

■暗黒魔導士改(SSR+) LV23 2↑UP


・スキル:暗黒の霧+

(五感異常、全能力減少、毒、腐食、MP減少、MP蒸発、恐怖、麻痺、睡眠、混乱、放心、封印、暗黒火傷、闇耐性減少、光耐性減少)


闇耐性減少(New)闇属性の攻撃に弱くなる

光耐性減少(New)光属性の攻撃に弱くなる


・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃:暗黒熟練

・EXスキル:プリンボディ:ゴムボディ:鋭利歯:偽装:牛パワー:超音波

─────────


ダンジョンに撒いた暗黒の霧が功を奏したようで、寝ている間に俺のLVは2上がっていた。


「おにいちゃん。おはよー」


イモがにっこり笑顔で目を覚ます。


俺が一緒のベッドで寝ているにもイモは平常運転。ならば……まあこれで良いか。兄である俺が変に意識するのもおかしな話。


「おはよう。イモはLVは上がったか?」


寝ている間にモンスターを退治しているのは俺の暗黒の霧だが、パーティメンバーであるイモ、ついでにニャンちゃんたちにも微量の経験値が分配される。


「お? おおう! 凄い! イモのLV30なってるよー!」


マジかよ?! いつの間に……いや、当然か。


俺が品川ダンジョンに行っている間、イモは自宅ダンジョンにこもっていたのだ。黄金モンスターによる圧倒的効率の自宅ダンジョン。俺と差が開くのも当然である。


「にゃん」「にゃー」「なー」


3匹のニャンちゃんも朝から元気いっぱい。朝ご飯を求めてダンジョンへ飛び込んでいってしまった。


「イモたちもダンジョンへ行こうよー」


「まあまあ。イモよ。今日はダンジョンの前に買い物につきあってくれないだろうか?」


「お? デート? おにいちゃんとデートだー!」


兄妹だからデートではないが、せっかくイモが喜んでいるところに水を差す必要もない。


「それじゃイモ準備するねー」


まだ俺がいるというのに、そそくさパジャマを脱ぎだすイモ。やれやれ……イモはいつまでも子供で困ったものである。


俺は紳士のマナーとして薄目で見るにとどめ、イモの部屋を後にした。



自室で服を着替えた俺はイモとそろって電車に乗ると、品川駅へやって来た。


「おにいちゃん。どこ行くのー? 映画? 遊園地?」


俺は買い物と言ったのだが……イモが希望するなら買い物の後で映画に行くのもやぶさかではない。


「その前にちょっと待っていてくれ。お金をおろしてくる」


「あーい。でも、おにいちゃんカード持ってたっけ?」


「ここにあるのだ。この探索者カードがな」


駅通路にイモを待たせた俺は駅地下にある品川ダンジョンへ。残念ながら探索者でないイモは中には入れない。


まだまだゴールデンウイークまっさかり。ダンジョン入口ロビーに人は多いが、受付に並ぶ人はそうでもない。少しの待ち時間で俺はカウンターまで辿り着く。


「いらっしゃいっす。本日はどのようなご用件っすか?」


「これの換金をお願いします」


探索者カードと一緒に自宅から持ち出した魔石80個をカウンターへ提出する。


チャリーン


しめて現金4万円。これが本日の軍資金となる。


3527万5312位 → 2987万3233位:城 弾正


「お客さんやるっすねぇ。3000万以内に入ったっすから、国から補助金が出るっすよ」


補助金か。探索者講習で聞いてはいるが……


「ちなみにいくらぐらい貰えるのだろうか?」


「年額にして2400円っす」


つまりは月額200円。うむ。ショボい。確かに無いよりはマシであるが、役所へ手続きに行く手間を考えれば微妙である。


「参考までにランキング1位だといくら位になるだろうか?」


「1位だからって特別な報酬はないっす。そもそも日本人が1位なんて無理っすからね。ランキング1万位に入れば満額支給で年額12万円っす」


「うーむ……ショボイっすね」


国はダンジョン探索に力を入れる気がないのだろうか? と思いきや、ロビー内の各処には「来たれ若人探索者!」といったポスターが幾枚も貼られていたりする。やる気があるのか無いのかいったいどちらなのか……


「政府与党は協力的なんすけどね。野党はモンスターを殺す野蛮な暴力行為に補助金を出すな! といった反対が多くてっすね」


「あの。長くなりそうなら別に結構ですので……」


「そっすか? でもっすよ。最近では日本市民がダンジョン近くにまで、プラカードを持ち寄りデモをするようになってっすよ?」


「いえ。もう結構ですので……」


その後もペラペラと口の止まらない受付嬢を引きはがし、俺は何とかかんとか受付を後にする。


「ういーっす。城やんけ」

「お前もダンジョンけ?」


換金を終えて受付を離れた所で、俺の姿を見つけた同年代の男子3人から声がかけられた。


誰かと思えばクラスメイトの……誰だっけ?


「ワイは助田すけたや! SSR聖騎士の助田や!」


そうだ。助田と連れの男子2人。2日前にダンジョンジョブを獲得したばかりで、もうダンジョンに来たのか。俺と同じようにお金に困っているのだろうか?


「なんやネットで調べたんやけど、ワイの聖騎士ちゅうのは凄いらしいやんけ? せやから、いっちょダンジョンで試そう思うてな」


未知の力を試してみたいその気持ちはよく分かるが……


「その、助田。探索者講習で聞いたと思うが、あまり自分のジョブは言いふらさない方が良いそうだぞ?」


「お? そうなんけ?」


せっかくのSSR。気持ちは分かるが、それでは宝くじに当たったと隣近所に吹聴するようなもの。やっかむ人も出て来るだろうから、やはり危険がある。


「ちょりーっす。城っちやん」

「ども久しぶり」

「ちょっと。なんでまたクラスの男子がこんな場所に?」


続いて誰かと思えばクラスの女子3人組。彼女たちもダンジョンに来ていたのか。


R剣士の佐迫させこさん。

SR強化魔導士の只野ただのさん。

N学徒の賀志古かしこさん。


つい先日、一緒にダンジョンへ入ったばかりの仲だから当然に覚えている。


「ちょうどええやん。みんな一緒にダンジョン行こうや」

「マジー? うちらを守ってくれるって感じ?」

「ワイに任せとけ。なんせSSRの聖騎士やで」

「そうだね。せっかくだし一緒に行こう」


3人とはいえ女子だけは危険。確かにその方が良いだろう。本来なら俺もクラスの女子と仲良くダンジョン探索を楽しみたいところだが……今日はイモと買い物の後は自宅ダンジョン。泣く泣く諦めざるをえない。


「すみません。みなさんこれからダンジョンね?」


学生6人ワイワイガヤガヤする中、突然に俺は背後から少女に声をかけられた。


「お、お、おう。せやで」


声をかけられたのは俺だが、なぜか俺に代わり裏返った声で答える助田。


振り返ってみれば……なるほど。助田の声が裏返る気持ちも分からないではない美少女がその場に立っていた。


異国の少女だろう金の髪色。そして身長170はあるだろうか? スレンダーながらに盛り上がった見事なプロポーション。さらには裾にスリットの入ったスカート姿がおよそダンジョンに似合わず艶めかしい。


「すみません。急に話しかけたね。私も探索者になったのですが、ロビーまで来て1人でダンジョンへ入るのが怖くなったね……」


ここに居るからには探索者なのだろうが、少女が恐れる気持ちもよく分かる。荒くれ者も多く暗がりも多いダンジョン。モンスター以前に美少女が1人で来るような場所ではない。


探索者になりたての素人だろうか? 


「お待ちなさい。貴方、外国の方ですよね? 探索証はお持ちですの?」


「大丈夫ね。エ連から移住した今はジャパン国籍ね」


エ連の人は長身美人が多いと噂で聞くが、どうやら本当だったようだ。


「そ、それならワイらと一緒に行かへんか?!」

「うん。一緒に行こうよ」

「モデルかなんかやってんの? ちょー綺麗」


「嬉しい! ご一緒するね! よろしくね。よろしくね」


お礼のつもりか律儀に1人1人の手をとり頭を下げて回る美少女。


「でへへ……よ、よろしくやで」

「うひょー」

「ええ匂いや」


例え見ず知らずの他人であっても、美少女が不幸となる姿を見たくはない。同行するのが助田だけなら不安であるが、クラス女子も一緒なら大丈夫だろう。


「よろしくね」


俺の前で立ち止り、笑顔で右手を差し出す美少女。


美少女ならイモで見慣れているため、俺の声が裏返ることはない。俺もまた笑顔でその手を取り握りしめる。


「こちらこそよろしく」


さすがに美少女なだけあって、その手も柔らかい……と思いきや微妙に硬い気がするが……なんだ? まるで剣ダコか何かに思えるが……?


っと。これ以上のんびりしてイモを待たせるわけにはいかない。美少女の手も握ったことだし、俺はここらでお暇するとしよう。


「みんなごめん。俺は妹と買い物の約束があるから、これで失礼する。がんばって」


「ええっ!?」


クラスメイトの6人に伝えたつもりが、目の前の美少女は大口を開け驚いていた。


いや。そんな驚くようなことだろうか? 俺がいなくても6人が一緒なら危険もないだろう。


「マジー? 付き合い悪すぎって感じー」

「せやせや。と言いたいが、ライバルが減るなら大歓迎や」

「後はおいらたちにまかせて、とっとと帰るっす」


ということのようで……お邪魔虫はとっとと消えるとしよう。握手を終えてその場を離れようとするが……


「あの、あの。あなた。城 弾正は一緒に行かないね?」


美少女は俺の手を離すまいと必死に握り訴える。

……俺はいつの間に自己紹介したのだろうか?


「残念ですけど城さん。また今度ですわ」

「妹さんによろしくね」


そうか。クラスメイトが俺の名前を呼んでいたか。しかし異国の美少女。見た目に反して痛いほどに力がある。


「大丈夫や。経験者の城がいなくなるのはアレやけど、ワイはSSRの聖騎士やで」


「ええっ!? 聖騎士ってSSRにして総合評価10.0点の聖騎士ね?!」


再び大口を開けて驚く美少女。

握っていた俺の手を放り捨てると、助田の元へと走り寄る。


「あの。あの。あなたが聖騎士って本当ね? 本当はあなたが城 弾正ね?」


「違うで。ワイはSSR聖騎士の助田や。ワイが君を守る」


よく分からんが……俺はとっととイモの所へ戻るとしよう。

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